【571号】熊本地震から5年 私たちが大切にしていること(下)

今日4月16日は、熊本地震の本震発生から丸5年の日。一口に5年と言っても、復興への歩みや思いは一人一人違うでしょう。ただ、私たちは熊本地震で多くの経験をし、皆が大切な学びを得たはずです。それらを忘れないために、今回は各方面からのメッセージを届けます。

あの日の"思い" これからも忘れない

仮設住宅で暮らす被災者の復興を支える人や、復興ボランティアの経験から就職先を選んだ青年が大切にしている思い、震災の記憶を風化させないための県の取り組みなどを紹介します。

[Interview1]仮設入居者 今もゼロになるまで見守る

益城町社会福祉協議会 地域支え合いセンター長
遠山 健吾さん(42歳)

熊本地震発生から5年の歳月で着実に復興は進み、多くの人が元の生活に戻りました。しかし、「今なお仮設住宅で暮らす人たちがいることも知っていてほしい」と遠山健吾さんは話します。

遠山さんが率いる益城町地域支え合いセンターは、地域の地震被災者の暮らしに寄り添い、生活支援や地域交流のサポートなどを行っています。益城町では、自宅再建工事の順番待ちのほか、復興に伴う区画整理や県道の拡幅工事が続いている影響などにより96世帯、281人が仮設住宅での生活を余儀なくされています(3月末現在)。

同センタースタッフは、仮設住宅を巡回訪問し困り事や悩み事などをヒアリング。内容に応じて専門家や機関への橋渡しを行います。また、仮設住宅の退去後には新居での暮らしを訪問し、独居高齢者宅には定期的に顔を出し見守りを続けています。「〝伴走〟型の支援を行っていますが、決して依存になってはいけない。この先は〝独走〟で生活を前に進められるように促すことが、私たちのすべき大切なことです」

新たな土地で新居を再建した人、災害公営住宅で新生活を始めた人の中には、近隣と交流を持てずに悩んでいる人もいるそう。同センターでは木山仮設団地内の集会所や、災害公営住宅のあずまやなどで「お茶会」を開き、住民の交流促進を図っています。「集会などコミュニティーづくりの運営を、今後は住民が率先してやっていくのが理想。地震を契機とした〝新たな地域づくり〟に移っていかなければならない時期に来ていると思います」

木山仮設団地の入居者(右)を訪ねる益城町地域支え合いセンターのスタッフ

コロナ対策をしながら災害公営住宅で行われたお茶会の様子


[Interview2]復興ボランティア経験が働く価値観を変えた

熊本信用金庫 子飼支店 得意先係
原田 素良さん(24歳)

熊本信用金庫の子飼支店で働く原田素良さんは、大学2年の時に熊本地震に遭いました。「東区にある自宅はほとんど被害がなかったので、友人の誘いを受けて避難所のボランティアに行くようになったんです」。大学生活の多くの時間を費やした復興ボランティアの経験は、原田さんの働く価値観を変え、今の仕事へ導いたといいます。

益城町のテクノ仮設団地では、集会所に出張して開設する週末限定の「おひさまカフェ」を運営しました。卒業するまでの毎週土・日曜、欠かさずに通い続けられたのは「仮設に住む人たちが楽しみにしてくれていたし、私も楽しかったから」。

被災者と交流することで、原田さん自身もコミュニケーション能力が高まったといいます。それでも、自宅の再建資金や住宅ローンなどお金の深刻な悩みを打ち明けられると「学生の自分には何も提案してあげられなくて、聞くことしかできない無力さを感じました」。目の前の人たちの力になれるような仕事をしたい、そうした思いから金融業界への就職を目指したそうです。

地場の信用金庫を選んだのは地域に根差しているから。原田さんは今、得意先の資金繰りの提案や経営課題の解決、事業承継の相談に乗れるよう、仕事と並行して資格取得の勉強を続けています。ファイナンシャル・プランニング技能検定1級取得を当面の目標に、中小企業診断士や宅建の資格も目指します。「目の前の人の役に立ちたいという思いを大切にしています。プロの金融マンとして幅広いアドバイスができるようになり、得意先に『原田さんだから任せるよ』と言われたいですね」

得意先係として地域の中小企業経営者や個人事業主などのお金の相談に応じる

集会所で毎週末に開いた出張カフェでは被災者の真剣な話にも耳を傾けた

仮設団地で企画したハロウィーンなどのイベントは子どもたちの癒やしに


地震の記憶を風化させないために

震災遺構や情報発信拠点を巡って 災害への備えを見直すきっかけに

熊本地震の経験や教訓を確実に後世に伝承するため、県と関係市町村は県内各地に点在する震災遺構や熊本地震に関する情報発信の拠点などを巡る回廊型のフィールドミュージアム「熊本地震震災ミュージアム」の取り組みを進めています。

昨年8月には、中核拠点である旧東海大学阿蘇キャンパスの震災遺構の一般公開を開始。現地ガイドが震災遺構の案内と併せて熊本地震のすさまじさ、災害に対する日頃からの備えや命の大切さ、周りの人との助け合いの大切さを伝えています。ミュージアムを巡り、熊本地震について考え、自身の防災対策などを見直すきっかけにしてもらいたいです。

旧東海大学阿蘇キャンパスの震災遺構(被災した校舎等)と、熊本地震をテーマとした体験・展示施設(2023年度オープン予定)

被災した建物内部の様子

敷地内に現れた地表地震断層

見学するには

旧東海大学阿蘇キャンパスは、休館日(火曜/祝日の場合は翌平日)を除き、自由に見学できます(申し込み不要・入場無料)。
団体は事前申し込みが必要です。

公開時間やアクセスなどの詳細、その他の拠点の見学方法などについては、ホームページを参照してください。
https://kumamotojishin-museum.com/

お話を聞いたのは

熊本県観光交流政策課 震災ミュージアム担当
高岡 美菜さん