【570号】熊本地震から5年 一歩一歩よみがえる 熊本の宝もの(上)

熊本地震の発生から間もなく5年を迎えます。地震はさまざまな所に大きな被害を与えました。その一つが「文化財」です。長い歴史の中で生まれ、育まれ、今日まで守り伝えられてきた貴重な財産の復旧作業が現在、進められています。その中から7件の現状と、その価値について紹介します。

往時の姿へ 復旧工事着々と

今年12月に神殿が再建予定の「木山神宮」(益城町)、3月に主屋(しゅおく)の復旧が完了した「江藤家住宅」(大津町)、そしてこのほど天守閣が完全復旧した「熊本城」(熊本市中央区)をクローズアップします。

[益城町 町指定史跡]木山神宮

12月26日 神殿 復旧完了予定

被害の大きかった益城町中心部にあった木山神宮は、江戸時代(1752年)に建立された神殿や、拝殿、楼門、鳥居など境内の全ての建造物が熊本地震で全壊しました。2019年12月から神殿の再建工事が始まっており、今年12月26日に完成予定です。既に14本の神殿柱が立ち、現在は屋根の工事が進められています。禰宜の矢田幸貴さんは「再建に伴い、地中に14本の耐震杭を打ち、さらに特殊な繊維で作ったロープを神殿の中に通して地中と神殿を固定するなど耐震補強に取り組みました。お宮を100年、200年先へと受け継いでいくための貴重な機会と前向きに捉えたい」と話しています。

[復旧のポイント 01]部材はできるだけ再利用

右端の神殿柱は新材。その左の神殿柱は下部分が新材で、上部分が再利用したもの

[復旧のポイント 02]宮大工による匠(たくみ)の技で部材を製作

境内に設けられた複数の作業場では、地元の宮大工たちの手によって、破損した部材の修復や製作が進められています

釿(ちょうな)と呼ばれる伝統工具を使って丸太を荒削りしていく宮大工

工事を取りまとめる西嶋工務店の西嶋大輔さんは益城町出身。「地元のなじみある神社の復旧のお手伝いができてうれしいですね」

ココがすごい

益城町の中心部には「宮園遺跡」があり、木山神宮もその中にあります。地震後の調査で歴史的な価値が再確認され、2017年10月、境内地が町重要文化財(史跡)に指定されました。神殿の再建に当たっては、部材をできるだけ再利用し、元の姿に戻すことを重視しています。また、国内の文化財で耐震補強に取り組んだ建造物はまだ少ないので、ここが一つの参考事例になるのではと期待しています。

木山神宮 禰宜
矢田 幸貴さん

地震直後の様子

地震直後の木山神宮神殿。柱が倒壊し、屋根がそのまま地面に落ちたような姿に

(写真提供:木山神宮)

お問い合わせ

木山神宮

住所
上益城郡益城町木山283
TEL
096-286-5185
駐車場
あり

[大津町 国重要文化財]江藤家住宅

3月31日 主屋 復旧完了

大津町には江戸時代末期に建てられた大きな邸宅が数多く残っています。中でも最大級のものが江藤家住宅です。豪農と武家、両方の特徴を併せ持つ建造物で、主屋をはじめ、中の蔵、馬屋、長屋門、裏門などの付属建物、石垣が国の重要文化財に指定されています。熊本地震で主屋は大きく傾き、瓦のほとんどが落下。蔵や馬屋、裏門も大きな被害を受けました。しかし、7年がかりでの復旧計画が進んでおり、3月末、先行して主屋の復旧が完了しました。江藤家11代当主の武紀さんは「暮らしながら“生きた文化財”として維持管理していきます」と話します。

江藤家住宅の主屋。地震後、部分解体して修理が進められました。右側が玄関、左側が土間へ通じる扉です

[復旧のポイント 01]ふすま絵などきれいに修復

主屋の土間。地震後、丁寧に解体し復旧したことで見事によみがえりました

主屋の座敷。ふすま絵は地震で破れたり、その後の雨漏りで傷んだりしましたが、京都の修理絵師の手できれいに修復されました

[復旧のポイント 02]当主、町、業者が連携

左端は大津町教育委員会の埋田康弘さん。左から2番目と右から2番目、右端は復旧工事の設計監理に携わる「文化財保存計画協会」の技術者。その他、多くの人たちの協力で作業が進んでいます

ココがすごい

美しいふすま絵や欄間などで彩られた座敷は、武家ならではの華やかさ。一方で、農作業で使う広々とした土間も備わっています。現在までその姿を残していることに大きな価値があります。また、文化財に指定されている民家に今なお住み続けていることも全国的に珍しいケースです。

11代当主
江藤 武紀さん

地震直後の様子

地震直後の主屋。土間上部南側の瓦が落下、建物自体も大きく傾き、全壊と判定されました
(写真提供:文化財保存計画協会)

お問い合わせ

江藤家住宅

住所
菊池郡大津町陣内1652
TEL
096-293-2180 (大津町教委生涯学習課)
備考
※工事中のため敷地内への立ち入りはご遠慮ください

[中央区 国指定特別史跡・国重要文化財]熊本城

4月26日 天守閣内部 公開スタート

熊本城は、石垣や建造物など全域にわたって甚大な被害が生じました。2038(令和20)年の完全復旧(予定)に向けて工事が進む中、今年1月、長塀(国重要文化財)が復旧。さらに3月末に大小天守閣の復旧が完了し、4月26日、「熊本城特別公開第3弾」として天守閣内部の公開がスタートする予定です。展示内容や内装が刷新されるとともに、地震前はなかった西南戦争以降から近現代までの展示も追加され、さらにスマートフォンAR(拡張現実)アプリやプロジェクション映像など、最新の技術も取り入れられています。

大天守6階の展望エリア。スマートフォンARアプリで、明治初期の古写真を現在の景色に重ねることができます

天守閣への入り口となる小天守地階。特別史跡である石垣を内側から見ることができます (写真提供:熊本城総合事務所)

ココがすごい

1955(昭和30)年、熊本城は「熊本城跡」の名称で、石垣や堀が、国の「特別史跡」に指定されました。これは土地の国宝に当たるもので、全国で63件しかありません。築城当時の姿を残す石垣や堀にぜひ注目いただきたいですね。また城内には、「宇土櫓」や「長塀」など13の国指定重要文化財があり、熊本城はまさに文化財の宝庫と呼べる場所です。

熊本城総合事務所 熊本城調査研究センター
金田 一精さん

地震直後の様子

お問い合わせ

熊本城

住所
熊本市中央区本丸1‐1
TEL
096-223-5011 (熊本城運営センター※受け付けは9時〜17時)
駐車場
あり ※公開時間、入園料はホームページ(https://castle.kumamoto-guide.jp/)参照

復旧進む主な文化財

[阿蘇市 国重要文化財]2000年超の歴史持つ古社―阿蘇神社

2023年 楼門 復旧予定

2000年以上の歴史があると伝えられる阿蘇神社は、国重要文化財の楼門や神殿をはじめ、境内のほぼ全ての建造物が熊本地震で甚大な被害を受けました。工事が進んでいる楼門は2023(令和5)年に復旧完了予定。同じく工事が進む拝殿・翼廊は今年6月に再建予定です。

復旧中の楼門

被災前の楼門(写真提供:阿蘇神社)

お問い合わせ

阿蘇神社

住所
阿蘇市一の宮町宮地3083‐1
TEL
0967-22-0064
駐車場
あり

[中央区 県重要文化財]熊本最古の木造洋風建築―ジェーンズ邸

2023年度 復旧・公開予定

熊本洋学校の外国人教師リロイ・ランシング・ジェーンズの住居として、1871(明治4)年に古城(現在の県立第一高校内)に建てられた熊本最古の木造洋風建築です。熊本地震で全壊しましたが、場所を旧熊本市立体育館跡地に移し復旧が進められています。2023年度の初めごろに復旧・公開予定です。

復旧中のジェーンズ邸(写真提供:熊本市)

被災前の姿(写真提供:熊本市)

お問い合わせ

ジェーンズ邸

住所
熊本市中央区水前寺公園
TEL
096-328-2740 (熊本市文化財課)

[東区 市指定文化財]幕末の思想家 横井小楠旧居―四時軒

2022年度 復旧・公開予定

幕末の思想家・横井小楠は1809(文化6)年、現在の熊本市に生まれました。「四時軒」は小楠が55(安政2)年から68(明治元)年まで暮らした旧居で、坂本竜馬も訪ねたとされています。熊本地震により半壊したため解体され、現在復旧の準備中。2022年度中に復旧・公開予定です。隣接する資料館は公開中。

工事の様子(写真提供:熊本市)

被災前の四時軒(写真提供:熊本市)

お問い合わせ

四時軒

住所
熊本市東区沼山津1‐25‐91
TEL
096-368-6158 (横井小楠記念館)
駐車場
あり

[中央区 国重要文化財]漱石、ハーンゆかりの地―五高の建造物群

2021年 12月 復旧予定

熊本大学の前身である旧制第五高等学校(五高)は1887(明治20)年に創立され、夏目漱石やラフカディオ・ハーンが教員を務めたことでも知られています。その建造物群である五高記念館、化学実験場、表門、工学部研究資料館は、国指定重要文化財です。現在、復旧工事が進められており、今年12月に完了予定です。

被災前の五高記念館。なお、同記念館では現在、寄付を受け付け中。問い合わせは熊本大学基金・同窓会事業室☎096(342)2029へ。詳しくは「熊本大学基金」で検索(写真提供:熊本大学)

お問い合わせ

五高の建造物群

住所
熊本市中央区黒髪2‐40‐1(熊本大学)
TEL
096-342-2050 (五高記念館)