【546号】カルチャールーム – 円盤で時間旅行 嶋田宣明 90回
大物の作品にもかかわらず… 時代に振り回されたアイドル話
1970年代後期から80年代初頭にかけて、日本の音楽界に巻き起こったのがテクノブーム。そのブームの中心にいたグループが“YMO(イエローマジックオーケストラ)”でした。独自のスタイルは、国内はもとより海外でも話題となり、若者から小学生までが熱狂する一大ブームを築いたのです。
今回ご紹介するレコードは、YMOがそれぞれソロ活動を始めた時期に産み落とされた性別不明“宇宙三銃士スターボー”の「ハートブレイク太陽族」。“はっぴいえんど”以来の盟友・松本隆と細野晴臣との手によるもので、いきなりスペーシーなシンセの音で始まるテクノ歌謡。70年代のフォークブームからニューミュージックへの流れとは別の、全く新しい時代を予感させる実験的な要素を持った楽曲だったのです。髪形は刈り上げのテクノカット、衣装は宇宙的なコスチュームと、この時代にヒットしていた“あみん”や“薬師丸ひろ子”などのアイドルとは一線を画すスタイル。しかし悲しいかなこの曲は、大物作詞・作曲家の作品にもかかわらず、ヒットとは程遠い結果で終わってしまいました。
ところがなんとこのグループ、次の年には大胆にイメージチェンジ。フリフリの衣装とキャンディーズばりの楽曲で、当初の設定〈地球に「A・I(愛)」を伝えるためにやってきた3人組アイドル〉はどこへやら。ほぼ真逆の路線にシフトしたのですが、これまたヒットとは呼べない結果に終わったのです。
レコード会社の戦略に振り回されたアイドルのお話でした。
※今回紹介した曲は10月20日(火)放送のFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(16時~18時55分)で放送する予定です。
しまだ・のぶあき/1951年生まれ、熊本市出身。東京のデザイン会社でコピーライターとして社会人デビュー。帰熊後、広告代理店でコピーライター&プランナーとして活躍。現在はFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(火曜・16時~18時55分)、RKKラジオ「昭和歌謡大作戦」(日曜・20時~20時55分)の選曲家、パーソナリティーを務め、幅広い年齢層に昭和の曲を届けている。