【468号】カルチャールーム – 円盤で時間旅行 嶋田宣明
記憶の中で鳴り続けている 春に聴きたくなる曲
春夏秋冬、誰にでもその季節になると聴きたくなる曲の1曲や2曲はあると思うのですが、私が春に聴きたくなるのが「山本コウタローとウィークエンド」の1stシングル『岬めぐり』。牧歌的な笛の音に絡むギターのアルペジオ、フォークソングブームのそのさなか、チャートを登り詰めた1970年代中期のヒット曲です。作詞は昭和に数々の名曲を生み出した山上路夫、作曲は山本厚太郎本人です。岬をイメージするとき広がる景色。それは冬とか秋ではなく、暖かな日差しが降り注ぐ春。陽光に照らされ輝く海を目前に、歌われている世界は大切な人との別れを惜しむ悲しい詩なのです。
実はこの曲、私の友人が息子さんを亡くされた時に、葬儀のBGMとして会場に流していた曲。最初に聴いた時には、単純に恋人との別れの歌として聴いたのですが、何度も聴くうちに、それは友人だったり家族だったり、一番大切に思う人をなくした時の感情に重なるものを感じたのです。
60年代から始まったフォークソングブーム。反戦歌に始まり、アングラ、プロテスト、四畳半と、さまざまなスタイルのフォークソングがあった中、私にとって一番身近だったのが、抒情(じょじょう)派フォークとも言えるこの曲でした。エレキギターから始まった私のギターの歴史の最終章を飾ったのがフォークギター。今ではコード一つ押さえるのに、指の痛さと曖昧な記憶で四苦八苦する、そんな日々であります。
※今回紹介したレコードは4月23日(火)放送のFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(16時~18時55分)で放送する予定です。
しまだ・のぶあき/1951年生まれ、熊本市出身。東京のデザイン会社でコピーライターとして社会人デビュー。帰熊後、広告代理店でコピーライター&プランナーとして活躍。現在はFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(火曜・16時~18時55分)、RKKラジオ「昭和歌謡大作戦」(日曜・20時~20時55分)の選曲家、パーソナリティーを務め、幅広い年齢層に昭和の曲を届けている。