「AYA世代」のがん 将来の生活を見据えて治療をサポート

「AYA世代」のがん 将来の生活を見据えて治療をサポート

今や国民の2人に1人がかかるといわれる「がん」。その発症年齢は小児から高齢者と多様です。今回は、その中で「AYA世代」といわれる思春期・若年世代ががんになった場合の課題、特に妊娠・出産の可能性を残す医療の取り組みを紹介します。

(=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

話を聞いたのは

熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学講座 助教 中村 美和さん
熊本大学大学院生命科学研究部
産科婦人科学講座
助教 中村 美和さん
  • 日本産科婦人科学会専門医
目次

はじめに

15〜39歳の人たちのがん 学業や仕事なども課題

AYA世代とは、「Adolescent and Young Adult(思春期・若年成人)」の略で、主に15歳から39歳までの人たちを指します。小児期から成人期への移行期が含まれるため、小児に多いがんと成人に多いがんの両方が発症する可能性があります。

AYA世代は進学や就職、結婚、出産など人生の選択をする機会が多く、社会生活における変化が大きい年代です。それだけに治療に関する不安やストレスだけでなく、学校や友人との関係、仕事や職場の問題、経済的な課題などの社会的な問題、あるいは家族との関係など多様な課題があり、年齢・年代に応じた療養環境やサポートが求められます。

AYA世代のがんの現状

10代に多い白血病 30代は乳がん、子宮頸がん増加

日本では毎年約2万人のAYA世代ががんを発症すると推定されています。がんの種類や患者数は、年代・性別によって異なります。女性の患者数が男性よりかなり多いのが大きな特徴といえます(図1)。

熊本県のAYA世代のがん患者さんは年間約300人。10代では白血病などの割合が高く、30代になると乳がん・子宮頸がんが増えるなどの傾向があります。男性では大腸がんや甲状腺がん、悪性リンパ腫、白血病が多く、女性のり患部位は乳房、子宮(ほとんどが頸部)/甲状腺、卵巣の順になっています(図2)。女性の患者数が男性より多い理由には、乳がんや子宮頸がんが他のがんと比べて若年で発症しやすいことが考えられます。

[図1]AYA世代の年齢別・男女別のがん患者数(全国)

AYA世代の年齢別・男女別のがん患者数(全国)
※国立がん研究センターと国立成育医療センターの報告書, 2019 から

[図2]AYA世代の男女別のがんり患数と上位のり患部位(熊本県)

AYA世代の男女別のがんり患数と上位のり患部位(熊本県)
※熊本県のがん登録 令和2年[2020年](第24報)から

治療

多職種や診療科で連携

AYA世代のがんの場合、どんな治療をするのかという「今」の問題とともに、学校生活や進学、就職、仕事のことなど「先」の問題まで、少し長いスパンで考えなくてはなりません。

妊娠・出産については、既婚未婚を問わず、将来を見据えて考えたい大きな課題です。化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療、手術によって「妊娠のしやすさ」が低下したり、不妊になることがあるからです。

これらの課題解決に向けて、医療の「連携」が進んでいます。熊本大学病院では、医師や看護師、公認心理士、薬剤師など多職種による「AYA世代がんサポートチーム」が、治療や就学、就労など多様な相談に対応し、サポートしています。

将来の妊娠・出産については、診療科間の連携が欠かせません。がん治療と生殖医療の専門医たちが連携して、「妊よう性(妊娠するための力)」の温存を考慮した治療法を提案しています。

妊よう性温存の取り組み

生殖補助医療を用いて子どもを持つ可能性を残す

治療によってがんを克服できた一方で、妊娠する力が低下・喪失する事態に陥ることも考えられます。そのため、事前にできる準備をしようというのが、「妊よう性温存治療」です。がんの診断後、治療法の選定とともに検討されます。

「妊よう性温存治療」では、女性は卵子や胚(受精卵)、卵巣組織を、男性では精子を、がん治療に先立って採取し凍結保存します。そうすることで、治療終了後、必要なときに体外受精や顕微授精、胚移植など生殖補助医療(ART)を用い、自分の子どもを持つ可能性を残すことができます。

ただし女性の場合、卵子を数多く採取するために排卵誘発剤を投与するなど2~4週間ほど(まれに6週間程度の場合も)の処置期間が必要です。そのためにがん治療が遅れたり、適切ながん治療を受けられなかったりするようなことが起きてはいけません。原疾患(おおもとの病気)であるがんの治療が優先です。

5年後の人生を想像

妊よう性温存については、10代の患者さんには遠い話で、保護者も含め、回復に向けて原疾患の治療に気持ちが集中しがちです。その時に思い浮かべることが難しいだけに、事前に知っておくことが、いざという時の判断に役立つと思います。

また保護者が理解しても、精子や卵子の採取は身体的負担に加え、思春期の多感な時期の本人にとって精神的なハードルが高く、前向きになれない場合もあります。5年後、10年後の自分の人生を、医療関係者を含む周りの人たちと考える機会を持つことが大事です。

熊大病院には「生殖医療・がん連携センター」があり、妊よう性温存治療に関するカウンセリングも行っています(MEMO)。

[MEMO]熊本大学病院「生殖医療・がん連携センター」に相談を

熊本大学病院の「生殖医療・がん連携センター」では「妊よう性温存治療」の取り組みや啓発に向け、熊大病院内の臨床各科を含む県内のがん診療拠点施設、生殖補助医療(ART)実施施設、熊本県と連携しながら、以下を推進しています。

  1. 小児がん、子宮頸がん、乳がん、精巣がん、白血病などのAYA世代の患者さんに対し「妊よう性保存治療」についてカウンセリングを実施
  2. ART実施施設の紹介
  3. 胚や配偶子(未受精卵子、精子)・卵巣組織などの凍結保存と長期管理

ホームページから「妊よう性温存治療について」の男性向け、女性向けそれぞれのパンフレットがダウンロードできます。

公的助成制度も

妊よう性温存治療の課題として、

  1. 原疾患が多領域にわたることで必要になる「医療連携」
  2. 女性では妊よう性温存治療までに「時間」が必要であること
  3. 高額な「費用」

―の三つが挙げられます。

課題解決に向けた医療現場の努力に加え、費用については、妊よう性温存治療と温存後の生殖補助医療それぞれに公的助成制度が設けられています。

助成の対象は、熊本県の場合、申請時の住民票が熊本県内にあるほか、年齢などの要件がありますが、利用できれば負担の軽減が図られます。

おわりに

人生の選択肢を増やし将来に向けての希望に

「妊よう性温存治療」があることを、まずは情報として知っておいてください。もし家族など身近な人が選択する場面があれば、患者本人の気持ちを大事にしましょう。若い患者さんの場合、妊娠や出産のイメージが湧きにくいかと思いますが、いつか子どもを欲しいと思う時が来るかもしれません。妊よう性を残すことは、その後の人生の選択肢を増やします。それが希望となって、がん治療の心の支えになることを願います。

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田代 浩徳理事
肥後医育振興会 田代 浩徳理事

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この記事を書いた人

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