【467号】私たちの決断 熊本地震が教えてくれたこと 〜熊本地震から3年〜
間もなく、熊本地震から3年がたち、大きな被害を受けた「まち」も、元の姿を取り戻しつつあります。一方で、地震は私たちの「心」にも大きく影響を与えました。生活が一変し、人生観や価値観が変わった人もいます。そうした中、被災経験をプラスに捉え、力強く前に進む若者たちがいます。
私たち「だから」できることがある
熊本地震を通して学び、行動したこと。10代、20代、30代の3人に聞きました。
大好きな益城町を明るく復興させたい
【益城町】
三森 菜月さん(18歳)
復興計画の中で、町の未来を担う若者にも声を上げてほしい―。益城町は、若者が参加しやすいワークショップとして、地震から半年後に「益城町未来トーーク」を開催しました。町内外から95人が参加し、当時高校1年生だった三森菜月さんも「何かしていないと、気持ちが落ち込むから」と足を運びました。
「大好きな益城町を、少しでも明るく復興させたい」。それが三森さんら若者の望みでした。そこで、三森さんがアイデアを出し、地元農産物を使用したジェラート開発が始まりました。また、地域密着型イベント「益城町の文化祭 マシフェス」の運営にも参加しました。「活動を通して、みんなを笑顔にできたことが何よりもうれしかったです」
これらの取り組みを単年度で終わらせず、継続的に行ってきたことが評価され、今年2月には県の「地域づくり夢チャレンジ大賞」を受賞。知事から表彰されました。
この春に高校を卒業し、自衛官となった三森さん。地震直後の避難生活の中で接した女性自衛官の優しさとたくましさに憧れを抱き、自身も目指すことを決意したとか。「研修後は熊本の配属を希望しています。休日や休暇を使って、自分のできるペースで未来トーークの活動にも参加し続けたいと考えています」
熊本地震から2年目に東京有楽町で開催された「復興マルシェ」に参加
高校生らがプロデュースした4種類のジェラート「mashikinto」
こんな活動をしています!
益城町未来トーーク
益城町の復興に向けて、10代〜30代が中心となって活動する「復興支援×地域づくり」団体。ワークショップ開催のほか、イベント企画・運営、特産品開発など、取り組みは多彩です。
地震が就職感を変えた 知識と経験を復興に生かす
【熊本市】
藤井 治さん(22歳)
大学2年の時、熊本地震を経験した藤井治さん。通っていた熊本学園大学内に避難所が開設されたことから、「しばらくは、炊き出しなどの被災者支援を行っていました」
授業が再開して半年後、藤井さんは大学の学生ボランティアに参加し、被災した子どもたちの災害ストレス緩和を図る運動遊びの活動をすることに。しかし最初は警戒され、中にはストレスで乱暴な言動が見られる子も。それでも時間をかけて長期的に触れ合うことで心が通い合い、遊びにも積極的になったとか。「『次は、いつ来るの?』という言葉が何よりうれしかった。子どもたちの様子が変わっていくのを見て、自分が必要とされていることを実感しました」
被災者と触れ合う経験は、藤井さんの就職観にも影響を与えたといいます。大学で学んだ経済と法律の知識を、復興や被災者の生活再建に役立てられないかと考え就職先を検討。面接では、ボランティア活動を通して人に寄り添うことや、相手の抱える課題を一緒に考える力を養ったことをアピールしました。
4月から、非営利協同組織で、勤労者のための福祉金融機関である「九州ろうきん」で働きます。「お客さまから『藤井さんに頼んで良かった』と言われるよう頑張ります」
仮設団地で暮らす子どもたちを訪問。遊びやイベントを通して交流を図った
平成30年7月豪雨災害では、熊本で募金活動や広島でボランティアを行った
こんな活動をしています!
学生ボランティア団体
熊本学園大学では、学生が主導する7つのボランティア団体が熊本地震の復興支援を継続。仮設団地集会所での出張カフェ開設や住民の交流支援、子どもの学習サポート、全国での災害支援活動などを行っています。
移住者の視点で村の魅力を伝えていく
【南阿蘇村】
五十嵐 恵美さん(39歳)
川崎市出身の五十嵐恵美さんは、プロカメラマンとして結婚式などの撮影に従事。自然と共存した暮らしを夢見て移住先を検討していた頃に、熊本地震が起きました。
地震の翌月には南阿蘇村でボランティア団体を立ち上げた友人を訪ね、支援活動を行いました。被災した状況にあっても、木々の緑は色濃く、地下水がこんこんと湧き出る姿に「村の生命力を感じました。また、出会った人たちの優しさにも引き寄せられ、移住を決意しました」
五十嵐さんは、観光復興を目指して村が立ち上げた復興チームの一員となり、被災後に営業を再開した飲食店や観光施設で働く人の取材・撮影を担当。村のSNSで発信し続け、集まった写真を元に写真展も開催しました。また、復興イベント〝神楽と古典フラのフェスティバル〟の実行委員も務めました。
現在は南阿蘇村地域おこし協力隊のメンバーとして活動。村外出身者からなる地域おこし協力隊では、“よそ者”の視点が生かされます。「村の人が、見慣れすぎた風景や日常の素晴らしさに、気づくことができます」と五十嵐さん。カメラを通して日常を切り取り、空気感を伝えることを大切にしています。
飲食店「マルデン」のオーナー夫妻ほか、たくさんの店を取材・撮影した
村の鎮守「中郷天満宮」の夏の風景。フェイスブックなどSNSで紹介
こんな活動をしています!
南阿蘇村 地域おこし協力隊
南阿蘇村の復興や地域活性化に取り組んでいます。地域の情報収集・発信のほか、地域文化振興、移住定住促進、南阿蘇鉄道復興支援、インバウンド対策などの業務を担っています。
熊本の未来を創る子どもたちに伝えたい
昨年3月、熊本地震を経験した小中高生の体験談などを集めた冊子「つなぐ~熊本の明日へ~」が、県内の公立小中学校などに配布され、道徳の授業を中心に活用されています。そこには、「みんなのために自分にできることは何か」を自らに問いかけ、行動した子どもたちの姿や、国・県内外からの支援に対する感謝の気持ちが書かれており、この教材を通して、自分の将来の生き方について考えるようになっています。
「熊本地震の時に見られた子どもたちの思いや姿、感謝の気持ちなどを決して風化させることなく、末長く語り継いでいくことがこれからの未来を創る子どもたちの礎になると思う」と県義務教育課の担当者。この教材は、県内の主な図書館や公民館などでも見ることができます。
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