【567号】知るほどに尊い 仏像ワールド[熊本編]
穏やかな表情の如来像、怖いのにカッコいい明王像…。 お寺で大切にされてきた仏像は、時代を経てきた美しさがあり、唯一無二の存在です。 一体一体、経歴が違う仏像だから、もっと深く楽しく理解したい。 そんな仏像の世界と鑑賞のポイントをご紹介。 コロナ禍の今、紙上拝観で心和むひとときをどうぞ。
「康平寺」「福城寺」「城泉寺」から
ようこそ! 仏像の世界へ
出会えただけでも“ありがたい”存在の仏像。
仏像の世界を広げる歴史や背景を仏像先生に教えてもらいました。
仏像とは…なに?
仏教で敬われるブッダと仲間たちの像
仏教を開いた「釈迦(しゃか)=ブッダ」の姿を表した「如来」「菩薩」、如来が密教特有の解釈で化身した「明王」、仏教を守る「天部」、ほかに弘法大師などの高僧像や神像など、仏教の信仰対象となってきたのが仏像。6世紀に日本に伝えられ、飛鳥時代になると日本でも本格的に造られるようになりました。時代がたつごとに、造り方や素材、目や口などの表情も変化。平安時代の定朝(じょうちょう)や鎌倉時代の運慶・快慶(うんけい・かいけい)といった大仏師(仏像作家)も生まれ、熊本にもその流れをくむ仏師による仏像が残されています。
仏像先生
熊本県立美術館 副館長 有木 芳隆さん
より仏像を知るには・・・
仏像を楽しむには少し勉強が必要です。例えば、制作された時代によって様式が変わるので、仏像の本で見比べるだけでも知識が深まります。お寺で拝観する時も、年代が分かれば見るべきポイントが分かってきますよ。
先生の推しブツ
圓成寺(奈良)/大日如来
カタチに込められた仏様の世界観
さまざまな姿で表される仏像。鑑賞する前に、何の仏様か知っていると、仏像の意味や役割、お寺の考え方が分かるようになってきます。また、印相(指の形)や持物(じもつ/手に持つ道具)にも、一つ一つに意味が込められています。仏像の体の特徴やパーツにも目を凝らして、奥深い仏像の世界を楽しんでください!
仏の体に刻まれる修行のカタチ
悟りを開いた釈迦の姿 如来(にょらい)
悟りを開いた「如来」は、独特の螺髪と服装がシンプルなのが特徴的。清浄な国土「浄土」に住むといわれています。
代表的な如来像
法隆寺(奈良)/釈迦三尊像
平等院(京都)/阿弥陀如来
願成就院(静岡)/阿弥陀如来
悟りを目指す修行者 菩薩(ぼさつ)
多くの人々を救いながら修行をする「菩薩」。王子であった釈迦を模しているので、優美な姿で表されています。
代表的な菩薩像
広隆寺(京都)/弥勒菩薩
観心寺(大阪)/如意輪観音
観世音寺(福岡)/不空羂索観音
憤怒の相で煩悩から守る! 明王(みょうおう)
華麗な装飾と恐ろしい形相で表される「明王」。仏教に帰依させ、悪(煩悩)に対峙(じ)する役割を担っています。
代表的な明王像
真木大堂(大分)/不動明王
大覚寺(京都)/金剛夜叉明王
奈良国立博物館/愛染明王
仏を守る異教の神々 天部(てんぶ)
古代インドの神々が仏教に取り入れられ、仏教を守る神として誕生。十二神将、八部衆、二十八部衆とグループで呼ばれることも。
代表的な天部像
興福寺(奈良)/阿修羅像
勝福寺跡(熊本)/毘沙門天
法明寺鬼子母神堂(東京)/鬼子母神
日本の仏像〜流れと技法
熊本で見るならこの美仏
仏像が教えてくれる地域の物語
熊本の仏像に目を向けてみると、現存するのはほとんどが平安時代以降のもの。全国的にも地方の仏像は平安時代後期のものが多く、仏教が時代とともに地方へ浸透していったことが分かります。年代的には鎌倉時代の仏像が多く、地方の武士や農民にも支持された鎌倉仏教の影響があるのかもしれません。この頃になると地方から京都の仏師に発注するケースもみられ、山間の寺でみやびな仏像に出会うことも。室町時代になると、各地の有力者によって仏像が造られ、小さなコミュニティー単位で信仰されるようになります。
中央から地方へ、領主から庶民へと仏教が広まる様子がうかがえるのが人吉球磨の仏像です。相良氏の統治前から地域の有力者が寺院を建て、仏像を安置してきました。また武神である毘沙門天(びしゃもんてん)が多いのも特徴的。島津氏との領地の境でもあるため、守護の神として厚く信仰されていたのかもしれません…。地域で守られてきた仏像は、その土地の歴史も教えてくれます。
康平寺(こうへいじ) 山鹿市
観音様をお守りする二十八部衆そろい踏み
ひな壇状態の「二十八部衆」を従える「千手千眼観音菩薩」。仏像パワーに圧倒される体験ができます。平安時代に建立された山岳密教寺院で、かつてはこの地に多くの僧が滞在。そのため「二十八部衆」は、僧たちの修行の一環で造られたとも考えられています。精悍(せいかん)な顔つき、荒削りなポーズなど、それぞれテイストが違うのはそのためかもしれません。
顔つきもさまざまな「二十八部衆」
平安時代初期の「地蔵菩薩立像」は、木目が美しいカヤ材の一木造り
「千手千眼観音像菩薩立像」は、手のひらの目で人々の苦しみを見つけてくれます
お問い合わせ
康平寺(こうへいじ)
- 住所
- 山鹿市鹿央町霜野1870‐2
- TEL
- 0968-36-4030 (霜野区康平寺管理組合)
- 備考
- 開館は、土・日曜、祝日の9時~16時 ※地域の方々が管理運営。お願いするとガイドもしてくれます
福城寺(ふくじょうじ) 美里町
もとは違う仏像だった? 謎多い山寺の秘像
トレッキングで人気の甲佐岳中腹にあります。昔話に登場しそうな山寺に安置されるのが、国の重要文化財に指定される「釈迦如来立像」です。快慶の流れをくむ仏師の作といわれ、ハリのある頬と切れ長の目がポイント。釈迦如来とのことですが、両手の印相は阿弥陀如来風。また本尊の「十一面観音菩薩立像」は、宝冠や衣から「吉祥天」だったのでは…という説も。謎が多い2体の仏像は、じっくり拝みたいものです。
本堂に安置される本尊の「十一面観音菩薩立像」。平安時代の作で、本堂と共に町の重要文化財に
毎年1月18日に公開される「釈迦如来立像」。ヒノキの寄せ木造りで、鎌倉時代前期の作です
宝冠や衣から吉祥天を思わせる「十一面観音菩薩立像」
境内には樹齢1300年、幹回り16mを超える大銀杏(イチョウ)も
城泉寺(じょうせんじ) 湯前町
繊細で優美な姿に魅了される人吉球磨屈指の美仏
田畑に囲まれた静かな集落にあるお寺。鎌倉時代の初めに創建されたといわれる茅葺(かやぶ)きの阿弥陀堂が、当時の厚い信仰心を伝えています。お堂内に安置されるのは、「阿弥陀如来坐像」と両脇侍の「観音菩薩」「勢至菩薩」。ふくよかな顔つきとドレープが美しい衣、さらに光背や蓮華台と、鎌倉仏師による眼福モノの技が満載です。
秋には町を挙げて彼岸法要が行われる「阿弥陀三尊」
髪を高く結った「観音菩薩」(上の写真では向かって右側)
県内最古の木造建築の「阿弥陀堂」
仏像鑑賞の注意点
仏像は芸術作品である前に信仰の対象です。特に、お寺の場合は、鑑賞の前に手を合わせて参拝を。写真撮影は事前に了解を得てからにしましょう。
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