親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。

生活を整えることは 自分を大事にすること

「明日生ごみの日だよー!忘れないようにねー!!」。自立支援シェアハウスIPPOでは、たまにそんな声掛けが響きます。

ごみを捨てるということ

育った施設や親元を離れ、自立を目指す若者たちがぶつかる壁…その一つがごみ捨て。親を頼れない若者たちは、施設の集団生活の中で自分でごみを捨てたことがなかったり、そもそもごみを捨てない家で育っていたり、気持ちが不安定で片付けが苦手だったりと、育った環境や状況がバラバラ。シェアハウスにやってきて、まず「なんでごみを捨てなきゃいけないのか」という説明から生活をスタートさせることもあります。

特にネグレクト(=育児放棄)を体験している子の中には、部屋が散らかっていたり、ごみだらけになっていたりしても、全然気にならない!という子もいます。むしろ、「ごみがないと落ち着かない」なんて子もいるほどです。多種多様な家庭の事情を抱えた若者たちが「ごみ捨てをきちんとできるようになる」というのは、簡単なようで大変な仕事なのです。

イラスト さいきゆみ

自分の感情を通じて学んでいく

IPPOでは自分のごみは自分で捨てるのが基本のルールです。といっても、10代の若者がいきなり完璧にできないのは当たり前。入居当初はあっという間に部屋がごみ屋敷のようになる子もいます。

若者が大好きなきれいなゲームの世界とは違い、自分でやらなければどんどん汚れていくのがリアルの世界。放置すればごみはたまり、部屋も狭いし虫もわく…。「ごみ片付けなさい!」と叱ることは簡単です。でも私はあまり手を出さないようにしています。「うげっ!」とか、「やだなぁ」という自分の感情を通じて学んでいく―。このリアルな体験に勝るものはないと思うからです。

生活を整えていくことは自分を大事にすることでもあります。小さな失敗と成功を積み重ねて、少しずつ生活力を身に付けていってくれたらいいなぁと思います。

価値観の上書き

育った環境が、「ごみ屋敷だった」という若者がたまにいます。そのような背景を抱えてやってくる子には、生活を整える前に、まず価値観の整理や、必要に応じて価値観の上書きをしていかなければいけません。ごみに囲まれて育った子にとっては、それが「普通」です。そして自分にとって「普通」が「普通ではない」と受け入れるには、すごくエネルギーが必要なことがあります。それは同時に、自分の親や、自分が育った環境が客観的に見たら「普通ではない」ということを突き付けられる瞬間でもあるからです。

虐待やネグレクトを受けて育った若者は、自分の経験が「普通ではなかった」ということを、なかなか受け入れられないケースも多くありますし、受け入れるためにはある程度の時間が必要な場合もあります。私たちは誰だって、自分が育ってきた環境や親、家、友達を批判されてうれしい人はいません。だからこそ、その子の過去の環境や価値観を否定するのではなく、時間をかけて価値観を整理し、少しずつ新しい価値観を上書きする機会を与えることが大事なのではないでしょうか。「これまでどうだったか」ではなく、「これからどうなっていきたいか」に目を向けることができるように、寄り添っていけたらと思います。


PROFILE
山下 祈恵

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/