【557号】すぱいすフォーカス – 熊本弁にも”うし”あり 工事郎のくまもとうしばなし

今年は丑(うし)年。そこで熊本弁講座「ぎゃんときゃぎゃん言う」でおなじみの工事郎さんに、「うし」の付く熊本弁を集めてもらいました。「どの話もベリー『牛(ギュー)』とはいきませんが」と工事郎さん。
工事郎

熊本市東部出身の元熊日記者。夕刊に長く熊本弁のコラムを連載。「ななな、ななななな?」「右さん左さん ぎゃんぎゃん」の「熊本弁コージ苑」シリーズを熊日出版より出版。本物の広辞苑よりためになる、と人気を呼ぶ(本人談)。趣味は山登り、写真、ドローン、庭木。


牛(うし)根性 「我慢強い」通り越して「執念深い」

母から聞いた実話の昔話です。

戦後すぐごろの話タイ。酒好きの又しゃんておらしたもん。牛を連れ、山に薪(まき)ば積みに行っては帰るとが仕事だった。

ある時、仕事ばしもうて帰ろうとしたら、よか案配の店のあったもんで、ついつい寄って、一杯ひっかけらした。

良か調子になって暗うなって、「どう、帰るぞ」て、綱ば引いたところが、牛が頭ば下げて向かってくるてだもん。

「俺には飯も食わせんで、自分ばかり酒まじ飲んで何ごつか(酒まで飲んで何事か)」ていうところだろタイ。

「もう、恐ろしゅうして恐ろしゅうして、もう決してあぎゃんこつはせんバイタ」。帰りも言うこつは聞かんし、又しゃんな、いっぺんで懲りらしたてタイ。

牛根性」という言葉があります。「日本国語大辞典」では「牛のように、無口で根気強い性質」とあります。質実剛健、ですね。「牛根性」は、もともとは「我慢強い」性質のことなのでしょうが、熊本弁で「牛根性」となると、やや悪い意味の「執念深い」の意味です。昔話でも、牛は一生懸命仕事を頑張ったのに、又しゃんだけ酒を飲んだのが腹に据えかねたのでしょう。我慢強さも限界を超えると執念深さに変わります。うーむ、丑年というのになんと不名誉な。

牛根性の悪か」。略して「しこんじょうの悪か」とも言います。

例文

「あやつばかりが、牛根性の悪か。あの道はぬかるて知っとっとに、教えんとだもん」

「あいつばかりは、性格が悪い。あの道はぬかるむと知っているのに、教えないのだから」


うしたる 大事に使いたい「無駄になる」

「木っ端くずは川かどけか(どこか)、うしてちけー(捨てて来い)」

まことにけしからん御仁ですが、熊本弁にはこの「うしてる」のほかに「うしたる」という言い方があります。

「ホーホー、水道は開けっぱなしで、バケツかる水のうしたりよるタイ」

あふれる」の意味です。別の使い方も。

「そぎゃんいっぱい、梨ばもろうたっちゃ。うしたるともったいなかけん3つばかりもらいます」

無駄になる」の使い方です。でもなぜだか、遠慮してもらうときは3つですね。1つ2つは少なか、4つは「欲しろ(欲張り)」て思わるる。

標準語に「うしてる」はあっても自動詞の「うしたる」に対応する言葉はないので、大事に使ってほしいですね。SDGsの時代にはピッタリの言葉ではないですか。


"ぬるぬる"があかぎれの特効薬 うしごり

うしごり」は、ツルになって、秋には赤い実を付けます。標準語では「カラスウリ」。植木にやたらとはい回るので迷惑なツルですが、赤い実がなんとも風情があります。10㎝くらいの大きいのが「うしごり」、ピンポン玉くらいの小さいのが「姫ごり」です。大きいものに「うし」を付けるのはよくあります。

この「うしごり」。昔はあかぎれの特効薬でした。ハンドクリームなどもない時代、うしごりの実のぬるぬるしたのを塗って、それはそれはよく効いたとか。試しに私も塗ってみましたが、ツルツルになりました。「まるで赤ちゃんの肌みたい」。ただで手に入るし。「うしごり」えらい。


最後も「うし」づくしで。

「さっきやった小遣いは?」
「どこでかうしのうた(失った)」
「ごみをうしてぎゃ(捨てに)行ったとき、落としたつじゃなかや」
「そぎゃんいえば途中で友達に会うたもん。友達もお金ばうしのうて(失くして)捜しに来たて」
「やっぱ、連れ、馬は馬連れ(似たもの同士)タイなあ」
「何言うね。モー怒るバイ」
おあとがよろしいようで。