【602号】2021 今を楽しむ 未来に備える 30代、40代からの親子で考えるセカンドライフ

「セカンドライフを心豊かに過ごしたい」。そんな意欲的な人たちと、その子ども世代に向けて、今を楽しむコツと未来に備える方法をテーマごとに伝えるシリーズ「セカンドライフ特集2021」。第3回は「相続」と「シニア世代の生きがいづくり」です。

いざというときに慌てないために知っておきたい 「相続」Q&A[Part3]

「相続」と聞くと、何だかとても難しい話で、親子で面と向かって話し合う機会は少ないかもしれませんが、避けては通れない問題です。親子が元気なうちに、じっくり話し合っておくことが大切です。今回は相続の中から「相続放棄」について、上田弁護士に聞きました。

話を聞いたのは

上田法律事務所 代表
上田 祐輔 弁護士

「相続」をする際には3つの選択肢があります。この機会にどんな選択肢があるか見てみましょう。


[Q1]「相続放棄」という言葉をよく耳にしますが、どのような場合に放棄することができるのですか?

A

相続が発生した場合、相続人は「単純承認」(全ての財産を相続する)、「限定承認」(相続をする財産の範囲を限定する)、「相続放棄」(初めから相続人にならなかったことになる)の3つから、いずれかを選択することになります。被相続人の財産全てを相続したくない場合は、「相続放棄」を選択することにより、その相続を放棄することができます。

「相続放棄」をする場合は、相続があることを知ってから3カ月以内(この期間を「熟慮期間」と言います)に家庭裁判所での手続きが必要となります。この手続きをしていない場合は、単純承認をしたものと扱われ、そのまま相続人となります。

また中には、生前に多額の借金や負債などがあることが分かっていて、相続をしたくないと思っている人もいると思います。しかし、事前に相続放棄をしておきたい場合でも、原則として被相続人が亡くなる前の放棄は認められていません。

さらに、相続放棄の手続きをする前に被相続人の財産を処分した場合などは、単純承認をしたものと扱われます。相続放棄や後に紹介する限定承認を考える場合は、くれぐれも被相続人の財産を勝手に処分したりしないよう注意してください。


[Q2]「相続放棄」をした場合、どのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

A

まずは、被相続人の債務(借金など)を相続せずに済むということがメリットとして挙げられます。親の借金を引き継ぎたくないという理由で選択される方が最も多く、相続人は自身の財産を保護することができます。また、親族間のもめごとに関わりたくないということで相続放棄を選ぶ人もいます。家庭裁判所で相続放棄の手続きを行えば、遺産分割協議などに加わる必要はありません。

一方でデメリットもあります。例えば、相続放棄をした場合、借金などのマイナスの財産はもちろん、不動産などのプラスの財産も全て相続しない、ということになります。

さらには、自分が相続を放棄したことにより、相続権が自分の親族に移ることになります。例えば、親の借金を相続したくないため相続放棄したとすると、相続の順位が次の相続権を持つ人(子の次は被相続人の親、その次は被相続人の兄弟姉妹)に、借金や債務を含めた相続権が移ることもあるということです。親の相続を放棄し、祖父母が既に亡くなっていて、なおかつ存命の叔父・叔母がいる場合は、相続放棄のことを伝えておくとよいでしょう。

また相続放棄をした後に、新たな預貯金や株券などが見つかったとしても、取り消しはできません。ですから、相続放棄をする際はしっかりと財産の調査をして決めるようにしてください。


[Q3]「限定承認」はどのようなことですか。

相続人がプラスになる財産の範囲内で、マイナスになる財産を相続することをいいます。例えば1000万円の預貯金の相続があった場合、ここに2000万円の借金が見つかったとしても、限定承認の手続きをしていればマイナスの財産の相続は1000万円までということになります。この手続きをした場合は、どんなに借金などが多くても、プラスになる財産の範囲内でしか相続をする必要はありません。

ただ限定承認と相続放棄の大きな違いは、相続放棄は自分一人だけで申し立てができますが、限定承認は相続人全員での申し立てが必要です。そのことから、例えば相続人の一人が被相続人の財産を処分したりしてしまうと、その一人が単純承認をしたことになり、限定承認ができなくなってしまいます。

相続人が複数いる場合などは、被相続人が亡くなったことを知るタイミングが違ってくることもあります。この場合は、原則として亡くなったことを最後に知った相続人を基準として、3カ月以内の申し立てが必要です。

限定承認の手続きはかなり複雑で、申し立ての期限についても例外があり得るので、限定承認を検討する場合はできるだけ早く専門家に相談されることをおすすめします。


[Q4]財産の有無が分からないときはどうすればよいですか。

被相続人の財産について、家族がまったく把握していないということはよくあるケースです。このような場合、全ての財産を把握するにはかなりの時間がかかる場合があります。特に個人事業主などが亡くなられた場合、さまざまな金融機関との取引があったり、時には他人の負債の連帯保証人になっていたりすることもあります。

3カ月以内に財産の精査ができない場合には、家庭裁判所に事情を説明して、熟慮期間を延長することの許可を求める仕組みが用意されています。

いずれにせよ、財産の管理は家族が元気なうちに行っておくと、もしものときに慌てなくて済みます。この機会にご家族で話し合ってみてはいかがでしょう。


よりよい豊かな人生へ向けて

「終活」を始める上で大切なことを、セルモ熊本本社玉泉院の田丸裕太総館長に聞きました。

"終活"の第一歩は家族と情報を共有することから

「終活」はご自身だけのことと思っていませんか?

まだ終活が一般的ではなかった十数年前のこと。とあるご葬儀が終わった後、“こちらで葬儀をあげた○○さんにお金を貸していたんだけど” という問い合わせを頂いたことがありました。故人しか知らないことで、ご遺族にしわ寄せが来るであろう、印象的な出来事でした。

終活が一般的になっても、特に多いのはお金に関するトラブルです。「自分の葬儀代は用意している」という方も多いと思いますが、ご本人名義の口座に貯金してあると、亡くなった際に凍結され、引き出せなくなってしまうケースが少なくありません。生前贈与を検討するなど、解決方法はいくつかありますが、重要なのは元気なうちにご家族との話し合いの場を設けることだと思います。

また最近ではご遺族が県外にお住まいだったり、嫁いでおられたりで、供養ができないといった悩みも多いようです。今は、樹木葬や海洋散骨といった埋葬方法と合わせて、ご家族それぞれがお手元で供養ができる環境を整えることも可能です。

良いことばかりではなく、借金や人間関係など、なかなか人に言えないことや希望する供養の仕方も含めてご家族と共有しておくのが、終活を始める上で大切なポイントになります。


[豊かな暮らし編]地域とつながる〜 シニア世代の生きがいづくり

地域や社会とのつながりを求めて、退職後の男性や夫婦そろって、子育て世代を応援する「ファミリーサポート」に登録する人が増えています。子育て中の家族(依頼会員)を、救急法や保育実習などを受けた協力会員がサポートする仕組みです。世代をつなぐ現場を取材しました。

社会貢献、健康管理に目を向け セカンドライフを生き生きと楽しく

約40年間、サービス業や住宅会社のお客様サービス室に勤務し、62歳で退職した栁原一光(かずみつ)さん(67)。妻の扶美子さん(64)も同時期に退職し、2人一緒にセカンドライフをスタートさせました。

退職を機に社会とのつながりがなくなってしまうことに寂しさを感じていた栁原さん夫婦。そんな時にファミリー・サポート・センター〈熊本〉の活動を知り、早速2人で7日間の講習を受けることにしました。「同じ時期に初孫が生まれる予定もあり、子どもの心身の発達や子どもに起こりやすい事故をどう防ぐかなど、自分たちにも役立つ講習ばかりでした」と一光さんは笑顔を見せます。

活動を始めると、両親や親戚など、周囲にすぐに頼れる人がいない子育て世代に代わり、幼稚園のお迎えに行ったり、時には夕食を食べさせたりすることもあったそうです。「それぞれの家庭の教育方針や食生活もあるので戸惑いを感じたこともありますが、なるべく親御さんの思いに添うようにお預かりしてきました」と扶美子さん。子育てをしている人たちの役に立てていること、子どもたちが笑顔で「おいしかったよ」と帰っていく姿が励みになっているようです。

お孫さんと同じ年齢のお子さんを預かる栁原さん夫婦。優しいおじいちゃん、おばあちゃんのようです

取材日は、6歳の女の子を幼稚園にお迎えに行きました。「ただいま~」。栁原さん宅に着くと、女の子はお決まりのお絵かきに夢中。栁原さん宅が一気に和やかになります。

退職後も、常に情報収集を欠かさず、興味のある講座には積極的に参加し、人と関わることに目を向ける栁原さん夫婦。社会の中での役割を持つことが「人生100年時代」を健康で元気に過ごすための原動力になっているようです。

送迎の運転は一光さんの担当

栁原さん夫婦のセカンドライフを楽しく元気に過ごす秘けつ

(1)社会貢献 社会との関わりを持ち続ける
(2)情報収集 新聞、フリーペーパー、インターネットで情報をチェック!
(3)食生活 1日3食規則正しく、塩分、糖分控えめにゆっくり時間をかけて食べる
(4)健康管理 1日6000歩のウオーキング、ウオークラリーなどイベント参加、定期的な健康診断を欠かさない
(5)夫婦共通の趣味 旅行を楽しむ


人生の新たな目標へ向け動き出す時 それが私のセカンドライフ

今年10月に協力会員として登録したばかりの濵田義孝さん(39)、詩織さん(36)夫婦。延壽院(西区)の副住職として働く傍ら、あらためて寺の役割や存在を考えたときに、お寺を「もっと幅広い世代の人々が自由に行き来できるような、地域の寄り合いの場に戻していく必要がある」と考えたそうです。

そこで熊本市結婚子育て応援団への登録と合わせて、ファミリー・サポート・センター〈熊本〉の協力会員にも登録。約26時間にわたる9項目の講習を受けながら、子育て支援に関わる準備を整えました。

まだまだセカンドライフには程遠い2人のようですが、「私にとってのセカンドライフは、仕事や年齢による人生での区切りという捉え方ではありません。新たな目標に向けて動き出す時が、セカンドライフと言えると思います。今はその実現に向けた準備段階といったところ」と義孝さんはほほ笑みました。

講習内容を聞き漏らさないよう熱心にメモを取る濵田義孝さん夫婦


「ファミリーサポート」ってどんなことするの?

「保育園のお迎えに間に合わない」「用事があるので、子どもを見てほしい」「子どもが病気だけど仕事を休めない」…。そんなときに、事前に講習を受けた協力会員が保護者に代わって送迎や預かりをする有償システムです。

子どもは”社会みんなで育てるもの”。ファミサポでは多くの女性会員が活動されていますが、これからは男性の社会参加の場としても会員層を広げていきたいです。

お問い合わせ

ファミリー・サポート・センター〈熊本〉

TEL
096-345-3011
備考
http://famisapo-kumamoto.info/