忍耐強く、そして愛情深く 若者たちと向き合いたい【となりのあの子Web版 Vol.28】
親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。
トナリビトの居場所スペースにはいろんな若者たちがふらりとやってきます。
「一人でいても、みんなでいても心地いい空間」が私たちのモットー。しかし実際にやってくる若者たちはみんな「かまちょ」。
「かまちょ」とは「かまってちょうだい」の略で、「かまってほしい状態」のことなのですが、まさにそんな子が多いです。
「ねぇ」「こっちきて」「話聴いて」。スタッフは毎日若者たちに呼ばれては、話を聴いたり、ゲームをしたり。
そんな中でも、一人ひとりが居心地よくいれて、話したいときには話ができるようにと、スタッフは工夫しながら若者たちと向き合ってくれています。
ですが、すべての要望をかなえることはできません。時間を決めて順番に話を聴くことや、緊急度が高い相談は長くなることもあります。
すると、不機嫌になったり、スタッフを攻撃したりすることで「かまってほしい」気持ちをアピールする子も。
「もういい」「嫌い」「どーでもいい」とズバッと切られることもあれば、完全無視でとりあってくれないこともあります。私たちも人間なので、心が傷つくこともしばしば。
つい先日も、スタッフが若者からかけられた言葉にグサッときて、悲しかったという話がありました。
私自身いろんな相談や緊急対応の中で、若者から心ない言葉をかけられたり、責められたり、無視されたりと、いろんな状態の若者たちと関わってきました。
そういうことがあると、私たちはついつい、「相手を傷つける言動をすることは人としてどうなんだ」とか、「こないだあれだけ相談に乗ったのに…」とか思ってへこんでしまいます。
そんなときには決まって、「私はこんなにしてあげたんだから…(○〇されて当然)」と、無意識の中で報われたい、感謝されたいと思う自分がひょいっと顔を出しているのです。
でも若者たちの言動に隠れているのは、「自分だけを見てほしい」「気にかけてほしい」という切実な思い。
「これだけしてあげたのに、こんな仕打ちを受けるなんて…」とへこむ前に、まず自分を大事にできて初めて、他人を大事にできるようになっていく―そのプロセスの途上に若者たちがいることを、忘れたくないなぁと思います。
自分たちを取り巻く大人たちの姿を見て、学び、成長していく若者たちに、忍耐強く、愛情深く、向き合っていきたいものです。
PROFILE
山下 祈恵
NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/