親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。

最近、若者の間では日常茶飯事の「ブッチ」。
ブッチとは「ぶっちぎる」の略で、学校やバイトなど行かないといけないものを理由なしで休む、連絡なしで約束を破る、無視する-などのこと。
学校を休んだり、面接に行かなかったり、バイトに出なかったり…ある若者のバイト先では、20人以上のバイト生が連絡もなしにバイトを休み、そのまま消えてしまったのだとか。

私も自立支援シェアハウスの管理人をやっていますが、入居者にブッチされた経験はたくさんあります。
約束した日に「忘れてた!」はいつものこと。
仕事の面接に行きたくなくて目の前で走って逃亡されたこともあれば、家賃の支払いの前にトイレに行く振りをして逃げた子も。

これが仕事であれば「即クビ」で終わりなのですが、自立支援ではそうはいきません。ここで「はい、おしまい」「はい、退去」で若者たちが変わるわけがないですよね。肝心なのは、やはり忍耐強く関係を築くことです。

イラスト/さいき ゆみ

ある日、私は家賃支払い日の前に逃亡を続けていた子に「どうして逃げるん?」と聞いてみました。
するとその子は「払うつもりだったけどお金が足りなくて、ヤバいなって…」と。
「逃げなくてもいいじゃん! 次はブッチする前に相談して。別に怒りもせんし」と言うと、「分かりました」と納得した様子でその子はうなずきました。
うん、どうやら分かってくれたかな…とそのときは思いましたが、翌月になるとまた脱兎(う)のごとく逃げていく…それを半年繰り返しました (笑)。

でもその半年、一緒に生活を整える中で「どうやら自分は本当に追い出されることはないらしい」と感じた若者は、実は親にも言えていないたくさんの借金を抱えていたこと、これまでの給与は全部返済に充てていたこと、そしてその返済がまだ結構な額残っていることを初めて打ち明けてくれたのです。
「そうだったんだね。ていうか今までその金額よく返してきたね!大変だったでしょ」と言うと、その若者は「次の借金まで払い終わったら、絶対にこれまでの家賃も払います」と約束し、実際にその後、滞納していた家賃を全部払ってくれました。

親を頼れない若者を支援していて感じるのは、約束を破ってしまったり、うまくいかなかったりしたとき、すぐに「もう、どうでもいいや」と再チャレンジを諦めてしまう子が多いということです。

大人側から考えると、「事前に相談して、ちゃんと話せばいいのに」とか、「一言謝れば大したことにはならないのに」とか思ってしまいます。
でも若者たちはこれまでの人間関係の中で、できなかったことを必要以上に怒られたり、言いたいことを受け止めてもらえなかったりという経験を積み重ねてきた子が少なくありません。

他人と向き合って話をするということは、やはり信頼関係が不可欠。「この人は信頼できる、この人は裏切りたくない」という気持ちが若者たちの中に生まれるまで、何度ブッチされても寄り添い続ける覚悟が大事なのかもしれません。


PROFILE
山下 祈恵

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/