バカバカしいほど愛(いと)おしい 不思議な魅力のあるレコード【円盤で時間旅行119回 嶋田宣明】
時々バカバカしいモノに、妙な愛おしさを感じることがあります。それは社会的には何の役にも立たないようなモノであっても、決して力を抜かず全力でその存在に意味を持たせようとする姿勢に感動するからなんでしょうか。先日テレビで自分の周りにあるモノ全てを、自分が作ったパターンで塗りつぶしていくアーティストを見ました。床から天井、外壁に至るまで、自分の家1軒を全てキャンバスにしたそのバカバカしさにはむしろ、清々(すがすが)しさを感じてしまいました。
昔のレコードにはどんな経緯でどんな目的で作られたのか全く想像することのできないような、お笑いやおふざけのレコードがたくさんあります。
今回ご紹介するレコードは、世に言うパロディーの部類に仕分けされるモノで、ムーンドッグスという4匹の犬がビートルズの「抱きしめたい」をカバーした「噛(か)みつきたい」というシングル。もちろん犬がそのまま歌えるわけはなく、ジャケット裏のライナーによると、サンプリングという技術が登場したことにより可能になったレコードのようです。作り上げていくプロセスを読むと、まさにそのくだらない試行錯誤によって生み出された“モノの哀れ”が愛おしくなるのでしょう。つい何度も聴いてしまう不思議な魅力にあふれています。犬がどんな風(ふう)に歌っているのか気になるビートルズファンはぜひラジオで。ちなみにB面のタイトルは「Can’t buy me love」のパロディーで、「Can’t bite me love」というのに思わずニヤリ。
※今回紹介したレコードは3月28日(火)放送のFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(16時~18時55分)で放送する予定です。
しまだ・のぶあき/1951年生まれ、熊本市出身。東京のデザイン会社でコピーライターとして社会人デビュー。帰熊後、広告代理店でコピーライター&プランナーとして活躍。現在はFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(火曜・16時~18時55分)、同「ミッドナイトコモエスタ」(水曜・0時~1時=全国コミュニティFM番組)、RKKラジオ「昭和歌謡大作戦」(月曜・21時~21時55分)の選曲家、パーソナリティーを務め、幅広い年齢層に昭和の曲を届けている。