小泉八雲夫妻は熊本にも住んでいた‼ラフカディオ・ハーンとセツゆかりの熊本を巡ろう

「雪女」「耳なし芳一」などの『怪談』の著者として知られる作家のラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と妻のセツ(節子)は、熊本で新婚時代を過ごしました。二人は、この秋から放送予定の連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK)のモデルになっているんですよ。予習ができるように、熊本ゆかりの地や熊本を題材にした著作をピックアップ。足跡をたどります。


1850年生まれ。ギリシャ系アイルランド人(英国籍)。雑誌記者として来日、島根県・松江で教師を務め、セツと出会う。熊本で約3年間生活。フィールドワークとたばこが好き。


1868年生まれ。松江藩の武士の家柄だが明治の世に没落。ハウスキーパーとしてハーンと出会う。怪談や昔話を聞かせるなど、ハーンの執筆に欠かせない存在。お出かけ好き。
文豪ハーンとセツの熊本ライフ
ラフカディオ・ハーンは1890(明治23)年4月に来日して翌年11月、第五高等中学校の英語教師として熊本に赴任。妻の小泉セツと共に熊本で約3年間を過ごします。今でも明治の面影が残るハーンゆかりの3スポットを訪ねました。
松江から熊本へ… ハーンとセツが熊本で最初に住んだ家
小泉八雲熊本旧居[熊本市中央区安政町]


第一のゆかりの地は、ハーン一家が熊本で暮らした家「小泉八雲熊本旧居」です。旧細川藩士・赤星晋策に借りた家で、今の電車通り沿いに建っていました。1960年に取り壊しの危機が訪れますが、保存運動によって現在地(鶴屋百貨店の裏手)に移築された経緯があります。
「夫妻はハーンが亡くなるまでの14年間に9カ所の家に住みました。現存するのは松江の『小泉八雲旧居』と、この家の2カ所だけです」と教えてくれたのは館長の坂本弘敏さん。一家は約1年間住んだ後、坪井に転居しました。約3年の熊本滞在でしたが、ハーンは日本での最初の著作となる『知られぬ日本の面影』が海外で出版され、長男・一雄も誕生。作家として、一家のあるじとして、新たなステージを迎えた場所となりました。









日本の精神や伝承をつづったハーンの著作は、海外で大当たりしました。この旧居にも、ルーツのアイルランドや英国をはじめ海外から多くのお客さまが訪ねて来られます。
小泉八雲熊本旧居
住所 | 熊本市中央区安政町2‐6 |
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TEL | 096-354-7842 |
営業時間 | 9:30~16:30 |
休業日 | 月曜(祝日の場合は翌日) |
駐車場 | なし |
入館料 | 高校生以上200円、小・中学生100円 ※熊本市内の小・中学生、65歳以上は無料 |
ハーン家の食卓を飾った豊富な西洋の食材
和服や日本建築、わびさびなど日本文化を理解しようと努めたハーン。松江では和食中心の食生活を送りましたが、寒さなども影響して体調を崩してしまいました。移住した熊本では西洋食材を入手しやすく、上通の西洋小間物屋で肉やビール、鷹匠町(現在の下通・新市街付近)の「弘乳舎」では牛乳を購入していたといいます。自宅で洋食を食べるようになり、ハーンの体重は20kgも増えたそうです。弘乳舎は今も北区で乳製品を製造・販売しています。


第五高等中学校の英語教師として日本のリーダーを育てる
熊本大学 五高記念館[熊本市中央区黒髪]


ハーンが勤務した「第五高等中学校(後の第五高等学校、現在の熊本大学)」は、1887(明治20)年に開校、2年後にレンガ造りの本館が完成しました。現在は「五高記念館」として、資料や「復原教室」が公開されています。明治期に全国に設置された高等学校で、当時の場所、当時の姿で残されているのは五高だけ。赤門、緩やかにカーブする道、入り口前のソテツの植え込みなど、ハーンが見た風景を楽しむことができます。秋までの特別展示として、雇用契約書や手書きの試験問題など、ハーン関連の資料を公開中。ぜひ足を運んでみて。







ハーンは、自身も敬愛した秋月胤永(かずひさ)、夏目漱石と共に“五高の三先生”と呼ばれ、五高生に尊敬され続けました。
五高を見下ろす穏やかなお顔 ハーンとセツお気に入りの石仏
熊本は、「近代化され過ぎている」とあまり気に入っていなかったハーンですが、足しげく通った癒やしのスポットがあります。それは「石仏」(鼻かけ地蔵)がたたずむ五高の裏手、今の熊本市営小峯墓地(中央区黒髪)付近です。授業の合間を縫って出かけ、時にはセツと一緒に訪れたそうです。「にっこりとしておられる…」と石仏を評したコラム「石仏」は『東の国から』に収録。




熊本大学 五高記念館
住所 | 熊本市中央区黒髪2‐40‐1 |
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TEL | 096-342-2050 |
営業時間 | 10:00~16:00(入館は15:30まで) |
休業日 | 火曜(ほか不定休あり) |
駐車場 | なし |
浦島太郎に思いをはせ「夏の日の夢」執筆へ
三角西港・浦島屋[宇城市三角町]


石炭の輸出港として1887年に開港した「三角西港」。当時は、石積みの埠頭(ふとう)沿いに土蔵造りの倉庫や和風・洋風の建物が立ち並んでいました。その一つが旅館「浦島屋」です。ハーンは1893年7月、長崎へ旅した帰りに「浦島屋」に立ち寄り、浦島太郎の昔話を取り入れたエッセー「夏の日の夢」を執筆しました。現在の建物は古写真から復元されたもので、館内は休憩所として開放。2階バルコニーからは「夏の日の夢」で描写されている三角浦の風景が広がっています。





隣接する「龍驤(りゅうじょう)館」で浦島屋の歴史や資料を展示。今年は世界遺産登録10周年。秋には関連イベントでハーンに関する講演も予定しています。
三角西港・浦島屋
住所 | 宇城市三角町三角浦 |
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TEL | 0964-53-0010 |
営業時間 | 9:00~17:00 (JR三角駅観光案内所/9:30~16:30、月曜休) |
休業日 | なし |
駐車場 | 80台 |
イベント情報
熊本アイルランド協会主催「市民講座」で学ぼう!
「市民講座」では例年、ハーン作品の魅力やアイルランドの文化を紹介しています。今年度はセツに注目した講座もあるのでHPをチェックして。
12月に熊本博物館で特別展開催へ!
12月〜来年2月、熊本博物館で熊本でのハーン一家をテーマにした特別展が開催されます!
TEL | 096-324-3500 |
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朝ドラ『ばけばけ』秋から放送!
セツとハーンをモデルにしたNHKの連続テレビ小説『ばけばけ』は、秋から放送予定です。俳優の髙石あかりさんがヒロイン・松野トキ、英国出身の俳優トミー・バストウさんがトキの夫・ヘブンを演じます。どんなドラマになるのか、楽しみですね。


読むならコレ! ハーンの著作&関連本
小泉八雲熊本旧居の蔵書からピックアップ!
参考にして図書館や書店、電子書籍などで探してみてね
『東の国から・心』
「夏の日の夢」「石仏」のほか、海外に初めて柔道を紹介した「柔術」を収録。熊本時代のエピソードがいっぱいです。


『日本の怪談』
むじな、ろくろ首など、なじみ深い怪談が盛りだくさん。狂歌を解説したエッセーも必読


『小泉八雲/思い出の記(小泉節子)・父「八雲」を憶う(小泉一雄)』
ハーンの思い出を家族がつづった文集。愛情あふれるハーンの素顔がうかがえます


『新編 日本の面影』
日本の第一印象や松江時代の出来事を書いた『知られぬ日本の面影』を再編集


ハーンさんの一生
6月、ギリシャのレフカダ島で生まれる
父の故郷アイルランドに移住
父母が離婚
英国の学校で左目を負傷し失明
※1868年2月、小泉セツ誕生
アメリカへ渡り、ジャーナリストとして活動開始
4月に横浜港到着
8月、島根県尋常中学校・師範学校の英語教師として松江へ
身の回りの世話のため小泉セツ(23歳)が雇われる
6月、根岸邸(松江市にある現「小泉八雲旧居」)に転居
11月、熊本への転職が決まり、セツと、セツの養父母らを伴い移住
11月、長男・一雄誕生
9月『知られぬ日本の面影』出版
10月、転職のため熊本から神戸に転居
『東の国から』出版
2月、日本へ帰化し「小泉八雲」と改名。『心』出版
9月、東京帝国大学英文学科講師に就任
二男・巌が誕生
三男・清が誕生
日本おとぎ話シリーズ『化け蜘蛛(くも)』出版
帝大を辞任。長女・寿々子誕生
早稲田大学に勤務
9月1日に心臓発作、26日に死去