親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。

クリスマスの季節ですね。
トナリビトでは一昨年から、ある方から頂くケーキをクリスマスイブの夜に、つながりのある若者たちに届けて回るのが風物詩になっています。普段はなかなか会うことのできない若者たちに、この日は車にケーキを積んで会いに行きます。

ケーキを受け取った若者たちの笑顔ももちろんですが、一番うれしいのはその子に会って話せること。

シェアハウスや居場所スペースにいる若者以外にも、SNSなどでつながり続けているものの普段会えない若者がたくさんいます。
「今度遊ぼう!」とか「今度一緒に飲みに行こうよ!」なんて話をしたまま、次の機会がなかなかやってこないこともあります。
だからこそ、その子が会ってもいいかな、と思ってくれたタイミングで顔を見て、話ができる時間は、短くてもとても大切なのです。

イラスト/さいき ゆみ

イラスト/さいき ゆみ

そしてこの「その子が会ってもいいかな、と思ってくれたタイミング」を逃さないというのは、簡単そうで難しいミッション。
大人はついつい自分の都合でタイミングを決めてしまいがちですが、若者たちには彼らなりの「今!」があります。
私たちも若者たちと過ごす中で、この「今」をつかみ損ねてしまうことがたくさんあります。

また、その日暮らしのような生活を送っている若者にとっては、先の予定を決めるのはすごくハードルが高いことでもあります。
特に今しんどい思いをしている子は、「また来週話そう」とか「次行こう」は求めていなくて、「今聞いて!」「今一緒にいて!」ということがよくあります。

置かれている状況や感情のアップダウンがすごい速さで変わっていく若者たちの日常に寄り添うには、若者の「今!」に「はい!」と応える瞬発力も不可欠だと日々感じています。

以前こんなことがありました。

深夜2時に、警察署からある若者を迎えに来てほしいと電話が入りました。
私はトナリビトの男性メンバーと一緒にその子を迎えに行き、3時くらいに警察署を出発しました。
警察から連絡が来た理由もまだ分からない中、私の頭の中には、「眠いなぁ。今日はもう遅いし、一旦帰って明日ゆっくり話を聴こう」という思いがあったのですが、若者が「あー、腹減ったー」と言うのに対して、男性メンバーが突然「よし!ラーメン食いに行くか!」と言うではありませんか。
「えーっ!やめてよ、今の時間に開いてるラーメン屋なんてないでしょー」と私が言うと、「いや、深夜まで開いてる久留米ラーメンが福岡にあるから」と…。
「噓でしょ」と一瞬思いましたが、「まぁ、それもいっか」と福岡まで車を走らせ、朝5時に3人で久留米ラーメンを食べました。

その行き帰りの車の中で若者は、今回の経緯や、これまで私たちが知らなかったその子の話をたくさんしてくれました。
その若者の話を聴きながら思ったのは、きっと私が「明日、改めて教えてね」と言っていたら、この話は今後聞く機会がなかったかもしれないなぁ、ということでした。

その子が話したい、今なら話せる、と思った時に聴く、というのはいつでもできることではないかもしれません。
でも、若者の話を聴くのに、場所も時間も関係ありません。若者が開いてくれたドアに、そのタイミングで飛び込んでいける大人になれるといいなぁと思います。

クリスマスケーキを渡しに行くときも、ちゃんと時間を取って、ゆっくり受け渡しができることなんてほとんどありません。

去年も、「今○○にいる!」と若者からSNSで返信が来た5分後に、「ちょっとケーキ渡しに行ってきます!」と車で飛び出していきました。
繁華街の道沿いに車を停車して、飲みに行く途中の若者にケーキを渡すこともあります。
会って話せる時間は2、3分のときも。
でも、「元気だった?」「この服似合ってるね!」「お店今日どこいくの?」「楽しんでね」…。
ほんの数分の間でも、たくさんの会話を詰め込んでしまいます。
手を振って去って行く若者の背中に「またいつでも連絡して!待ってるよ」と声をかけながら、こうやって日常の中で交差する瞬間がとっても愛おしいなぁと感じています。


PROFILE
山下 祈恵

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/