つんどくよんどく

『茨木のり子の家』

詩:茨木のり子

「なんて知的でチャーミングで、愛情深い人なんだろう」。それがこの本を読んだ最初の感想でした。

収められているのは、詩人・茨木のり子が長年暮らした家の写真。彼女の言葉や姿だけでなく、使用していた家具や食器、書斎の本、玄関のドアノブやスイッチ、窓からもれる光…それぞれのたたずまいから彼女の魅力を感じたのは、「家はそこで暮らす人の人物像を表す」という意識があるからかもしれません。

没後に発見された「Y」と書かれた箱には、亡くなった夫へ宛てた自筆の詩がありました。夫の描いた茨木のり子のクロッキーや家族写真からも、幸せな日々が見て取れます。

「倚りかからず」も「自分の感受性くらい」も、この家で、ここでの暮らしの中で書かれたものだと思えば、「茨木のり子」という人間の輪郭がより一層際立つようです。慌ただしさの中でひと息つきたい時にもおすすめの、陽だまりのような一冊です。

茨木のり子の家

『茨木のり子の家』 詩:茨木のり子 1,800円+税 A5判 平凡社

紹介するのは

長崎次郎書店
甲斐 栞さん

JPIC読書アドバイザー。喋るよりも聞くこと、走るよりも歩くことが好き。