【577号】LGBTQ+について考えよう
誰もが生き生きと暮らせる社会に
熊本市で、性的少数者(LGBTQ+)のカップルを婚姻と同等の関係として認める「パートナーシップ制度」がスタートして2年―。社会で少しずつ性の多様性への理解が深まりつつある一方で、知識の不足による偏見があるのも事実です。一人一人が尊重し合い、生き生きと暮らせる社会にしていくために、「LGBTQ+」についての理解を深め、一人一人ができることについて一緒に考えてみましょう。
自分の周りだけでなく社会全体に目を向けよう
「LGBTQ+」という言葉を見かける機会は増えましたが、まだ知らない人も多く、差別や偏見も残っています。弁護士で、性的少数者の支援団体「くまにじ」メンバーの森あいさんは、「熊本でも、同性を好きになる人や生まれた時に決められた性別になじめない人が暮らしています。海外や東京のことではありません。しかし、異性を好きになる人ばかりではないなど、性が多様であることを学ぶ機会は、今は増えていますが、以前はなかなかありませんでした。法律などの制度も人々の意識も、性が多様であることが前提になっておらず、LGBTQ+は困りごとに直面しがちです」と言います。
男性だから、女性だからという枠にとらわれず、一人一人が尊重される社会にしていくためには何が必要か―。
6月は、LGBTQ+の人権や、文化について考えるイベントが世界各地で行われる「プライド月間」。皆が生きやすい社会へ向けて、私たち一人一人ができることを考え、一歩を踏み出しましょう。
「くまにじ」メンバー 弁護士
森 あい さん
阿蘇法律事務所
皆がハッピーに暮らせる社会へ必要なこと
「男」「女」とひとくくりにしがちですが、性はたくさんの要素があり、一人一人違います。LGBTQ+の声から、性の多様性を知り、皆がハッピーに暮らしていける社会に必要なことを考えてみましょう。
性を構成する要素
ジェンダー表現
服装、しぐさ、言葉遣いなどで社会的性別に関し、なされる表現
性的特徴
性器、染色体、ホルモンなど性に関する身体的特徴
性的指向
恋愛感情や性的関心の対象がどの性別に向くか(好きになる性)
性自認
「男性である」「女性である」「男性と女性のどちらでもある」「どちらでもない」などといった、性別の自己認識・アイデンティティー
さまざまな性の在り方
性的指向
Lesbian(レズビアン)
性自認が女性で、性的指向が女性に向く人
Gay(ゲイ)
性自認が男性で、性的指向が男性に向く人
Bisexual(バイセクシャル)
異性を好きになることもあれば、同性を好きになることもある。性的指向が同性・異性どちらにもに向く人
Asexual(アセクシャル)
恋愛感情や性的関心を他者に対して抱かない人
性自認・ジェンダー表現
Transgender(トランスジェンダー)
出生時に割り当てられた性別とは異なる性を生きる人、生きることを望む人
(トランスジェンダーの定義には幅がある)
Xgender(エックスジェンダー)
男性・女性に二分できない性自認を持つ人
Questioning(クエスチョニング)
クエスチョニングは性自認や性的指向が明確ではない人、探している人、決めかねている人、決めていない人
大事なのは、人数が多い方が正しいのではなく、また誰の在り方も同じではなく、多様であり、一人一人が大切だということ。自分と違う在り方の人も共にこの社会で暮らしていることを認識することです。
男であろうと、女であろうと、あんたの子に変わりない
曽方 晴希さん(31) Sogata Haruki
幼少期から好きになるのは同性の女の子。とにかくやんちゃで、活発な子でした。4年生で初潮を迎えた時は衝撃を受けました。少しずつ体にも変化が見られ、この頃からいじめを受けるようになり、人が怖く、嫌いになりました。内向的になり、5〜6年生は学校に行けませんでした。
今でこそジェンダーレスな男女兼用の制服が出てきましたが、中学ではとにかくスカートをはくのが嫌で、「学ランを着る」と言い張っていました。中学でも教室にはほとんど入れず、部活だけが救い。ただ自分の中でも自認が揺らいでおり、友達にも心を開けず自傷行為を繰り返していました。
親の勧めで高校は定時制に入学。この時期は、両親の離婚などもあり精神的に限界で、毎日死を考えていました。性別への違和感について手紙を書き母の枕元に置きました。しかし母からは何も反応がなく、勇気を振り絞り切り出すと、母は祖母に相談をしていたようです。祖母は「いつかそうなるのではと思っていた。女の子でも男の子でも、あんたの子に変わりはない」と。祖母の一言で母も「あの子らしく生きてくれればそれでいい」と自分なりに理解し、それを僕に伝えてくれました。祖母の理解と一言がなければ、今の僕はいなかったかもしれません。母へのカミングアウトをきっかけに、それまで人と接するのが嫌で怖かったのが、楽しさに変わりました。偽りのない素の自分でいられる。自分の中に封じ込めていた思いが一気にあふれ出たようでした。
Profile
1989年、熊本市生まれ。公立小・中学校から定時制高校に進学。17歳でトランスジェンダーであることをカミングアウト。熊本地震後、性的少数者の有志でつくる団体の立ち上げに関わり、啓発活動を行う。現在は脱退し、中央区に新たな居場所を開設。フリーター。
人を人として見るー。性別はその後についてくるもの
皆さんがもしカミングアウトされたら、もちろん驚くと思いますし、むしろそれが自然。しかしそこから、勝手に第三者に伝えてしまうアウティングだけは、絶対にやめてください。すぐに受け入れられなくてもいい。受け止めてくれるだけでいいのです。
24歳で名前を変え、2年前に性別適合手術を受けました。戸籍の性別はそのままですが、手術したことで自分の性的少数者に対する考え方も大きく変わりました。FTM(身体的性が女性で、性自認は男性)にもさまざまな形や生き方がある。捉え方、考え方も人それぞれ。全てが一様である必要はないと思えるようになりました。これは性的少数者だけでなく、社会全体にも言えることです。
熊本地震後、さまざまな場所で講演をする機会を頂きました。今はいろんな考えや悩み、生き方を持った人が集える居場所づくりを進めています。
僕たちは、誰かと支え合って生きている。それが「人」なのだと思います。根本的なものは何ら変わらなくて、性別はその後に付いてくるものでしかないのです。誰もが住みやすい、人を人として見られる、そして一人一人を尊重できる社会になってほしいと思います。
どんなことで困るの?性が多様であることを前提としない社会では、さまざまな場面で困りごとに直面します。
※「くまにじ」が実施した、熊本県在住または在住経験のある性的少数者へのアンケート(2017年12月~18年2月)などから構成
好きになる性別に関する困りごと
学校
保健の教科書に“異性への興味が強くなる”と書かれていて、自分は普通じゃない、居場所がない感じがした。
職場
配偶者の有無を尋ねられる、飲み会で恋ばなに溶け込めないなどから、心を開かないとレッテルを貼られがち。
住居
パートナーと同棲(どうせい)したくても、「ルームシェアはできない」と断られた。
生まれた時に決められた性別になじめないことなどからの困りごと
学校
大嫌いな制服を着続けること。
周りからどんな目で見られているのだろうと不安になった。
トイレや着替え、プールの授業も同様。
病院
- 受診した際に、見た目の性とのギャップがあるため医師の反応に困った。
- 健康診断は、女性として見られるのが苦痛で行ったことはない。
胸にしこりを見つけたが婦人科受診をためらい、かなり時間が経過した後に、精神科医に外科を紹介してもらった。
トイレ
トイレで二度見、三度見される。
就職
履歴書なども男性か女性かの前提になっている。
苦痛が多く、仕事に就くことを諦めるしかない。
災害時
- 避難者名簿に戸籍上の名前を書かなくてはならないと思い、避難所に行けなかった。
- 自認している性別に応じた下着や衣類、物資がもらえない・もらいづらい。
選挙
期日前投票で、本人ですと言っても、免許証を見せてもダメ。
性同一性障害ですと言わないといけないときがあった。
支援の輪を広げよう
さまざまな悩みを一人で抱えていませんか? 同じ悩みを持つ人や支援者とつながれる団体や相談機関を紹介します。
ともに拓くLGBTQ+の会くまもと
2013年4月、性的少数者の思いを相互に共有できる場づくりとして発足。多様な性に生まれている全ての人が、自分らしく暮らしていける社会を目指して、性的少数者自身が運営、活動しています。交流会を開催(現在は不定期)するほか、性的少数者やその家族などからの相談にも対応。また、性的少数者について正しく知り、理解してもらうために、さまざまな講演活動も行っています。
くまにじ
熊本を、法律上の性別が男でも女でも、自分の性別を何と思っていても、好きになる人の性別が何でも、一人一人が大切にされ、その人らしく生きられる場所にしていくために、行政への提言や、調査、自治体・企業、小・中・高校、大学などでの研修・講演などを行っています。2カ月に1回、LGBTQ+に関することをさまざまなテーマから学ぶことができる公開学習会を開催。誰でも参加できます。
迷ったり、悩んだりしている人の相談機関
FRENS
電話相談(家族など周りの方も相談可)など、24歳以下のLGBTQ+の子ども・若者をサポートするための活動を実施。
https://www.frenslgbtq.com/
にじいろ talk-talk
セクシュアリティーの無料LINE相談を月2回開催(不定期)。
Twitterアカウント:@LLinq2018
LGBTの家族と友人をつなぐ会
当事者のサポートの他、周りの家族や友人が当事者を受け入れていくサポートをします。
http://lgbt-family.or.jp/
よりそいホットライン
24時間、フリーダイヤルで性別の違和や、同性愛に関わる相談ができます。
フリーダイヤル 0120-279-338(4番)
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