【391号】キラリと光る若い力 伝統を楽しむ 高校生たち
古くから受け継がれてきた有形・無形の伝統技術。こうした文化に興味を持って、楽しみながら学んでいる高校生たちがいます。部活動で、授業で、実習で、ひたむきに頑張る若いチカラ。キラリと光る彼らを訪ねました。
受け継がれてきたワザが次の世代へ
今回、すぱいすが訪れたのは、球磨工業高校、阿蘇中央高校、牛深高校、南稜高校の4校。各校独自の取り組みと、夢や目標に向かう生徒たちの真剣な表情に迫りました。
※文中にある時期の表記、生徒の学年、所属する科・部活動などは、2017年9~10月の取材当時の情報です
球磨工業高校
伝統建築専攻科
文化財の修復などを通して経験積む “未来の匠(たくみ)という夢に向かって
球磨工業高校(人吉市)の伝統建築専攻科は、全国の公立高校で唯一、伝統建築の技術と知識を身に付けられる高校です。「宮大工になりたい」「社寺について学びたい」など、宮大工や文化財保護のスペシャリストを志す若者が県内外から集まります。約50人の卒業生の中には、夢をかなえて宮大工や伝統木造技術者として活躍する人も多く、大工になった女子の卒業生もいるそう。
今年3月から、2年生の4人が阿蘇郡南小国町の天満宮本殿の修復を手掛けました。解体した本殿を同校に運び、朽ちた部分に新しい木材を継ぐなど、夏休みを返上し半年かけて作業。8月下旬、完成した本殿を現地で組み立て無事、修復を終えました。
実践的な授業に、「実際の建物に触れて作業ができるので、進む道を決めるとき、正しい判断ができます」と2年生の本多倫大さん。将来を見据え、頼もしい表情で取り組む姿が印象的でした。
南小国町の天満宮本殿の修復作業。形がほぼ見え最終段階に。完成後、一度解体してから現地へ運びます
八代市鏡町の深町神宮に設置予定の祠(ほこら)造りに取り組む1年生。円柱などの曲面を作るのが難しいのだそう
2年生 本多 倫大(ともひろ)さん
小学生の頃から伝統建築に興味がありました。今後は数寄屋建築の道に進みたい
「若年者ものづくり競技大会」に2年連続で出場し、今年は銅賞を受賞。「技能五輪全国大会」への出場経験もあります。
阿蘇中央高校
グリーン環境科
阿蘇の景観や畜産業を守る 野焼き実習で学ぶ草原の大切さ
畜産業の存続や草原の景観維持に大切な阿蘇の野焼き。その準備として欠かせないのが、草原の一部を刈り取って防火帯を作る「輪地(わち)切り」「輪地焼き」です。阿蘇地域で毎年9月~10月に行われます。
阿蘇中央高校(阿蘇市)のグリーン環境科では、「小柏学校林」と呼ばれる所有林(24ha)を延焼から守るため、輪地切り・輪地焼きを3年生の実習に取り入れています。3年生が準備し、1・2年生が野焼きを行う、半世紀以上続く同校の伝統行事です。
9月下旬、輪地切りの実習を訪ねました。刈り払い機で、カヤ、クマザサ、ススキの根元だけを残しながら約8mの幅を刈り取っていく作業。約3時間かけ、学校林と牧野の谷筋約2㎞の区間をきれいに刈りました。男子生徒でも体力的にきつく、危険を伴う重労働。作業に当たった3年生の平野貴也(たかなり)さんは「草原を守ることの大変さが分かったからこそ、阿蘇の草原の美しさをたくさんの人に知ってもらいたい」と話してくれました。
刈り払い機を操りながら、膝丈ほどもあるクマザサを刈り進む生徒たち。中には、傾斜約70度という急斜面も
近年は、輪地切りをする人が減少。そのため生徒たちが刈り取る範囲も広がってきています
3年生 穴井峻平さん
僕たち若い世代が草原を守っていかなければと、実習を通して思いを新たにしました
1年生から授業で草原再生プロジェクトを学んでいます。
牛深高校
郷土芸能部
“ヨイサー、ヨイサー”“サッサヨイヨイ” 笑顔はじける乙女たちのハイヤ踊り
牛深ハイヤ節の甲高い歌声に合わせて、軽快な三味線と太鼓のリズムが武道場に響きます。はじける笑顔で踊りを練習しているのは牛深高校(天草市)の郷土芸能部。全国高等学校総合文化祭(全国総文祭)が熊本で開かれた昭和63年、「牛深ハイヤ踊り」を郷土の芸能として披露するために創部されました。
ハイヤの踊りは、網投げや櫓こぎなど漁師の動きをイメージした所作が特徴。指導に当たるのは「牛深ハイヤ保存会」の会員です。並びや振りを次々と変えながら、ピッタリと息を合わせてノンストップで踊る12分間。「郷土芸能部の切れのあるハイヤ踊りは、小さい頃からの憧れ。踊れるようになってますます誇りに感じています。大好きな牛深ハイヤ踊りの伝統をしっかりと受け継いで、たくさんの人に見てもらいたい」。部員たちは笑顔で口をそろえます。
現在、部員は11人。全国総文祭伝承部門に4年連続で出場し、昨年は優良賞を受賞しました。乙女たちの踊りで元気をもらおうと、地元の行事にも引っ張りだこ。地域の熱い応援に支えられながら、5年連続の全国総文祭出場を目指します。
武道場に備えられた鏡を見て、振りを一つ一つ確認しながら踊りをマスターしていきます
部員の着付けをするのは「牛深ハイヤ保存会」の大ベテラン、竹井ミチナさん(右から2番目)と浦田太嘉子さん(右端)。水色のアイシャドーと真っ赤な口紅の化粧は自分たちで
「牛深ハイヤ」のハイヤって?
全国約40カ所のハイヤ系民謡のルーツといわれる「牛深ハイヤ節」。ハイヤの語源は「ハエ(南風)」で、牛深を出港して北上する帆船に欠かせない風のこと。
2年生 上揚 希星(かみあげ きらら)さん
見ている人に元気を与えたいです
母親も同校郷土芸能部出身。親子2代でハイヤ節を踊ります。
南陵高校
食品科学科
伝統の球磨焼酎づくりの技を習う 蔵元や農家も生徒たちを応援!
南稜高校(あさぎり町)は、食品科学科の授業科目に「醸造」を取り入れ、純米焼酎づくりを行っています。米焼酎の本場ならではの文化に触れ、知識と技術を学んでもらおうと、学校が単式蒸留焼酎試験醸造の免許を取得。蔵元の見学(1年次)や実習(2年次)を経て、3年次に校内の実習室「南稜焼酎蔵」で実際に焼酎づくりに取り組みます。見学・実習の受け入れ、「あさぎり稲作生産部会」からの米の提供など、地元蔵元や農家も協力を惜しみません。
「南稜焼酎蔵」では10月初旬、蒸し上がった米に麹菌を仕込む作業が行われていました。これから米麹作り、アルコール発酵と続き、純米焼酎を“育て”ます。「こんなに球磨焼酎を身近に感じたのは初めて。ずっと愛され続けてほしいし、人吉球磨の焼酎文化を大切にしたい」と、地元の宝に誇らしげな表情の生徒たち。
授業で出来上がる焼酎は約40L。来年1月には地元の杜氏を招いて品評会が開かれますが、生徒たちはもちろん飲めません。2年間じっくりと寝かせ、成人式で“自分たちの焼酎”をしみじみ味わうのが、食品科学科卒業生の習わしです。
蒸した米(5kg)をうちわとしゃもじで冷ます生徒たち。今後は「一次仕込み」「二次仕込み」「蒸留」と続きます
製麹(せいぎく)機に入れて温度管理に注意しながら、麹を大事に育てていきます
3年生 荒木 未来(みき)さん
初めて飲むお酒は、南稜焼酎がいいな♪
3年生 恒松 澪さん
球磨焼酎29番目の蔵元として認めてもらうのが夢!
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