春の宵

作:クォン・ヨソン 訳:橋本 智保

原題は『あんにょん、酔っぱらい』。その名の通り、もれなく酒飲みが登場する短編集だ。しかし、その酒は決して楽しいものではない。何かを失(な)くし、何かが欠けている。誰とも分かり合えず、言葉はむなしく吐き出されるだけ。他者も、そして自分も不可解で、どこにも居場所がない。そんなどうしようもない苦痛から逃れるように酒を求め、依存する。安らぎは一瞬で、傷は癒やされないと分かっていても。

悲痛で救いのないような作品だ。しかし、だからこそ著者のクォン・ヨソンを信じられる。悲しみから逃れられない人たちを的確に、誠実に描き、そんな悲しみだけが、生きていることの美しさや真実に唯一通じていると思わせてくれるからだ。

「失くしたものは失くすべきもの」という、早世したある歌手の言葉を思い出した。彼らは、自分を縛り付けるものを、そんな風にあきらめ、救われるときが来るだろうか。泣きながら酒を飲んだことのある、全ての人に寄り添うような傑作だと思う。

定価 1800円(税別) B6判 書肆侃侃房

紹介するのは

蔦屋書店熊本三年坂
榮 詳平さん

映画と音楽と、楽しい酒のために働く書店員