つんどくよんどく

死ぬまでに行きたい海

著:岸本佐知子

翻訳家で、エッセイストとして知られる岸本佐知子が、旅先で思い出したことをつづるエッセー集。私はきっと、この本を何度も読み返すだろう。

記憶という、はかないものに誠実に向き合い、少しもこぼさないよう丁寧につづられた本作。描き出される情景はあまりにも鮮やかで、自分にも同じ記憶があったと錯覚してしまうほどだ。

また、忘れっぽい私の頭の奥から、もう会うこともない人たちとの記憶をも引っ張り出す。
あがた森魚のライブで出会ったあの人からもらった両切りタバコの苦さ。小説家・山田風太郎を教えてくれたあの人の部屋の壁一面を占領する本の山─。

しかしそんな記憶も死ぬまでに、どれほど覚えていられるのかと思う。その時の風景、感情もいつかは消えてしまうのかもしれない。そんな寂しさを抱えて生きていくしかない私たちと、この本は一緒に歩いてくれる。どんな記憶も「ぜんぶ宇宙のどこかに保存されていてほしい」と願いながら。

価格 1980円 四六判
スイッチ・パブリッシング

紹介するのは

蔦屋書店熊本三年坂
榮 詳平さん

映画と音楽と、楽しい酒のために働く書店員