【386号】曲げわっぱ 大解剖

インスタグラマーに人気! 伝統の技術と知恵が詰まった弁当箱

作ったお弁当をSNSで紹介する人が増えている昨今、インスタグラマーの間でも大人気の弁当箱が「曲げわっぱ」。フォトジェニックな見た目だけでなく、機能性にも注目が集まっています。熊本では球磨地方の「一勝地曲げ」が有名。そこで、すぱいす読者スタッフがその魅力に迫るとともに、曲げわっぱ作りに挑戦しました。

一勝地曲げの職人、淋(そそぎ)正司さん。「今では、自分自身が一勝地曲げを作るための道具の一つです」

曲げわっぱ作りを体験した岩元亜希子さんと宗一郎くん。「子どもにとって、貴重な経験になりました」


一勝地曲げを通して、古くから日本に伝わる技術の素晴らしさを伝えたい。

「曲げ物を作り始めたきっかけは、ずばり一目ぼれ」。一勝地曲げを手掛ける『そそぎ工房』の淋正司さんは25歳の時、球磨地方に古くから伝わる工芸「永野曲げ」の入れ物を目にし、曲がっている木材に衝撃を受けたといいます。「どうやって木を曲げているんだろう?」。作り方を調べるうちにどんどん曲げ物の魅力にのめり込んでいきました。

当時、深刻な後継者不足に陥っていた永野曲げ。淋さんは「このような素晴らしい伝統を絶やしてはならない」と一念発起し、技術を継承する決心をしました。曲げ物師「松舟栄」(浪若)氏のもとで修業を積むこと3~4年。出身地である球磨郡球磨村一勝地に工房を構えたのが、一勝地曲げの始まりです。

曲げ物一筋に35年。技術を磨きながら、工芸品としてだけでなく、道具として使える曲げ物作りに取り組んできました。「時代の変化とともに、曲げ物も表現の方法を変える必要があると思うんです。使えればいいというだけなら、便利なものは他にたくさんある。曲げ物も生活用品だからこそ、実際に使う人に評価を求め、進化させていきたい」と話します。

インスタ映えする姿・形から、今では若い世代までもが注目する「曲げわっぱ」。実際に使ってみると、見た目もさることながら、木が“呼吸”することで「食材が傷みにくい」「冷めてもおいしい」という機能に驚かされます。天然素材だけで作られた一勝地曲げは、傷んだり汚れたりしてもメンテナンスが可能。製品一つ一つに職人の技術と魂、そして培われてきた知恵が詰まっているのです。

淋(そそぎ) 正司 さん
一勝地曲げ職人。弁当箱作りのワークショップでは講師も務める。

◆曲げわっぱの特長◆

曲げわっぱの弁当箱は本体とふたで1セット。側面の曲げ部分と天板・底板をそれぞれ組み合わせて作ります。側面は耐久性と調湿性に優れ殺菌効果もあるヒノキ、天板・底板には調温・調湿性に優れたスギが使われています。そのため、温かいご飯を入れると余分な水分を吸収してくれるので、冷めてもふっくらおいしいご飯が味わえます。

工房内には製作途中の曲げ物が所狭しと並びます。整理された工具類、サイズ・形ともにさまざまな曲げ物を見ると思わず心が躍ります



曲げわっぱができるまで

(1) ヒノキの厚木を仕入れる
(2) 厚木を1年ほどかけて乾燥させる
(3) (2)を用途に応じて仕分ける(弁当箱向きか見極める)
(4) (3)を厚さ3〜5ミリくらいの薄板に加工する
(5) 弁当箱のサイズに合わせて裁断する
(6) 表面をかんなで仕上げる
(7) 煮沸して曲げる
(8) 木挟みで固定して、1週間ほど自然乾燥させる
(9) 弁当箱の形に整え、重なる部分を山桜の皮で閉じる
(10) 竹くぎを使って(9)と底板・天板を固定する

張り合わせた部分を木挟みで固定

天板・底板の加工には出羽包丁を使うことも


こんなとき、どうすればいいの?

曲げわっぱ Q&A

Q.メンテナンス法は?

A.柔らかいスポンジを使って、食器用洗剤で洗います。洗浄後は水気を拭き取って陰干しし、通気性の良い場所で保管します。食器洗浄機でも洗えますが、乾燥する場合は20分以内に。木材が乾燥し過ぎて、割れる原因になります。

Q.具材の汁や油などで弁当箱が汚れてしまわないか心配です。

A.弁当の中にクッキングシートを敷くのがおすすめです。ラップやアルミに比べ、木材の通気性と吸湿性を損ないません。


「自分で作れた!」世界に一つだけのMY弁当箱に子どもたちも大喜び♪

夏休み期間中、すぱいす読者スタッフが「曲げわっぱワークショップ」に参加。スタッフの家族も加わり、皆で一緒に弁当箱作りを楽しみました。実際に体験できる工程は最後の2つしかありませんが、簡単そうに見えて想像以上に難しい作業。頑張って作った弁当箱だからこそ、愛着もひとしおです。

ワークショップ

STEP(9)(10)を体験!

材料はこちら

(9)側面の重なる部分を山桜の皮でとじる

「縫いさし」という道具で、側面が重なっている薄板の部分に穴を開けます。縫いさしを上手に使いこなすコツは、手首を使って小刻みに押し込むこと。慣れてくれば、子どもでも比較的簡単に穴が開きます。その穴に山桜の皮を通しながら、裁縫の要領で薄板同士を固定します。

(10)竹くぎを使って固定する

側面と天板・底板を組み合わせ、側面の四方から竹くぎを打ち込んで固定します。竹を削って作られている竹くぎは、木材と同様に空気中の湿度に応じて伸縮。そのため、時間がたっても緩むことがありません。

勝目幸那さんと雅久(がく)くん

小山知枝さんと紗葵(さき)ちゃん

岩元宗一郎くん

大塚日和ちゃん

完成品はこちら

小山真葵(まき)ちゃん


曲げわっぱ作りを体験して

水分多めに炊いてしまったご飯。でも、木が水分を吸収し、食べるころにはちょうどよい加減になっていました。
(橋本さん)

いつものお弁当が1.5倍増しでおいしくなって、料理上手になった気分でした。
(勝目さん)

「ご飯がおいしかった♪」と幼稚園帰りの次女が大絶賛。普段使いの食器と同様に手入れができて助かります。
(大塚さん)

ワークショップの翌日に腕が筋肉痛になるほど頑張りました!
(小山さん)


そそぎ工房

出張ワークショップの受け付けは10人以上からで、1個3000円+出張費。製作はオーダー制で、9月初旬現在で約2カ月待ち。

左上・菓子器(8000円)、右上・コーヒーカップ(2500円~)、中・松花堂弁当箱(1万2000円~)。長年使い込むと、色味が深さを増し、手触りも滑らかに。木材が黒ずんでしまったら、郵送での修理も可。