“清張ブランド”の怖い映画たち 昭和の恐怖物語は、今もリアル

人ははるか昔から物語を好んできました。自分ではない誰かの冒険や恋愛、怒り、悲しみを読み聴くことで、現実にはない充実感を味わえるからでしょう。主題は多様ですが、中でも“恐怖”はいつの時代も人を魅了します。怒れる神々や怪物が主役の時代もあったし、宗教が力を振るっていた時代には無信心がいかに恐ろしい結末を呼ぶかが説かれました。一方、第1次大戦後の欧米では、“不信の世界”を生きるスパイ、冷戦下のアメリカでは共産国による洗脳が恐怖のモチーフとして登場しました。

その中で松本清張が描いたのは“現代日本の恐怖譚(きょうふたん)”。清張は社会派推理小説を生み、探偵小説を過去のものとしましたが、彼が発明したのはトリックなどではなく、「現代における恐怖とは、日常生活に開いた黒い穴」という語りのパターンでした。また清張の恐怖物語は映画との相性が良かった。映画制作者は“腕の見せどころ”と、巧みなシナリオや演出を駆使しながら清張作品に挑み、結果として「清張映画にハズレなし」という高品質の作品群が生まれました。

本著は、松本清張が見つけた“現代日本の恐怖譚”への招待状です。「殺人犯の声を聴いてしまった電話交換手」「顔が広く知られることに脅(おび)えるスター候補生」「愛人との関係を秘密にするため嘘(うそ)をついた小心なサラリーマン」「悪天候で足止めをくらった旅行先の不倫カップル」…。さて今夜はどんな人々の恐怖をのぞき見るのか…。

ネタバレせずに恐怖のポイントを伝え、併せてスタッフ・キャストの紹介、裏話などの紹介も充実しています。文章、デザインともに簡潔でありながら、映画への愛情がこもった労作です。

Information

「旅と女と殺人と清張映画への招待」

著者/上妻祥浩
出版社/幻戯書房
定価/2400円+税

松本清張原作の全映画作品を紹介。常連俳優やスタッフの紹介を含め、網羅的に凝縮させた清張映画完全ガイド

テキスト/マーケティングプランナー 森 克彰さん