【540号】命を守るために考えたい 避難の新常識

7月4日に県南、7日には県北に甚大な被害をもたらした熊本豪雨。多くの命や財産が失われ、私たちは自然災害の恐ろしさを再認識させられました。命を守るための避難の大切さについてもう一度考えてみませんか。

7月3日夜から4日朝にかけて活発化した梅雨前線の影響で県南地域は猛烈な雨を記録。河川の氾濫で完全に水没した人吉市街地。奥は球磨川にかかる大橋(7月4日午前9時20分ごろ、人吉市寺町)


経験に頼らない「避難の新常識」を身に付けよう

ここ数年、全国各地でこれまでの経験を超える自然災害が多発しています。この時季は台風の動きにも警戒が必要です。私たちは大切な命を守るために、これまでの避難に対する考え方を見直す必要がありそうです。すぱいす・ライター百が、熊本大学くまもと水循環・減災教育センターの藤見俊夫准教授に、「避難の新常識」について聞いてきました。

※撮影のためマスクを外しています

話を聞いた人

熊本大学 くまもと水循環・減災研究教育センター 減災型社会システム部門
藤見 俊夫 准教授

愛媛県出身。京都大学農学部や防災研究所を経て、2006年から熊本大学に。行動科学を専門とし、防災時の行動などについて研究。熊本豪雨災害発生翌日の7月5日には現地入りし、災害調査速報を発表している。


7月熊本豪雨災害は大きな衝撃でした。

藤見

気象庁によると、7月4日までの12時間雨量は、球磨川流域の大半の地点で観測史上1位の300~400㎜台を観測。2018年に広島や岡山で起こった西日本豪雨の200~300㎜台を大きく上回る猛烈な雨になりました。17年の九州北部豪雨や、昨年、東日本に甚大な被害を出した台風19号なども記憶に新しく、自然災害は激甚化し、頻発する傾向[新常識(1)]にあります。これからは「災害は身近な場所で起こる」という認識に改める必要があると思います。

新常識(1)「これまで被害がなかった」は通用しない

自然災害は激甚化、頻発する傾向 「自分の身にも起こり得る」と考える

被害に遭った人たちは口々に「これまでの人生で、こんな災害は初めて」と話します。ここ数年、台風、集中豪雨など「数十年に一度」の気象現象が頻発し、被害は激甚化しています。私たちの災害に対する「過去の経験」は、もはや役に立たないものと認識すべきです。これまでの常識や先入観を捨てて「災害は自分の身にも起こる」と考えなければなりません。


藤見

ところで、「避難指示」が出たら、百さんは速やかに避難できますか?

私の周りは大丈夫だと思って、逃げないかも…。

藤見

多くの方がそう答えると思います。「避難は大切」と分かっていても、「自分だけは大丈夫」と思い込み、避難しない人が多いのです。人間の思考パターンを理解[新常識(2)]し、命を守るための適切な避難に結び付けることが大切です。

新常識(2)「正常性バイアス」のメカニズム

都合の悪い情報は考えたくない? 脳の特性を理解して正しい判断を

「正常性バイアス」は心理学用語です。人間は、脳の特性として自分に都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりすることが知られています。危険が迫っていても「自分だけは大丈夫」「もう少し大丈夫」などと考えがちで、「逃げ遅れ」の原因といわれています。脳の特性を理解して、正しく判断し、命を守る避難行動を心掛けましょう。


藤見

それでは、どう行動に移すのか―。判断基準として「警戒レベル」など、自治体から出される情報が一つの基準になります。平時からハザードマップをよく見ておいて、自分の家などの水没や土砂災害の危険性がどれくらいあるのかを認識。個人や地域レベルでの「避難のきっかけ」を決めておく[新常識(3)]ことをお勧めします。「赤ちゃんがいるからレベル3で」「水がここまで来たら」―など、避難のタイミングを決めておくと迅速な行動につながります。

新常識(3)事前に決めておきたい「避難スイッチ」

ハザードマップ、警戒レベル… 「逃げるきっかけ」を事前に決めておく

ハザードマップや警戒レベルなどを参考に「この状況になったら避難する」という「きっかけ」を決めておくと、迷わず避難行動に移すことができます。京都大学の矢守克也教授はこれを「避難スイッチ」と命名。避難は「空振りではなく、素振り」とし、何事もなかった場合でも「本格的な避難訓練ができた」と、以降につながる“素振り”と前向きに捉えてほしいと呼び掛けています。


新型コロナウイルスへの心配もありますが…。

藤見

感染症を、避難しない理由にしていませんか。[新常識(4)]非常時には、ウイルスよりも土砂災害や水に流されて命を失うリスクの方が大きいと認識すべきです。持病があるなど、どうしてもウイルスを避けたい場合、知人や親戚宅なども避難先として想定しておいてください。

避難する際の注意点を教えてください。

藤見

ケースによってさまざまですが、例えば水害では水没後の移動はかえって危険。見えない水路などに気付かず、流されて亡くなる人が後を絶ちません。逃げられない場合は、家の2階以上の崖から遠い部屋に避難するなど、少しでも命が助かる行動を取ってください。

新常識(4)コロナ禍でも、命を守るための避難が優先

複数の避難先を想定しておこう 感染症防止グッズも持参して

「コロナ禍で、避難所に行くのが心配」という声を耳にしますが、命を守る避難の方を感染症よりも優先することは言うまでもありません。昨今の状況を受け、指定避難所以外の避難場所を想定しておくことも大切。知人や親戚宅を考えているなら、平時から相談しておきましょう。避難の際には「体温計」「マスク」「消毒液」などの感染症対策用品も忘れずに。


自ら判断、行動するために 災害時、命を守る 正しい情報収集を!

日頃からハザードマップで自分の住む土地にどういう災害リスクがあるのかを確認しておきましょう。非常時には気象や避難に関する情報が行政などから発信されます。雨雲の接近などがリアルタイムで確認できるサイトなども活用し、速やかな避難行動につなげてください。災害時には、増水など河川の状況が気になりますが、直接見に行くのは危険。ライブカメラで確認できるサイトなどを活用しましょう。

防災情報くまもと

気象や避難などの情報をリアルタイムで発信。各種ハザードマップも表示。
https://portal.bousai.pref.kumamoto.jp/

熊本市統合型ハザードマップ

洪水、土砂災害、高潮、津波を統合した熊本市のハザードマップ。
http://kumamoto-hazard.sakura.ne.jp/

熊本河川国道事務所サイト

白川水系や緑川水系などのライブカメラが常に見られるサイト。
http://www.qsr.mlit.go.jp/kumamoto/


もし浸水したら 水の中には危険がいっぱい

すでに水没している場合、道路などを車や徒歩で避難するのはとても危険。水の中には水路やふたの開いたマンホールが隠れているかも。ガラスなどが落ちていてケガをする恐れもあります。水が引くまで建物の中の高い場所に一時的に避難して命を守る行動を取りましょう。

水害時のアドバイス

■水没した車や家電製品のエンジンをかけたり、電源を入れたりしてはダメ。感電の恐れがあります。
■被害の状況をいろいろな角度から撮影しておきましょう。り災証明発行や保険金請求の際に役立ちます。