【497号】食品ロス削減ムーブメント in KUMAMOTO

「食べきれなかった」「賞味期限が迫って売れない」などの理由で、食べられるのに捨てられている「食品ロス」が今、深刻な問題になっています。国は食品ロス削減を促す法律を制定。廃棄を見直す機運が全国で高まる中、熊本でも食に携わる企業や団体、個人による取り組みが動きだしています。

みんなで減らす 食品のムダ

“もったいない”の心で、食品を作る側、売る側、提供する側にも無駄な廃棄を削減する動きが始まっています。
熊本での具体的な取り組みを追いました。


食品ロス削減推進法 10月に施行 対策に着手した企業、団体も

今年7月中旬のびぷれす広場(中央区上通町)。賞味期限が近づいた食品を定価の3〜7割引きで販売するイベント「熊日・ヒノマルECOマルシェ」が初開催されました。売れ残って返品された野菜、出荷できなくなった調味料やふりかけ、菓子など、まだ食べられる食品が安く手に入るとあって、訪れた買い物客が次々と買い求めていました。

企画したのは、熊本日日新聞社と食品販売会社の「熊本ネクストソサエティ」(熊本市)。熊本ネクストソサエティの長尾康さんは、「5月に食品ロス削減推進法が成立し、社会全体で“食べ物を無駄に捨てない”機運が高まっています。余った食品を捨てずに安く売る仕組みがあったらと思い、企画しました」。8月の2回目開催に続き、来年2月には3回目、3月には4回目を開く予定。「消費者のニーズをくみ取り、家庭での食品ロスを減らす商品開発にもつなげたい」と先を見据えます。

熊日・ヒノマルECOマルシェ

7月にびぶれす広場で開かれた「熊日・ヒノマルECOマルシェ」。買い物客でにぎわいました(2019年7月10日付 熊日朝刊)

国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」にも登場する食品ロス問題。日本では2016年度に643万トンが廃棄されたと推計されています。こうした現状を踏まえ、10月に施行された新法では「国民運動」と位置付けて、自治体に具体的な対策づくりを求めています。

食品メーカー、小売店、飲食店などでは、いち早く対策に乗り出した企業や団体があります。新商品の開発、消費期限の見直し、ポイント制度の導入、持ち帰り容器の配布…。新しい動きに期待が寄せられる中、私たち消費者も家庭でどう取り組むか、自分の問題として考える必要があります。


知っておきたい食品ロスにまつわるキーワード

SDGs(エスディージーズ)

世界の国々が2030年までの実現を目指す、国連で合意された持続可能な開発目標。17項目あり、「食品ロス」問題も含まれます

フードバンク

企業や農家、一般消費者から、パッケージ不良の食品や規格外の野菜を寄付してもらい、必要な人に無償で提供する活動

フードシェアリング

残ったり余ったりした食品を、必要としている人に紹介・案内するサービス

フードドライブ

生活困窮者や子ども食堂などを支援するため、家庭で余った食品を募る活動

3分の1ルール

賞味期限までの日数を3分の2以上残して小売店に納品するという、食品メーカーと小売店の間に存在する商慣習。納品できなかったものは、賞味期限の日数が多く残っていても行き場がなくなり、廃棄となる可能性が高まります


売る

活発な動きを見せる小売業界

食品ロス削減の一環として、小売業界ではさまざまな対策に乗り出しています。コンビニ大手のセブンイレブンでは、弁当やおにぎり、パンなどの消費期限を延長。ファミリーマートでも売れ残り対策として、今夏の「土用丑(うし)の日」のウナギ弁当に続き、クリスマスケーキの完全予約制(一部店舗除く)を発表しました。

県内では、生活協同組合くまもとが2017年11月に、組合員活動推進員からの発案でフードドライブをスタート。コープ春日店(西区春日)の山本熊一朗店長は、「春日店、尾ノ上店、合志店、水俣市の本店で毎月第3土曜に実施しており、今年4〜9月の半年間で缶詰やレトルト食品など2061点が一般消費者から寄せられました」。これらはフードバンク熊本へ寄付され、必要とされる人たちに届けられます。

物販と飲食で食材を無駄なく使う仕組みを取り入れているのが、中央区安政町のカリーノ下通1階にある「ヒノマルキッチン&マルシェ」。県産食材・食品を「マルシェ」で仕入れて販売、野菜や加工品は日がたって廃棄しなくて済むように「キッチン」で調理して提供しています。運営するニューコ・ワンは「当初から食品ロス削減を意識して店舗を設計した」といい、国内でも珍しい取り組みです。「食材を『キッチン』で使うだけでなく、メニューも『マルシェ』の販促になるよう工夫しています。無駄な廃棄をなくしながら、商売としても長く継続させたい」としています。

右側がマルシェ、左側がキッチン

右側がマルシェ、左側がキッチン。キッチンで使われているドレッシングや肉加工品などを、マルシェで買って帰るお客さんも


つなぐ

個人や団体が必要とする人への橋渡し役に

南区にある熊本藤富保育園の副園長・鬼塚静波さん(72)は、「地域に還元できる活動をしたい」と2016年、県内で最初にフードバンクの活動を始めました。50以上の企業や団体、個人から寄せられた食品・食材、日用品を、生活困窮者や子ども食堂に提供しています。園には毎日のように物品が届きますが、「まだまだ足りていないのが現状」だとか。「消費しない食品などを『ごめんなさい』といって捨てるぐらいなら、ぜひフードバンクを活用してほしい」と訴えます。

インターネットを使った取り組みもあります。坂口龍也さん(32)=南区=は、スーパーなどに卸せない野菜や果物の規格外品を農家から直接仕入れ、消費者に無償提供するウェブサイト「フリフル」を運営しています。食べられるのに捨てられる現場を目にし何かできないかと、17年にサイトを開設。今では提携農家約100戸、会員は約5万人と全国に広がっています。月に15回、九州各地でマルシェも開催。「いずれは全国各地でマルシェができる仕組みをつくりたい」と坂口さん。「多くの農家さんと一緒に、廃棄野菜を減らす役に立てればうれしい」

熊本藤富保育園の敷地内にある倉庫には、提供された食品・食材や日用品が所狭しと並べられています。「食品は消費期限ごとに仕分けしています。個人の方からもたくさん提供いただいていますが、加工食品は賞味期限が2カ月以上残っていて未開封のものだと助かりますね」

熊本藤富保育園の敷地内にある倉庫には、提供された食品・食材や日用品が所狭しと並べられています。「食品は消費期限ごとに仕分けしています。個人の方からもたくさん提供いただいていますが、加工食品は賞味期限が2カ月以上残っていて未開封のものだと助かりますね」

「フリフル」に出品するレンコンを受け取る坂口さん(右)。提供する(株)カワカミ(西区沖新町)の川上一歩専務取締役(左)は「規格に合わない小さいサイズは廃棄していました。より多くの方にうちのレンコンが届くので、ありがたい」

「フリフル」に出品するレンコンを受け取る坂口さん(右)。提供する(株)カワカミ(西区沖新町)の川上一歩専務取締役(左)は「規格に合わない小さいサイズは廃棄していました。より多くの方にうちのレンコンが届くので、ありがたい」

フードバンク熊本

096-357-5622

「フリフル」

https://furifuru.com/


作る

新商品を開発した食品メーカーも

豆腐・納豆メーカー丸美屋の関連会社「武双庵」(玉名郡和水町)は、豆腐を作る過程で出る生おからを有効活用した新商品「生おからパン」を、昨年9月に開発しました。パンの材料となる小麦粉の3割を、飼料などに使っていたおからで代用。食物繊維が豊富なパンとして、地元の小学校の給食にも取り入れられています。スタッフの倉野尾陽子さんは、「食品ロス削減につながる一歩を踏み出せた。おからの良さを見直すきっかけにもなれば」と話します。


食品ロス削減 Topic

・東京ですでに始まっているフードシェアリングが、熊本にも登場予定! 「ETASTE(イーテイスト)」といい、商品が売れ残った小売店や飲食店と、それを買い求める消費者をつなぐマッチングサービスです。契約店舗は50を超え、ウェブ版とスマホ版アプリの開発も年内オープンに向け最終段階とか。廃棄を減らしたい店舗と安く買いたい消費者双方にメリットがあるだけに期待が寄せられます。

・熊本ネクストソサエティと熊本日日新聞社は、食品ロスの削減に向けた事業展開において、熊本県と協定を結びました。今後、県と連携しながら、イベント実施や新たな商品開発の提案を行っていくとともに、その取り組みを発信していきます。


取材を終えて

自分にできることを考えるきっかけに

削減に取り組む企業や団体などの活動の一部を紹介しましたが、他にも熊本県庁でのフードドライブや食べきり運動に協力している各飲食店など、行動を起こしている人たちがたくさんいることを知りました。国内の食品ロスの4割強は家庭からの廃棄で、日常生活の中で一人一人の意識が大切だと改めて痛感。「食べ残さない」「使い切れる分だけ買う」。今回の特集が、私たちにできることを考えるきっかけになればと思います。