 |
人吉・球磨エリア
|
| “急流”球磨川、清流の誉れ高い川辺川、水の清れつさでは随一の万江川。人吉・球磨の急峻(しゅん)な山々を刻む球磨川・川辺川水系の名川にはアユやヤマメの大物が潜む。そしてそこに程近い“知る人ぞ知る”ポイントには大量のごみも潜んでいる。名川の深い懐はごみなど簡単に覆い隠す。がけ下に投じて視界から消えれば罪悪感も薄まるのか。不法投棄者よ、自然に甘えるな。 |
|
 |
山奥まで投棄のツメ跡 |
 |
山間地のごみ事情
“拾う人”は怒っている |
人吉保健所の調べによれば、人吉・球磨管内で確認されたごみの不法投棄は平成十六年度が十五件、十七年度が四件、十八年度が六件だった。内訳は十六―十八年度の順で、産業廃棄物が十三件、一件、四件、一般廃棄物が二件、三件、二件で推移。事業活動から生じる産業廃棄物は建築系廃材(がれきや木くずなど)やタイヤ類が目立ち、それ以外の一般廃棄物は引っ越しで置き去りにされる家財道具が多いという。
産業廃棄物の投棄が平成十七年度に激減した理由を同保健所は「法規制や監視の強化が功を奏したのでは」と見ている。今では産廃のリサイクル率は格段に向上したが、処理費用惜しさに不法投棄に走ったり、埋め込んだりする事業者が少数ながら見られるようになった。
一般廃棄物は年間わずか二、三件と少ないように映る。しかし、ここに挙がった件数は、保健所や自治体が現場を確認し、処理に関与した大規模投棄のみ。「テレビなどの単体の投棄は多数ありますよ」と同保健所は漏らす。
周囲を奥深い山に囲まれた人吉・球磨地域は、“捨てる人”にとって絶好のロケーションだ。“人目を避けて捨てる”という不法投棄のセオリーがぴしゃり当てはまる。投棄ポイントはそれこそ無数。これまでにも悪質な投棄行為が繰り返されてきており、愚行に終止符が打たれるめどは立っていない。
ただ、街中では自治会などを中心とした地域住民の清掃作業が水際となっている。その一例が「人吉市衛生員連合会」だ。全町内会長で組織される同連合会は年に四回、校区単位で不法投棄の調査・回収を行っているほか、住民にはごみの減量を呼び掛けている。このような自主活動が抑止効果となり、大掛かりな投棄がはばかられるムードを醸成しているのだろう。
“捨てる人”あれば“拾う人”あり。“拾う人”たちの懸命の努力は周囲の山や川にも広がっているが、不法投棄は一向になくならない。“拾う人”の大半は怒っている。「いい加減にやめたらどうだ!」。今、人吉・球磨の山河にはそんな叫びがこだましている。 |
|
|

九州自動車道・万恵第二トンネル付近の高架下は“知る人ぞ知る”スポット

球磨川沿いを走る国道219号の「高花の瀬」駐車場のがけ下に散乱するごみ

渓流にうち捨てられた索道用のワイヤーロープの大半は川底に埋まっている |
|
「ごみ持ち帰りは簡単」
大人が子どもの手本に
「川辺川川がき塾」塾長 鮒田一美さん (51)
「大物ポイントの近くにも、ようごみの捨ててあっとたい」
と苦笑する鮒田さん |
|
|
 |
|
球磨郡相良村で川魚料理店を営む傍ら、プロの漁師でもある鮒田一美さん(五一)は、球磨川・川辺川水系を隅々まで知り尽くす。
その広い知識は源流地帯やあまたの支流に通い詰めて培われたが、場数を踏むほどに至る所で“恥部”も目にしなければならない苦痛を味わった。
「どぎゃん山奥の沢に入っても、道のあるところにゃ必ずごみの捨ててあるけんね」
空き缶やペットボトル、弁当の容器から家電製品、廃棄車両、産業廃棄物まで、数多くの“恥のかき捨て”を目撃してきたという。
山深い場所にごみが捨てられるようになった原因は「あちこち林道のでけたけんたい」。人跡未踏の地に車が入るようになった代償が人為的な環境破壊というわけだ。
その一例が「上流部にうしててある索道」だと鮒田さんは指摘する。索道とは切り出した木を搬送する空中を渡したワイヤーロープだ。使用済みのものが束ねて放置されていたり、地面や川底に埋まっていたりするという。
鮒田さんはヤマメやアユの宝庫である人吉・球磨の清流が濁り、水量が減少しつつあることを憂う。投棄されたごみが河川の衰退に直接影響を及ぼしているとの確証はないが、自然にとってはいつまでたっても異物でしかないのも事実。
「川辺川川がき塾」塾長、「球磨川水系ネットワーク」のメンバーなど多数の肩書きを持つ鮒田さんの行動原理はただ一つ。人吉・球磨の清れつな川を維持し、未来に継承することだ。
「こぎゃん貴重な財産ば自分たちの時代で台無しにはでけん。川に来る人には自分の古里と思うて来てほしか。そしたら無造作に捨てられんはず。まずは大人がきちんとして、子どもたちの手本にならんばね」
鮒田さんの言いたいことは実にシンプルだ。「ごみば持ち帰るとは簡単ですけん」 |
10年の努力も効果なし
投棄者には罰則適用を
「球磨川ラフティング協議会」会長 迫田重光さん (40)
「球磨川のイメージを損なわないためにも
頑張りますよ」と語る迫田さん |
|
|
 |
|
「球磨川ラフティング」のパイオニアである迫田重光さん(四〇)が球磨村でショップを始めたのは十五年前。今や“日本三大ラフティング場”の一つとして知られるようになったが、ここまでの道のりには絶えずごみ問題が立ちはだかってきた。球磨川のコースは人吉市・天狗橋から球磨村・高花の瀬まで。距離にして十三―十四キロのこの区間には国道219号が走り、道路沿いに点在する駐車場近くがごみの投棄ポイントとなっている。
中でもひどい状況を呈しているのは二俣の瀬と高花の瀬の近辺だ。二俣の瀬は量が多く、飲食の残骸(ざんがい)、家電製品、タイヤなどさまざま。一回の回収量が三トンに及んだこともある。高花の瀬では、肥料袋にびっしり詰められた鉄くずが定期的に捨てられている節があるという。
迫田さんが自社で清掃活動を始めたのは十年前。「川への恩返しの気持ちもありましたが、見るに見かねて」のことだった。“拾う人”となった迫田さんらの活動は「球磨川ラフティング協議会」の発足を機に拡大。今では春と秋に二回、三十人程度で実施している。回収したごみの処理では球磨村や国土交通省の協力も取り付けた。「今は関係者が中心ですが、住民レベルまで広げて一人一人で注意できる仕組みにしたいですね」と迫田さん。
しかし、“捨てる人”はしたたかだ。「十年やっても一向になくなりません。ばかばかしいと思うこともありますよ」とむなしさも募る。本音は罰則の適用だ。「投棄者には三十万円の罰金を科し、通報者に十万円を謝礼として支払う。残りの二十万円はごみ処理費用に充てるのです」。これを直接、行政に進言したこともあるという。
「実現は難しいでしょうが、どこかの自治体が先例でもつくってくれれば…。とにかく清掃活動は続けますよ」。迫田さんらの“闘い”は今なお続いている。
|
|
|
 |
“自然”に甘えるな!! |
 |
|
高速の下は“ごみの山”
村の誇り 万江川守れ
「万江川を愛する会」事務局長 山口美敏さん (54)
「万江川の水は森がはぐくむので、今はシカの被害が
一番の悩み」と話す山口さん |
| |
|
 |
|
今や人吉・球磨随一の清流とも言われる万江川。“万江”の命名の由来は「至る所に水が湧出する源がある」からだ。山江村民の誇りであり、心のよりどころとなっている。
「万江川を愛する会」は、そんな万江川の美しさ、豊かさを後世に受け継いでいこうと意気投合した有志の緩やかな集まりだ。事務局長を務める山口美敏さん(五四)は、「万江川源流水リレー」の話になると自然と顔をほころばせた。同会が平成十三年から始めたこのイベントは「万江川の源流からくんだ水を老若男女がリレーで球磨川の合流点まで運ぶもので、同時に川のごみ拾いもやるんですよ」
源流水は万江川以外からもリレーで運ばれ、最終的には球磨川河口で海に流される。環境美化を兼ね、山と川と海のつながりを参加者に実感してもらう取り組みだ。
万江川の清掃では例年、軽トラック二、三台分のごみが集まるという。「毎年、拾ってきましたのでだんだん少なくなってきたようですが、やはり投棄行為はなくなりませんね」と、ほころんでいた表情もやや曇り気味になった。
飲食に伴うごみが目立つのは、夏場にキャンプができるような場所だという。
また、高速道路の高架下を走る旧県道や林道、作業道路など人目につかない場所には、テレビや洗濯機などの家電製品、建設廃材といった大型の廃棄物が捨てられていることが多いとも。
「ごみを捨てる人の気持ちは分かりませんが、誰かが捨てていたら、自分も捨ててよいと思うのでしょうか」。それを防ぐためにも、山口さんたちは拾っているのだ。
「しかし、捨てる大人に言って聞かせても無理。だから子どもたちを源流水リレーに参加させて、ごみが落ちていたら自然に拾うように仕向けているのです。拾う人は捨てなくなりますからね」
|
|
|