メディカルインタビュー 脳神経内科編

脳卒中を発症した後に、手足にまひが生じる、筋肉が硬くなるなど、後遺症に悩む人は多いと思います。リハビリと並行して、現在保険適用のボツリヌス療法を行うことで、症状を和らげる効果が期待できるそうです。

─ボツリヌス療法とは。

小原 ボツリヌス菌と聞くと、食中毒などの怖いイメージがある人もいると思います。しかしこの治療法は、ボツリヌス菌をそのまま使った治療ではなく、ボツリヌス菌が作り出すボツリヌストキシンというタンパク質を成分とする薬を、直接筋肉に注射することで、筋肉を緊張させている神経の働きを抑え、筋肉の緊張を和らげるというものです。2010年に保険適用となり、多くの患者さんに治療法の一つとして選ばれています。

─どのような症状に効果が期待できますか。

小原 例えば、脳卒中や脳出血を発症すると、手足にまひが生じるほか、筋肉が硬くなる痙縮(けいしゅく)という機能障害が残る人がいます。中には、半年~1年かけて、徐々に痙縮が出てくる人もいます。痙縮が起こると、握った指が硬直して開かなくなる、開こうとすると痛みを生じる、筋肉が固まり関節が動かないため着替えができない、足が内側に反ってしまい歩きづらくなる―など、日常生活に支障を来してしまいます。これでは患者さんのQOL(生活の質)が低下するだけでなく、介助する方の負担も大きくなります。これまでは、このような後遺症が起こった場合は、服薬治療が中心でした。しかし全身の神経の働きを抑えてしまうこともあり、効果的な治療に結び付かないケースもありました。このボツリヌス療法は、直接筋肉に注射するため、患者さん一人一人の筋肉の状態を部位ごとに観察し薬の量を調整します。体への負担は最小限にしながら、効果を生み出すことができます。また、脳卒中以外に、脳性まひや筋肉の異常で首が傾いたり反ったりする痙性斜頸などの治療にも効果が期待できます。

熊本託麻台リハビリテーション病院 診療部長 小原健志氏 日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション科専門医・指導医

─リハビリと並行するとさらに効果が上がるそうですね。

小原 注射は3~4カ月に1回ほどです。まずは実施した日に、リハビリを行います。早く関節を動かし、筋肉を緊張させることで、薬の成分が取り込まれやすくなるという性質を用いたものです。また、患者さんは通所で機能訓練をする人や、自宅で自主訓練をする人などさまざまです。一人一人に合ったリハビリ法などもお伝えし、継続治療を行います。脳卒中などを発症した後で、体が突っ張る、関節が動かなくなったという悩みを抱えている人は、我慢するしかないと諦めず、専門の医療機関に相談してみることをお勧めします。