乳がんは、日本人女性が最も多く発症するがんで、その中には「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれるものがあります。遺伝性乳がんの特徴や対処法、治療法などについて、くまもと森都総合病院副院長の西村令喜先生に聞きました。

─遺伝性乳がんとは?

がんの発症に関係するものとして、大きく分けて環境要因と遺伝要因があります。親から受け継いだり、生まれつき持っていたりする遺伝要因が、がんの発症に強く関わっている場合を遺伝性のがんといいます。乳がん・卵巣がんの5〜10%は遺伝性のがんと考えられており、その代表的なものが「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」です。

─HBOCの特徴は?

生まれつきBRCA1とBRCA2と呼ばれる遺伝子のどちらかに変異があり、乳がんだけではなく卵巣がんも発症しやすいことが分かっています。40歳未満の若い年齢で乳がんを発症しやすく、両方の乳房にがんを発症したり、片方の乳房に複数回がんを発症したり、ホルモン療法や分子標的薬の効果が期待できないタイプのトリプルネガティブの乳がんが多かったりするという特徴があります。乳がんや卵巣がんだけではなく、前立腺がんや膵臓(すいぞう)がんなどにもなりやすく、男性が乳がんになる場合もあります。(※表参照)。

─HBOCかどうかを調べるにはどうすればいいのですか?

まずは「遺伝カウンセリング」を受けることをお勧めします。遺伝カウンセリングでは、医師や遺伝カウンセラーが、本人や家族の健康状態などについて聞き取りを行い、HBOCになる可能性について評価します。その上で、遺伝子検査を受けるかどうかを相談していきます。遺伝子検査では採血によって、BRCA1・2遺伝子の変異があるかどうかを調べ、変異がある場合はHBOCと診断されます。BRCA1・2遺伝子の変異が親から子どもへ伝わる確率は、男女関係なく約50%です。ただし、遺伝子変異を持つ人が全て乳がんや卵巣がんを発症するとは限りません。遺伝子変異がある場合、一生涯で乳がんを発症するリスクは50〜85%、卵巣がんは10〜50%です。

─HBOCと診断された場合の対処法は?

がんの早期発見・早期治療、予防につなげるために、早い時期から継続的に検診を受けることが大切です。予防的に乳房の切除や、卵巣・卵管を摘出する方法もあります。また、遺伝性のがんに効く新薬が、今年4月に卵巣がんの治療に、7月には乳がんの治療に保険適用されることになり、さらに遺伝子検査も同じく7月に保険適用となりました。新薬、遺伝子検査の保険適用対象は、再発乳がんで抗がん剤治療がすでに済み、まだがんの進行が見られる人です。治療の選択肢が広がったことで遺伝子検査を受ける人が増え、当院では遺伝子検査数が保険適用前は3年間で6件でしたが、保険適用後は3カ月で30件を超えました。HBOCの特徴(※表参照)のどれか1つでも当てはまる場合は、まずは気軽に遺伝カウンセリングを受けてください。県内で遺伝カウンセリングと遺伝子検査を行っている施設は、当院のくまもと森都総合病院と熊本大学医学部付属病院です。

くまもと森都総合病院 副院長 西村令喜医師

くまもと森都総合病院 副院長 西村令喜医師