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【猫部長の業務報告】「ロース」と最後に会った日

熊本県上天草市の離島・湯島で、約250匹の猫たちの健康管理に奔走する「湯島猫部」の部長・林愛子さんが、島猫にまつわるさまざまなエピソードをつづるブログです。

島で伝説のボス猫として語り継がれる「ロース」と最後に会ったのは、2022年8月5日、いつもの焼き鳥屋さん、ではなく、その近くでBBQをしていた夜でした。

夏の初めにロースは、腎臓病の診断を受けていました。残された時間をできる限り一緒に過ごしたくて、よくロースと焼き鳥屋さんに通っていました。夏になるとオープンする屋台風の焼き鳥屋さんに、ロースはいつも一番乗りしていました。専用の椅子に座って、「鶏トロ」を焼いてもらうのが日課でした。

その夜も、ロースはいつものように焼き鳥屋さんで一杯、ではなく、一本食べたところでどうやら私の声を聞きつけたのでしょう。BBQ会場へのしのしと乗り込んできました。

「なんだ、おまえ、ここにいたのか」とばかりに私の隣にやって来て座り込み、「それ、うまそうだな。よこせよ」と私が食べようとしていた肉を横取り。その頃は病気が進行して体調や食欲に波があることが多かったので、その日、以前のような勢いで美味しそうに肉を頬張るロースを見て、とても嬉しかったのを覚えています。

その翌日、いつものように木陰で休んでいた、という目撃情報を最後に、ロースは姿を消しました。

頭では皆、これでお別れだと分かっていたと思います。それでも、どこかでひとり苦しんでいるんじゃないか、お腹は減っていないだろうか、せめて水だけでも飲ませてやれないだろうか、そんな想いで島民たちはロースの姿を探し続けました。

「ロース、どこに隠れているんだろうね…」

ロースを最後に見てから1週間ほどが経ったお盆の夕方でした。ふと、漁協の方を見ると、いつもロースが居た漁協の建物から空へ伸びるように、虹がかかっていました。湿った海風が、遠くで降った雨の匂いを運んできました。その時、胸の中に何かがストン、と落ちていく気がしました。

「もう、探してくれるな」

姿を消したのは、彼なりのプライドだったのかもしれません。最期まで、ボスらしい生き方でした。

はやし・あいこ=1978年生まれ、熊本市出身。2019~2024年に湯島地区の地域おこし協力隊として活動し、湯島に移住。「人と猫との共生」を目指して、島内外のメンバーと「湯島猫部」を立ち上げ、猫の名簿作成、避妊・去勢やワクチン接種等の健康管理などさまざまな取り組みを続けている。

インスタグラム@cat_island_yushima.nekobu

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

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