「何でもないもの」への愛情

アマチュアカメラマンの西本喜美子さんが先日、97年の生涯に幕を下ろしました。物干し竿につるされたり、ごみ袋に入れられている写真がSNSで話題になった喜美子さん。72歳からカメラやパソコンを覚え、そのアイデアや撮影も全て自作というのが注目され、国内外で大人気となりました。
私はプライベートでも仲良くしていただき、ランチをしたりドライブをしたり、ご自宅にも何度も遊びに行きました。会いに行くたびに「うれしい ! 来てくれてありがとう」とぎゅっと抱きしめてくれました。「うれしい」「大好き」「ありがとう」が口癖で、初めて会う人に対しても「会いたかった〜」って、とびきりの笑顔で抱きつくのです。一度でも会うとみんな喜美子さんが大好きになります。
そんな喜美子さんが大好きだったのは「なんでもない、普通のもの」撮影会。皆がお城を見上げて写真を撮っているときに、喜美子さんは石段で下を向いて落ち葉を撮ったり、何かの部品を拾ってきて「部品にも命があっとにね」と言いながらスタジオで照明を当てて撮ったり。何でもないものへの愛情がとても深い人でした。
私が最後に会いに行ったのは亡くなる10日前、入院中の病室。ひとり寂しそうに壁を見つめていた喜美子さんのお顔が忘れられません。私に気づくとすぐに満面の笑みに変わりましたが。人が大好きで、人を大事にした喜美子さんのお通夜では数えられないほどの人たちとの笑顔の写真が、一面に飾られていました。