【477号】カルチャールーム – 円盤で時間旅行 嶋田宣明
売れなかった名曲 リメイクされて大ヒット
音楽の手法の一つとして、昭和30年代から広く普及した楽曲のスタイルがカバーソングです。オリジナルのヒット曲を、別の歌手やバンドが違ったアレンジなどで作り直した曲のこと。日本の歌謡界で最初の頃に、大衆音楽のスタイルとして定着したのが、海外のヒット曲を日本語歌詞に書き換えて歌うカバーポップス。それまでの謡曲や浪曲、演歌などとは違って、リズミカルであか抜けたメロディーは、当時の日本の歌謡界に新しいジャンルを確立したのです。ヒット曲の二番煎じとはいえ本家の曲の良さも手伝って、そこそこのヒットを生み、ビートルズが登場する頃まで、さまざまなレコード会社がカバーポップスを量産しました。
そんな中で、オリジナルはほとんどヒットせず、カバー曲が爆発的に売れた逆転現象の曲もありました。
今回、ご紹介するのは、グループサウンズの中で実力派と謳(うた)われたズー・ニー・ヴーの「ひとりの悲しみ」(1970年)という楽曲。阿久悠が「安保闘争に挫折した青年の孤独」をテーマに書いたこの曲は、時代の空気を読めなかったのか、ヒットには至らなかったのです。しかし、この曲の良さを信じたスタッフが翌年、別れをテーマにした歌詞に変えて、尾崎紀世彦に歌ってもらったのが、あの大ヒット曲「また逢う日まで」。ズー・ニー・ヴーとしては、悔いの残る曲だったのではと、想(おも)いを巡らせるカバーソングでした。
※今回紹介したレコードは6月25日(火)放送のFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(16時~18時55分)で放送する予定です。
しまだ・のぶあき/1951年生まれ、熊本市出身。東京のデザイン会社でコピーライターとして社会人デビュー。帰熊後、広告代理店でコピーライター&プランナーとして活躍。現在はFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(火曜・16時~18時55分)、RKKラジオ「昭和歌謡大作戦」(日曜・20時~20時55分)の選曲家、パーソナリティーを務め、幅広い年齢層に昭和の曲を届けている。