【541号】すぱいすフォーカス – 疫病封じは、今も昔も神頼み!?

新型コロナウイルスの広がりを受けて、熊本ゆかりの妖怪「アマビエ」が全国的に注目を集めています。医療が進歩した現代も、人々は疫病や天災が起こると、神仏に祈りをささげることを忘れません。今回は郷土史家の辻春美さんに、疫病にまつわる県内の大絵馬を紹介してもらいました。

教えてくれたのは

郷土史家
辻 春美さん

熊本歴史学研究会、玉名歴史研究会、郷土史談会の各会員。神社にある大絵馬に関心を持ち、約6000点を訪ねる。著書『くまもと美と祈りの絵馬行脚』は、ことし第41回熊日出版文化賞を受賞。


合格祈願などで、私たちにもなじみ深い絵馬。でも「大絵馬」って聞くと「何だろう」と思う人もいるのでは? 大絵馬とは、神社の拝殿などに掛かっている畳1畳分くらいの大きな絵馬です。多くは地域の人々が五穀豊穣や健康長寿、子孫繁栄、戦争からの無事の帰還などを願い神社に奉納しました。そこには、人々の祈りや願い、暮らしぶりが描かれていて、先人たちの”心の声”を知る手掛かりとなります。


大絵馬は神様に氏子の祈りを伝える

「熊本県内には、疫病に関する大絵馬が残っていて、今でも見られますよ」と話すのは、郷土史家の辻春美さんです。辻さんは、県内外の800もの神社を訪ね歩き、絵馬から垣間見える人々の祈りの声に耳を傾けてきました。

山北八幡宮(玉名郡玉東町)には、1850年代に奉納された鍾馗(しょうき)の大絵馬があります。鍾馗とは、中国の疫病よけの守り神として日本に伝わり、江戸時代から信仰を集めました。右手に長剣を携え、鋭い眼光で仁王立ちする姿は五月人形でもおなじみです。この頃、県内ではコレラが流行しており、当時の人々の疫病封じへの切実な思いが伝わってきます。

高森阿蘇神社(阿蘇郡高森町)には「源為朝と三鬼の弓の力比べ図」があります。弓の名手だった源為朝の鬼退治伝説になぞらえ、「鬼退治=疫病神退治」として、たびたび大絵馬の題材に取り上げられました。

風雨にさらされ、色あせた大絵馬から得られる情報は、多くありません。しかし、人々の思いを今も宿し、私たちを見守っていることが伝わってきます。

※神社は常識や節度を持って参拝しましょう。

「鍾馗図」
山北八幡宮 玉名郡玉東町白木1376

[絵馬豆知識]絵馬と、馬との深い関係

馬は古代より、神様の乗り物と信じられ、神社には生き馬を奉納する風習がありました。その後、生きた馬に代わり泥で作った馬、やがて板に書いた絵馬を奉納するようになったのが絵馬の始まりです。その後、絵の題材は多様化し、神話や芸能、世相などが描かれるようになりました。

「源為朝と三鬼の弓の力比べ図」
高森阿蘇神社 阿蘇郡高森町高森409


「いざ」というときの人頼み! 今も昔も医療従事者に感謝

大絵馬の中には、医療従事者の奮闘ぶりを描いたものもあります。四町分菅原神社(菊池市)の大絵馬は、日露戦争時に日本赤十字社の人たちが負傷兵の治療に従事する様子が描かれています。今も昔も医療従事者の奮闘なくして疫病や災害を乗り越えることはできません。先人たちは、医療に携わる人への感謝の思いを込めてこの絵馬を奉納したのかもしれません。

「日露戦争(赤十字活躍)図」(一部)
四町分菅原神社 菊池市四町分2807(塚原構造改善センター隣)


白隠が描いた鍾馗さんに会いに行こう!

9月18日から行われる展覧会永青文庫創立70周年記念「歴史をこえて 細川家の名宝 国宝“細川ミラー”期間限定公開!」(熊本県立美術館)では、永青文庫所蔵の「鍾馗図」の展示を行います。江戸中期の禅僧である白隠慧鶴(はくいんえかく)(1685~1768)が描いた迫力満点の「鍾馗さん」に会いに行こう!

永青文庫創立70周年記念 「歴史をこえて 細川家の名宝 国宝"細川ミラー"期間限定公開!」

※会期中に一度展示替えを実施予定。 「鍾馗図」の展示は前期のみ(9月18日~10月18日)

開館/9時30分~17時15分 (入館は16時45分まで)
休館日/毎週月曜 ※月曜が祝日の場合は開館し、翌平日休館。
会場/熊本県立美術館本館第2展示室 第1室

※新型コロナウイルス感染症拡大状況により、変更・中止する可能性があります。当館HPにてご確認ください。

永青文庫所蔵の「鍾馗図」


ひし形の目とロングヘアー。コロナ時代の救世主!? 熊本発の妖怪 アマビエ

アマビエは、江戸時代、肥後国(熊本県)に現れ「疫病がはやったら、この姿を描き写した絵を人々に見せるように」と告げたと伝わる半人半魚の妖怪です。この逸話から新型コロナウイルスを鎮めてくれるのではないかと評判になり、 “ゆるキャラ”のようなルックスも相まって、SNSでアマビエのイラスト投稿が盛り上がりました。