【433号】デジタルな世の中だからこそ「アナログ」って心地いい!
仕事中はパソコンに向かい、プライベートはスマホが手放せない。そんなデジタルな機器に囲まれた日常を過ごしている人にこそ、生活に潤いをもたらす「アナログ」の心地よさを見直してもらいたいと思います。仕事や生活の中にアナログなものを取り入れて、楽しんでいる人たちを紹介します。
デジタルブック(電子書籍)ではなく、紙の本が好きな人たちが集い、みんなで本を読んで楽しむ朗読会が開かれています。
熊本市内に住む出張絵本屋さんと古書店の店主が共催する「タケシマモフの声に出して読んでみる会」は、毎月1回、テーマを変えて開催。参加者はそれぞれ選んだ本を持ち込み、その理由を語り、朗読します。読んだ後は全員で約1分間、体に言葉が浸透するまで沈黙し、次の読み手へとバトンタッチ。みんなが読む楽しさ、聞く楽しさを、静かに味わっています。
撮影協力/Coffee Bar AA(ダブルエー)
紙の触り心地 ページをめくる感覚 本には所蔵する喜びも
「タケシマモフの声に出して読んでみる会」を開いているのは、出張絵本屋さんの吉田美樹さん。絵本をイベントなどで出張販売するほか、寄贈本の選定や納品の手伝い、お話し会などイベントの企画も手掛けています。
吉田さんがアナログな本を好きな理由は、「紙の触り心地や、ページをめくる感覚が好きだから」。特に絵本は、アナログなスタイルで楽しむことを勧めています。親から子への絵本の読み聞かせなどは、聞き慣れた声の安心できるぬくもりを感じながら、子どもが物語の世界を味わうのが理想。「そうして、心のひだに引っ掛かった何かが、ゆっくり時間をかけて、いつかストンと落ちるのを気長に待つ。そんな時間が、大人にも子どもにも必要だと思います」
電子書籍はデータで保管するため、かさばらないというメリットがありますが、紙の本には“所蔵する喜び”もあります。お気に入りの本を汚さず扱えるよう、吉田さんはブックカバーも販売しています。「すべてが手作りで、本を大事に読みたい人に好評です」
出張絵本屋「モフbooks」 吉田美樹さん(熊本市)
Profile
大学を卒業後、保育士として約16年勤務。その後、飲食店の2階を借りて、座って読める絵本専門店を開く。昨年、司書の資格を取得し、平日の昼間は図書館の仕事に携わる傍ら、出張絵本屋「モフbooks」を始める
本を購入いただいた人には、手書きでお礼の手紙を。手彫りのスタンプを押した袋に入れて渡します
福岡の「本の装ひ堂」が作るブックカバー(2160円〜)。県内で取り扱うのは「モフbooks」だけ
「うちの子は、あまり本に興味がなくて」という人におすすめの「ほんはまっています のぞんでいます」(かこさとし著)。親子で読んでみてください
"思い"と"手"の入った ものの中で暮らす
今から24年前、福岡の飲食店で共に働いていた2人は、自然農法に興味をひかれ南阿蘇に移住しました。家も仕事も生き方も、自然を軸にすべてシフトしようと決めた2人が暮らすのは築70年の古民家。ご飯はかまどで炊き、風呂は五右衛門風呂に薪をくべて沸かします。「今ではアナログ生活を楽しんでいます。アナログとは“思い”と“手”の入ったものだと思うんです。そうしたものの中で暮らしたかった」と野中さん。
写真家の仕事では、デジタルとアナログを共存させています。加工や編集面ではデジタルデータが取り扱いやすく、クライアントからの依頼も多いそう。アナログのフィルムカメラでは、家族と身の回りのものを中心に撮っています。
料理家のかるべさんは、機械に頼らず昔ながらの道具を使います。「ゴマをするなら、すり鉢。電動のミルだと熱を持つし、片付けも面倒。アナログな道具のほうが、料理に手間と愛情を込めやすいと感じます」
毎日、五右衛門風呂を沸かす生活は「大変そう」と周囲に言われるそうですが、「沸かす達成感があるし、お湯が柔らかくて最高に気持ちいい」と声をそろえる2人。アナログ生活の心地よさを堪能しています。
長男の遊ぶ姿を収めた写真集がコンクールで受賞したことを機に、プロの写真家としての活動が始まりました
写真家 野中 元(はじめ)さん 料理家 かるべけいこ さん(南阿蘇村)
Profile
無農薬栽培を行いながら、夫は写真家、妻は料理家として活躍する。野中さんは雑誌のほか、TV「アリスのおいしい革命」「食の音色」などでスチールを担当。かるべさんは「自然がくれた愛情ごはん」などの著書があり、写真は野中さんが手掛ける
風呂だきに、夏は30分、冬は50分かかるとか。「火を見ていると、生きてるなと感じる」そう
昔ながらの料理道具に囲まれた台所。かまどで薪がはじける音、ゴマをいる香りなど、五感を刺激します
庭に建っていた牛小屋を、暗室とギャラリースペースに改造。フィルム写真の現像・焼き付けを自宅でできるようにしました
手仕事の作品が持つ "唯一無二"な感じが好き
刺繍(ししゅう)糸で立体的な虫を作る、ながふちなほみさん。8年前に島田美術館(熊本市)で開かれた「ファッショナブルな虫達」展で見た、コガネムシ科の昆虫「レギウスオオツノハナムグリ」の美しさに魅了されたことが制作のきっかけです。「手に入れたい! と思ったのですが、日本にはいない希少な昆虫。じゃあ、自分で作ってみるかと」
幼い頃から虫好きの、ながふちさんが作る作品は、リアルながらも愛嬌(きょう)があります。見た人から「虫の印象が変わった」「これなら触れそう」と言われるのがうれしいとか。アナログな手仕事から生み出される物は、同じように作っても全く同じには仕上がりません。「その“唯一無二”な感じが好きなんです」とながふちさん。
子どもの頃に、ながふちさんが着ていた服は、母のお手製でした。「それは私に特別感を与え、うれしかったことを覚えています」。2人の娘の親になってからは、同じように服を手作りしてあげたそう。「刺繍はおすすめですよ。既製の無地シャツの襟にワンポイント入れてあげるだけで、特別なものになりますから」
手作業による作品の制作期間は、3週間から5カ月ほど。これから作ってみたいのは「海虫(うみむし/水生昆虫)」だそう
立体蟲(むし)刺繍作家 ながふちなほみ さん(熊本市)
Profile
2010年から虫の刺繍を始め、個展やエキシビションに出展。オーダー制作の依頼も増えている。アコースティックピアノの奏者としても活動。依頼演奏やレッスンも引き受け、熊本市現代美術館では開館時よりボランティアピアニストとして演奏
作業机の上もアナログ感あふれる雰囲気
昆虫標本を見ながら、作品の設計図となる下絵を描きます。自分で採取した虫、コレクターから譲り受けた虫も
26年前から愛用しているコーヒーミルで豆をひくのは、制作を始める前の儀式になっています
手軽にアナログの世界に浸れる空間
アナログなモノが手に入る、趣味が楽しめる、雰囲気を味わえる、そんなスポットを紹介します。
古本タケシマ文庫
レアな演劇関連の本も見つかる
表紙で紹介した「朗読会」を出張絵本屋さんと共に催す古書店。長く演劇に関わってきた店長ならではの、熊本では仕入れが困難な演劇、戯曲、歌舞伎などの本も多数。お寺の鳥居の横にたたずむ店には、ゆったりとした時間が流れます。
店舗情報
- 住所
- 熊本市中央区坪井4-4-27
- TEL
- 090-8353-7662
- 店舗ホームページ
- https://takeshimabooks.shopinfo.jp/
- 営業時間
- 13時〜19時
- 休業日
- 水曜
ビギナーズレコード
ジャケットで選ぶのも楽しい
音域、音質でデジタルに勝ることから再び注目されているレコードはアナログの代表格。開業19年の中古レコード店「ビギナーズレコード」に行くと、在庫5000枚の中から懐かしい一枚に出合えます。「ジャケ買い」の楽しさも。
店舗情報
- 住所
- 熊本市中央区九品寺2-8-25久原ビル1階
- TEL
- 096-373-8839
- 店舗ホームページ
- http://www.begireco.com/
- 営業時間
- 11時〜20時
- 休業日
- 不定
南阿蘇珈琲
長年の勘と経験から豆を焙煎
ビンテージのアメリカ製ローストマシンで手間をかけて焙煎した豆を使用し、お客さんの好みに合ったコーヒーを提供。併設するギャラリースペースでは、藍染め、木製スプーン制作などのワークショップも開催しています。
店舗情報
- 住所
- 熊本市中央区大江5-2-11-101
- TEL
- 096-371-7807
- 店舗ホームページ
- http://www.minamiaso-coffee.com/
- 営業時間
- 12時~20時
- 休業日
- 月曜
Hello Hello
熊本初のボードゲームカフェ
“電源不要”のためアナログゲームと呼ばれるボードゲーム。「Hello Hello」は熊本初のボードゲームカフェで、170種のゲームを楽しめます。「カタン」「人狼」を楽しむ定例イベントのほか、クイズイベントなども開催。
店舗情報
- 住所
- 熊本市中央区安政町5-9サンセリテシモカワビル5階B号
- TEL
- 096-321-6308
- 店舗ホームページ
- http://hellohellocafe.com/
- 営業時間
- 13時〜23時
- 休業日
- 火曜
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