【590号】コロナ禍を生き抜く 挑戦する飲食店

新型コロナ感染症拡大の影響で外食需要は低迷、飲食店は苦しい状況が続いています。そんな中、この状況を打開するために、業態を変えて新たなチャレンジをする飲食店が増えています。新店紹介と共に、コロナ禍を生き抜くヒントを探ります。

休業、時短… 大ピンチ 前向きに変化恐れず

県内での新型コロナウイルス感染初確認から約1年半。その間、緊急事態宣言やまん延防止措置が発令され、飲食店は休業などを余儀なくされました。そんな中でも前を向き、変化を恐れずに挑戦し続ける3店舗を紹介します。

街なかの飲食店が郊外にテークアウト専門店

販路を見いだし、やれることをやる

「七笑」や「えびす門」など、街なかで4店舗の飲食店を構える古庄貴輝さん。新型コロナがまん延し始めた2020年3月は、歓送迎会の団体客予約が全てキャンセルになりました。そんな中、グループ店「もつ二郎」が通信販売するもつ鍋セットなどの話題をSNSで発信すると、拡散され、全国放送のテレビでも話題に。予想を上回る反響があったそう。「街なか4店舗はまともに営業ができない状況…。販路を見いだすために、これからはテークアウトだと考え、地代も安く人の行き来の多いこの場所(北区植木町)に店を構えることにしました。11月にオープンし、既存のスタッフをローテーションで配置。グループ全体の売り上げ減を補てんするには至らないものの、一人も解雇することなく、今を迎えることができました」

城北高校の調理科で非常勤講師も務める古庄さん。さらに先を見越して、以前から興味のあった農業への参入や、通販商品の製造工場も建設予定です。

銀座のから揚げとレモネードだけがうまい店

唐揚げとレモネード、2つの看板メニューを掲げるテークアウト専門店。黒酢・塩こうじを使った、冷えてもおいしい「銀座のから揚げ」は4種あり1個130円。県産レモンをメインに使ったレモネードは6種あり1杯300円。暑い夏に元気をくれる一杯です。

「グループ全体が落ち込む中、新店の黒字は、精神的に救われました」と語るオーナーの古庄貴輝さん


M&A・飲食店業務のデジタル化 新たな挑戦で売り上げアップ

在庫管理や定休日も見直し

コロナ禍で苦しんでいた「かつお茶屋」を前オーナーから受け継いだのが、クラウドツールを活用した業務改善コンサルティング会社「キャップドゥ」です。「指宿でワーケーションをしている時に知り合ったカツオ業者の方に、指宿産かつお節の魅力をうかがい、おいしさに衝撃を受けました。そのタイミングで『かつお茶屋』の譲渡の話を聞き運命を感じました」と代表の森田晃輝さん。

SNSやデリバリーサービスの活用、売り上げ集計を基に在庫管理や分析をするPOSレジアプリ「エアレジ」の導入など、次々とデジタル化を進め、業務を改善。さらにメニューや客数を分析し、定休日などを見直しました。

「システムの導入で、私たちも本来の業務に集中できるので助かっています」と店長の下吹越慶さん。新商品の開発やサブスクリプション(定額制)の活用など、8席という小さな店舗でも大きな市場を狙えることを証明し、他店舗が導入できる経営事例を作っていくそうです。

かつお茶屋

鹿児島・指宿産のかつお節を、出汁(だし)茶漬けなど一番おいしい状態で提供。削りたてのかつお節は、ピンクがかった美しい色と、香り高く上品な味わいが特長で、「脇役」という概念を覆すはず。「かつおの漬け丼」(850円)はオリジナルのタレに軽く漬けた新鮮なカツオが絶品です。

「指宿産のかつお節のおいしさを伝えながら飲食業界のお役に立つ事例を生み出します」と語る店長の下吹越慶さん

店舗情報

かつお茶屋

住所
熊本市中央区下通1-4-3 1階
TEL
070-4448-6108
店舗ホームページ
https://www.instagram.com/katsuocyaya/
営業時間
11時~14時
休業日
木曜
備考
営業情報などはInstagram(「かつお茶屋」で検索)でチェック!

もしも…に備えて業態を見直し レストランから複合店へ

新規事業も取り入れ移転オープン

これまで辛島町にある「リストランテ・ミヤモト」で、熊本の風土が生み出す食の素晴らしさを伝えてきた宮本けんしんさん。新屋敷に店名も新たに構えた新店舗は、イタリアの山小屋をイメージした、温かく落ち着いた雰囲気です。

移転を考えたのは熊本地震がきっかけ。「熊本は自然災害の多い地域。そのたびに、飲食店だけではスタッフを守ることができないと痛感しました」と宮本さん。コロナ禍で、県外・海外からの来客はゼロになり、大きな打撃を受けました。「そうした中でも、テークアウトなど、常連の方々にたくさん支えていただき、足元が大事だと再認識しました。だからこそ、この店を、これまで以上に、熊本のお客さまを大切にお迎えできる場所にしたいと思っています」

新店舗には、コロナ以前から計画していたデリやワイン、食材を販売するショップや、商品開発を行うラボを併設し、レストランは完全予約制に。少人数でのブライダルにも対応するなど、新しい生活様式を見越した店に進化しています。

県産食材を使った薪火(まきび)料理 (写真はコースの一例)

扉を開けるとまずはショップが。 奥にレストランが広がる

antica locanda MIYAMOTO(アンティカ ロカンダ ミヤモト)

県産食材を届け、生産者と消費者の「つなぎ手」の役割を担うイタリアンレストラン。6月に移転し、県産食材やデリ、ワインなどを扱うショップも新設。メニューは8800円・1万3000円のコースのみで完全予約制。木立に囲まれた庭を眺めながらの食事は、豊かな時間になることでしょう。

「地震・水害・コロナ禍…リスク分散を考え複数の柱を持つことを決意しました」と語るオーナーシェフの宮本けんしんさん

店舗情報

antica locanda MIYAMOTO(アンティカ ロカンダ ミヤモト)

住所
熊本市中央区新屋敷1‐9‐15 濫觴ビル102
TEL
096-342-4469
店舗ホームページ
https://al-miyamoto.com
営業時間
ショップ10時〜18時半、レストラン18時〜22時(昼間の営業は応相談)
休業日
月曜

リスクへの準備と地域貢献で危機を乗り越える

未曽有の危機に苦しむ飲食業界。その未来はどうなるのでしょう? 九州で活動する流通コンサルタント「ITOU企画」伊東正寿さんにお話を聞きました。

1世帯あたりの外食にかける支出を見ると、2019年に比べ20年は約30%減。21年は19年比で半分に減少。ある業務用問屋の出荷データを基にした福岡県の数字は、20年4月は前年比64%。そこから、まん延防止等重点措置の発令で一気に落ち込み、今年5月は19年比38.9%になります。この数字を見る限り絶望的ですが、そんな中でも、起死回生した飲食店があります。明るい飲食業界の未来のため、コロナの逆境にも負けず売り上げを取り戻した2つの事例をご紹介します。

大幅に落ち込んだ売り上げを100%に戻した福岡県柳川市の「夜明け茶屋」は、鮮魚店と居酒屋を営み、それまでお客のほとんどは観光客でした。川下りに訪れる観光客は1割ほどになり、目を向けたのが空き家です。すぐに空き家を購入しリフォーム。なんと素泊まりの宿を始めます。テレワークが推奨されているため、都会の人たちが家族で数日から数週間滞在し、食事は店へ。自分の店ではなく、地域のお店へ促すことで、空き家対策だけでなく、地域の店の売り上げにも貢献しました。周囲に感謝されたことで、結果的に、地域の方々が通う店になり、同時にテークアウトや市販加工品の売り上げも増えました。

宮崎県椎葉村の「よこい処しいばや」は蕎麦(そば)屋の隣に菓子店をオープンしたばかりの時にコロナに突入しますが、巣ごもり用に開発した「宮崎バターサンド」や、世界遺産のある地域の蕎麦を詰め合わせたセットを販売すると、たちまちヒット商品になりました。そして、地域の雇用を生む結果になったのです。

これらは、スタートは自身の店の危機でしたが、視野を広げて「地域課題の解決」も踏まえた戦略を立てることで成功した例です。

新しい生活様式に合わせて、これまでの「おいしい」「空間がすてき」だけでなく、飲食店がどのような感染症対策を行っているかなど、消費者の店選びの基準が大きく変化していきます。それに合わせて、飲食店は今、何を考え、どう動くかで未来が変わってくるでしょう。そして消費者の皆さんには、逆境に立ち向かい、進化を続ける地元の飲食店に目を向け、応援していただければと思います。

教えてくれたのは

流通コンサルタント/「ITOU企画」代表
伊東正寿さん

大分県出身。「寿屋」「ハローデイ」を経て、流通コンサルタントに。地方と都市の距離を縮め、生産者と消費地をつなぐ役割を担う。