熊本地震の発生から1年以上がたちました。目の前の状況を乗り切ることで精いっぱいだった日々から一息ついた今、これからの生活や人生についてあらためて考え直すのにふさわしい時期かもしれません。本紙「ななみ先生の家計相談Q&A」でおなじみのファイナンシャルコーチ・佐藤ななみさんが、住まいと暮らしにまつわるお金の情報をお伝えします。

ファイナンシャルコーチ 佐藤ななみさん

「お金ともっと仲良く!」を合言葉に『佐藤ななみのおかねの教室』を主宰。家計・住宅・保険・資産運用の講座や相談業務を展開中。書類整理やフリーランス向けワークショップも人気。

お金は人生設計のツールの一つ ゴールと現在地の再確認を

人生を旅に例えると、夢・目標とはすなわち、旅のゴールや経由地を指すことになるでしょう。そこに向かうためには、地図や交通手段、コンパス、仲間など、たくさんの資源が必要ですよね。お金ももちろん、その一つに含まれるはず。とっても大事で、でも全てではありません。

ライフプランが地図ならば、月々の家計簿は現在地を知るためのコンパスといったところでしょうか。そう考えると、お金があってもなくても、向かうべきゴールが見えないことには、そして今どこにいるかを知らなければ、旅を不安なく、自信を持って続けることは難しいように感じます。

地震から1年以上たち、穏やかな日常を取り戻している人、日々の生活がすっかり変わってしまった人など、さまざまでしょう。目的地と現在地を今一度、確認して、今回の特集で紹介する情報を、皆さんのライフプランを組み立て直すのに、ぜひ役立てていただければと思います。

Q どうにか赤字を乗り越え…  今後、家計を立て直すには?

昨年は、地震の影響で収入が減った上、修理や買い替えなど、まとまった支出が次々と発生。大赤字の一年でした。ようやく落ち着いてきた今、あらためて家計を見直したいと思います。どのように考え、取り組んだらよいでしょうか。

A.

大きな臨時支出に収入減と、本当に大変な一年でしたね。家計のバランスが大きく変わったご家庭も、悲観してばかりはいられません。タフに組み立て直していきましょう。

家計管理には「収入と支出(=フロー)」「貯蓄と借入金(=ストック)」という、2つの軸に対する視点が必要です。そして、収入の範囲内で生活することが基本。極端な話、いつ何時もそれが守れるのであれば、貯蓄もローンも不要なのです。

しかしながら、長い人生の中では、ままならないことが起こってしまうものです。そうした事態に備え、また乗り切るための強い味方が貯蓄やローンなのです。そう考えると、フローは「現在のお金の振り分け」、ストックは「過去からの積み上げと未来の収入の前借り」と表現できそうですね。

日々の家計管理においては、そうしたお金の「現在・過去・未来」を一度にさばく必要があります。ここで重要なのが「優先順位」です。あなたやご家族にとって、より重要度の高い支出から予算を割り当て、あとは「残りで生活する」という流れを作りましょう。

このとき気を付けたいのは、目的が不明確なまま貯蓄や保険に漠然と予算を回し過ぎることです。「貯めねば」の思い込みだけで無理な予算を組む人は、結局は短い周期で取り崩してしまう傾向が強いようです。

カードや通帳少なめに

皆さんはクレジットカードや預金通帳をいくつ持っていますか。お店別の優待カードや目的別の通帳は一見、合理的なようで、数が多い人ほど思うように家計管理できない傾向が強いようです。細かく管理しようと頑張り過ぎている人は、数を減らしてみませんか。「楽してシンプル!」は成功への近道。意外かもしれませんが、試してみる価値は大きいですよ。

Q. 建て替えで新たに借り入れ 災者向けの減免は?

自宅が全壊、建て替えを余儀なくされました。返済中だった住宅ローンとマイカーローンに加え、新たに住宅ローンを組むことになります。被災者には特例的に債務を減免してくれる制度があると聞きました。詳しく教えてください。

A.

被災前に借りたローンについては、通称『被災ローン減免制度』により免除や減額を受けられる可能性があります。これは、もともとあったローンと、生活再建のための新たなローンとの、二重の負担から被災者を救済するために設けられた制度です。

自己破産など、通常の債務整理と大きく異なるのは、(1)一定額までの生活再建資金を手元に残したまま(※) 既往ローンの減免を受けられることと、(2)債務整理を行った事実が個人信用情報(俗称ブラックリスト)に登録されないこと。さらに、一連の手続きに必要な弁護士など「登録支援専門家」のサポートも、国の負担により無料で受けることができます。

対象となるのは、住宅ローンをはじめ、マイカーローン、教育ローン、カードローンなど被災前に借りていた個人の借入金全てです。ただし、負債を超えて資産を持っている人や、被災前から滞納や差し押さえがある人などは利用できない場合もあります。

まずは、取引先の金融機関窓口に相談してみてください。

※手元に残せる金額
・被災によって受け取った義援金、支援金、弔慰金→全額
・現預金→概ね500万円まで
・家財地震保険金→250万円まで

Q. 二世帯新築に親から援助 贈与税はどうなる?

実家が全壊し建て替えが必要となったのを機に、二世帯住宅で親と同居することになりました。私の名義で新築し、親から資金の一部を援助してもらうのですが、贈与税が気になります。他にも気を付けることがあれば教えてください。

A.

年間110万円を超えて資金の贈与を受けた場合、超えた分に対して課税されるのが贈与税の基本ルールです。

これに対し、父母や祖父母から住宅取得資金の贈与を受けた場合に、一定額までを非課税とする特例『住宅取得資金の非課税制度』があります。上限額については、贈与を受ける時期と住宅性能によって異なりますので、下表を参照してください。

また、贈与額が大きい場合は『相続時精算課税制度』も活用できます。これは、先々相続することになる財産のうち2500万円までを、生存中に非課税で前渡しが受けられる制度です。通常は、20歳以上の人が60歳以上の父母や祖父母から受ける贈与を対象としていますが、住宅取得資金については、贈与者(父母など)の年齢は問われません。

ただ、ご相談で気になったことが一点。状況からして、親御さんは全壊の罹災証明書をお持ちの上、『生活再建支援金』の「基礎資金」を受けておられると思います。もし、親御さん本人の名義で新築すれば、200万円の「加算支援金」が受けられるはず。ここはあえて、この資金と贈与予定額の合計額相当を親御さんの持ち分とし、名義を共有する形で新築されてはいかがでしょうか。

このとき、将来の相続に備えて、ご自宅の敷地や建物が他の相続人に分割されないよう、親御さんには遺言書を作成しておいてもらうことをお忘れなく。

《住宅取得資金の非課税制度の上限額》

  住宅取得契約日  省エネ・耐震・高齢者配慮住宅   一般住宅
  ~2020年3月        1200万円        700万円
2020年4月~21年3月      1000万円        500万円
2021年4月~21年12月      800万円        300万円
                             ※消費税率が8%の場合

Q. 家の名義 夫婦共有にしたい  万一の際、『団信』は?

共働き夫婦です。所得はほぼ同額なので、名義を2分の1ずつ共有する形でマイホーム計画を進めています。ついては、住宅ローンに付く『団体信用生命保険』に関して質問です。夫婦のどちらが万一の場合でも、同じように保障されるのでしょうか。

A.

夫婦共有名義で住宅を取得する場合のローンの組み方には、(1)「一方が主債務者、もう一方が連帯債務者となり、1本のローンを2人で連帯して借り入れる方法」と、(2)「持ち分に応じたローンを、それぞれが主債務者として借り入れる方法(ローンは2本)」の2パターンがあります。

どちらの場合も『団体信用生命保険』が保障するのは、主債務者に万一のことがあった場合です。ですから(1)では、主債務者に万一の場合、その時点での住宅ローン残高相当の保険金が発生し、住宅ローンは完済されますが、連帯債務者に万一のことがあっても、ローンは全額残ることになります。

一方(2)では、各自が借り入れた金額について、各自が保障の対象となります。万一の場合、住宅ローンは亡くなった人の持ち分だけが保険で完済され、生存している側は自分名義のローンを返済し続けることになります。

ただし、フラット35に夫婦連生団信「デュエット」を付帯した場合は例外で、夫婦どちらかが亡くなった場合、住宅ローンは全額が完済されます。

住宅を取得したら、これらのことを踏まえて、生命保険の保障額も再構築する必要がありますね。

税優遇措置はほかにも

住宅取得に関する税制の優遇措置は、贈与税だけではありません。登録免許税、印紙税、不動産取得税、所得(住民)税、固定資産税…と、ほかにもたくさん。全ての内容を紹介することができないのが残念です。

せめて…との思いで名前を並べてみましたので、関係する部分にはしっかりアンテナを立てて、情報収集しながら計画を進めてくださいね。

Q. 地震保険にこれから加入 知っておくべきことは?

地震保険にまだ加入していません。必要性を感じながらも、幸い熊本地震では大きな損害がなかったこともあり、「喉元過ぎれば…」で延び延びになってしまっています。これから加入するに当たり、基本的なことを教えてください。

A.

地震保険は、必ず火災保険にセットする形で加入します。「建物」と「家財」を対象とし、保険金額は各火災保険金額の30~50%(建物5000万円、家財1000万円が上限)の範囲で設定します。最高でも、火災保険金額の半額までしか補償されないのは、地震による損害が民間会社だけで負える範囲を超えており、税金を投入して政府が保証している一種の社会保障制度のようなものだからです。

 損害が発生すると、建物・家財の別に損害の規模を判定し、「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の4段階に分類します。受け取れる保険金は、それぞれ地震保険金額の100%、60%、30%、5%です。「一部損」にも満たない場合、保険金は支払われません。ちなみに、このときの損害区分は地震保険だけの独自基準による査定で、行政による『罹災証明書』や『応急危険度判定』の損害区分とは全く別のものです。

最後に、地震保険だけでは心もとなく感じる人のために、SBI少額短期保険の『地震費用保険Resta(リスタ)』を紹介しておきます。これは、地震保険の上乗せとして選択できる、今のところ国内で唯一の商品です。世帯の構成人数により300~900万円の補償を単体で確保することができます。ただ、「一部損」では保険金を受け取れないなど、地震保険とは異なる点もありますので、検討の際は十分に確認してください。

Q. 自宅が賃貸で火災保険に加入 家財保険を付けたいが…

熊本地震の被害を受けた知人が、「家財の地震保険に加入していてとても助かった」と話していました。わが家は賃貸で不動産業者に指定された火災保険にしか入っていません。今後の備えとして考えたいのですが、どうしたらよいでしょうか。

A.

賃貸物件の居住者が加入する火災保険は、『家財保険』を中心に、物件に損害を与え貸主に対して賠償責任を負ってしまった場合に備える『借家人賠償責任保険』、自己の負担で行うべき修理費用について補償が受けられる『修理費用保険』、日常生活上の他人に対する損害賠償責任を補償する『個人賠償責任保険』などがパッケージされているものが一般的です。地震保険は、このうち『家財保険』部分にセットする形で加入しますが、中には地震保険を付帯できない商品も…。まずは契約している保険会社に「地震保険を付けたい」と申し出てみてください。

もし不可能ということであれば、火災保険の契約そのものを入れ替える(別の保険に新規契約→現保険は任意解約)という方法があります。賃貸契約の際、火災保険への加入を条件としているケースは多いですが、貸主にとっての目的は、万一の場合に借主が確実に損害賠償できるという裏付けを確保することです。つまり、『借家人賠償責任保険』が付いていれば大丈夫。保険はあくまで、加入者に役立つことが基本です。

車の損害の補償には

多くの方がご経験の通り、地震による車の損害は、車両保険では補償されません。「何とかならないの?」という方のために『全損時一時金特約』を紹介します。この特約を車両保険に付帯すると、地震・噴火・津波による損害も補償されるようになります。ただし、保険金が支払われるのは、その名の通り全損時のみ。また、補償額は「50万円」が上限である会社がほとんどです。

Q. 利息だけの返済でOK 高齢者向けの融資って?

年金生活の高齢者です。自宅が被災し、修理費用が必要となりました。自宅を担保に融資を受けて、利息だけ返済すればよい方法があると聞いたのですが、本当でしょうか。普通のローンが返せるか不安なので、とても興味があります。

A.

『リバースモーゲージ』のことですね。これは、自宅を担保に融資を受け、借りたお金は、亡くなった後で担保不動産を売却して一括返済するという仕組みです。日本語で「逆抵当」という意味で、公的機関が実施する制度と、民間金融機関のローンの2種類があります。自宅を有効活用し、自宅に住み続けながら資金調達することが可能で、生存中は返済不要(利息のみ支払い)。高齢者にとって、生活資金を確保する選択肢の一つとなるでしょう。

公的機関型は『不動産担保型生活資金貸付』で、社会福祉協議会が実施主体です。対象は65歳以上で、市町村民税非課税程度の低所得世帯。原則、単独所有の土地(評価額1千万円以上)付き一戸建てに居住していることが条件です。

民間金融機関型は、大手都市銀行から地方銀行まで取り扱いがあります。概ね55~60歳以上で、担保となる自己所有の住宅に居住している人が対象です。自宅の所在地を指定しているもの、資金使途を指定しているものなど、金融機関別に独自の商品性が見られますが、仕組みの特性上、相続人となる人の同意が得られること、担保不動産に第一順位の抵当権を設定できることなどが共通の条件です。

なお熊本市は、熊本地震からの住宅再建資金の利息について、その一部を助成しています(3年間)。詳細は、同市復興総室にご確認ください。

Q. 地震で人生観が変わった… 今後の生き方考えたい

地震が起きたあの日、「本当に死ぬかもしれない」という思いをしました。今は無事に日常生活を送っていますが、人生観が大きく変わった気がします。これから悔いなく生きるために、ライフプランを見つめ直したいです。ヒントはありますか。

A.

頭では分かっているはずの「いつかは死ぬ」という真実。日常の中では、そうそう直面するものではありませんよね。地震を経験したことで、多かれ少なかれ人生観が変わったという人は少なくないでしょう。長く短い人生を、何を大切にし、どのように悔いなく過ごすか…。ライフプランニングの根底です。

ところで、最近ようやくその重要性が認知されるようになったエンディングノート。幾種類もが書店に並ぶようになりましたが、手に取って見られたことはありますか。まだの方は、どのようなイメージをお持ちでしょうか。その名称から、死亡前後の手続きについてまとめておくだけと受け取られがちですが(そのタイプもあり)、自身のこれまでの歩みを振り返り、これからの生き方を考えるページを設けたものもあるんですよ。

エンディングノートは、死を意識し、それまでの時間をいかに過ごすかを考えるために活用できるツールの一つだと思います。また、資産リストのページは、願いをかなえるために活用できる資源の“棚卸し”に役立つばかりでなく、災害時に持ち出せる備忘録にもなりますね。

ウェブ版のエンディングノートも

エンディングノートといえば今や、紙に印刷されたものばかりではありません。ウェブ上のサーバーに必要事項を入力、保管できるサービスも登場しています。災害で自宅が損害を受け、着の身着のまま逃げ出した場合でも、ウェブ上に財産情報が預けてあれば、容易に照会が可能ですね。これからの時代の、有力な選択肢になると思います。