メディカルインタビュー 神経内科編
認知機能や運動機能に異常が見られないのに、突然、一定期間の記憶がなくなる一過性全健忘症。詳しい症状や原因などを専門の医師に聞きました。
─認知症ではなく、ある日突然、一定期間の記憶がなくなる人がいるそうですね。
西村 まひや言葉のもつれなどの身体症状が見られず、意識状態も正常なのに、一定期間の記憶が抜け落ちて、思い出せないという人がいます。周りから見ると、いつも通り作業をしていて、日常生活で困っている様子がないため、なかなか気付かないことが多いようです。しかし時間がたつと、本人の記憶が正常に戻ります。その段階で、ある一時の状況が思い出せず、「今、自分は何をしていたか」「どんな様子だったか」と尋ねるなど、不可解な言動をきっかけに、受診されるケースが多いようです。
─認知症とは明らかに違うのでしょうか。
西村 認知症の場合、急に記憶がなくなるというよりは、昔のことは覚えているけれど、「昨日の夕食は?」など、時間があまりたっていない数日前のことを少しずつ思い出せなくなるという経過をたどります。しかし一過性全健忘症は、ある日突然、一定時間だけの記憶がなくなり、その後はまたいつも通りに過ごすケースがほとんどです。認知機能に問題はなく正常なため、複雑な会話や細かな作業も普段と変わりなくできます。もちろん、運動機能も正常に保たれています。
西村内科脳神経外科病院 理事長・医師 西村 振一郎 氏
─どのような原因が考えられますか。
西村 脳の海馬という記憶をつかさどる部位に血液が十分行き渡っていない、一時的な虚血が考えられます。また、MRI検査をしてみると、軽い脳梗塞を発症していることもあります。脳梗塞を発症している場合は、血液をサラサラにする点滴や飲み薬で治療を開始します。さらに高血圧など生活習慣の見直しが必要な人には、食生活も含めた指導を行います。しかし、脳梗塞を発症していない場合は、経過観察になります。また、てんかんでも似たような症状が見られることがあり、この場合は、脳の血流や脳波の検査を行います。いずれの場合も年齢は関係ないといわれていますが、中高年の発症が多いようです。
─繰り返し発症する人もいるのですか。
西村 何度も繰り返すという人は少ないですね。ただ2回以上症状が現れた人には、てんかんを含め、他に異常がないか精査が必要となります。突然記憶がなくなるなど、いつもと違う様子が見られたら、一度専門医の検査を受けておくと安心ですね。
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