【568号】くまもとアートポリス探訪!

約30年前に始まった県の事業「くまもとアートポリス」。数々の独創的な建造物を見たことがある人も多いのでは。今回、各時代を象徴する建造物を訪ね、地域との結び付きやこれからのアートポリス事業について探ります。

「くまもとアートポリス」とは……

熊本県の豊かな自然や歴史、風土を生かして、環境デザインに対する関心と都市文化・建築文化の向上、後世に残る文化的資産の創造を目的に1988年に開始された県のプロジェクト。県内各地に101のプロジェクトが点在している

詳しくは「くまもとアートポリス事務局(県土木部建築住宅局建築課内)」
TEL 096-333-2537

「くまもとアートポリスフェイスブック」
https://www.facebook.com/kumamotoartpolis/


くまもとアートポリス 時代を映す個性 あふれる建造物

開始から33年目を迎えるアートポリスは、時代に合わせて事業の基本となる建築テーマも変化しました。各年代を代表する建造物とテーマをたどりながら、建物が果たした役割やこれからのアートポリス事業について紹介します。

国内外の建築家と共に 100件を超える建造物を創造

県建築課によると、戦後に建てられた公共施設が2回目の建て替え期を迎え、建築物にも機能性と共にデザインも求められるようになり、1988年にアートポリス事業が開始されました。事業にアドバイスをする初代コミッショナーには、世界的な建築家の磯崎新氏が就任。熊本北警察署(現・熊本中央警察署)から始まり、ランドマークになるような建造物が県内各地に造られました。

10年を経過した頃からは、地域の人に長く親しんでもらうため、地域住民と一緒に施設をつくるケースが多くなり、現在に至っています。

そして2011年、アートポリス初の県外事業で、東日本大震災の復興支援として宮城県の仮設団地に「みんなの家」を建設。その後の熊本地震などでも造られ、多くの人に活用されています。アートポリス事業はこれからも続き、優れた建築物で熊本の活性化に向けた取り組みが進められます。

年代と建築テーマ

1988→1997…「都市にデザインを、田園にアイデアを」
1998→2004…「対話とまちづくり、対話による新たな建築の可能性」
2005→2012…「学びつつ創り、創りつつ育む」
2013… 「自然に開き、人と和す」


清和文学館(上益城郡山都町)

1992
伝統芸能をよみがえらせた 初期アートポリス建築の代表

江戸時代から受け継がれる人形芝居の「清和文楽」が、娯楽の多様化などで伝承危機にあった頃に建てられました。それまで個人宅で保管されていた文楽人形を旧清和村が購入して展示・保管し、多い時は国内外で年間約200回の公演を行いました。「文楽の伝承や観光振興に大きな役割を果たした」と同館の元館長・渡辺久さん。その後も同じ建築家により、隣接する物産館や郷土料理館などが建てられ、清和地区の文化・観光の拠点となっています。

清和文楽館 館長の飯星さん

梁(はり)以外は県産木材が使われ、日本古来の伝統工法を用いて舞台棟・客席棟・展示棟の3棟からなる同館が建設されました。特徴的な十二角形の展示棟は、耐火性の規制がかからない上限である高さ13mで、屋根の重さを木組みで分散して支える「バット工法」で建設されるなど、大工さんの苦労がうかがえます。「清和文楽」は、同館完成後、アイルランドやイタリアなど海外公演も果たし、清和地区のシンボルになりました。現在は、新作文楽の練習が行われています。


三角港フェリーターミナル(海のピラミッド)(宇城市三角町)

1990
インパクト抜群のシンボル

熊本市出身の建築家・葉祥栄氏が設計した貝殻のような外観が目を引く建造物で、三角港のシンボルとして親しまれています。三角と松島を結ぶフェリーの待合室として利用されるほか、隣接して物産館やJR三角駅があり、地域振興・観光の拠点にもなっています。


牛深ハイヤ大橋(天草市牛深町)

1997
海と空に美しく伸びる一本のライン

牛深漁港から後浜地区を結ぶ全長883mの海上橋。周囲の自然に溶け込ませることをデザインの主軸に、単純な一本の線として橋が建造されました。幹線道路でありながら観光スポットで、同じくアートポリス事業の「うしぶか海彩館」と共に地域を盛り上げています。


熊本県立農業大学校学生寮(合志市)

2000

※一般の方の立ち入りはできません

建築家が泊まり込み学生と対話

生徒が2年間を過ごす学生寮で、中庭を囲むように建物が配置されており、館内は回廊でつながります。「共同性」が建築のテーマとされ、4人の建築家が寮に泊まって、学生と会話を重ねて設計しました。また、自然素材が多用され、自然との共生を感じさせる建物です。


みんなの家

2011 ヨ・ミュール(新阿蘇大橋展望所)(2021年南阿蘇村陽ノ丘のみんなの家移築)
被災者に心の安らぎを届けた 新時代を代表する取り組み

現コミッショナー・伊東豊雄氏が、東日本大震災の被災者に「精神的な安らぎを感じられる空間」の提供を発案し、県も賛同。集会施設「みんなの家」は宮城県の仮設団地のほか、熊本地震後は県内各地に建てられました。建物は人々の交流やイベントなどでも活用され、仮設団地が閉鎖した後も移築などで利活用が進んでいます。南阿蘇村陽ノ丘仮設団地の「みんなの家」は、今年3月、新阿蘇大橋そばの展望所に移築されました。同村の松田仁さんは「いろいろな思い出があり、移築されてうれしい」と話し、地域のシンボルになることを期待しています。

南阿蘇村産業観光課 川﨑さん


大腸肛門病センター高野病院(中央区大江)

2017
自然に親しみ人々が語らう場に

アートポリスの新しいテーマ「自然に開き、人と和す」のもとに選ばれたアートポリス初の病院施設。自然を感じられ、人々の交流を促す、地域に開いた病院を目指して随所にガーデンが造られました。同病院事務局長の高森公正さんは「病院の至る所から自然が眺められ、患者様やスタッフに好評」と話し、同院が人々の心のよりどころとなることを願っています。


株式会社エバーフィールド 木材加工場(上益城郡甲佐町)

(2021年建設予定)
熊本の林業と建設業にエールを送る実験的建築

一般流通材を組み合わせて、広い無柱空間を実現する世界初の工法で建造されます。現在は構造計算などをしながら本設計が進められ、来年度の完成を目指しています。熊本の林業振興や建設技術向上、人材育成を目指す同社社長・久原英司さんの熱意が込められ、完成後には技術研修会などを開く計画です。

※イメージ図


立田山憩の森・お祭り広場公衆トイレ(北区乗越ヶ丘)

(2021年建設予定)
「森と人の共生」を考えたトイレ

来年3月から開催される「全国都市緑化くまもとフェア」の会場にもなっている立田山の公衆トイレを建て替える新たな事業。設計案のコンペには、過去最高の279件の応募があり、最優秀賞に東京の建築家・曽根拓也氏らの「森と人の輪」が選ばれました。昨年11月には、建材となる広葉樹を立田山で伐採するワークショップがあり、県立大学生が参加しました。

※イメージ図