親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。

だんだんと寒さが増してきました。気温が下がってくると気になりだすのが、若者たちの洋服事情。

先日、トナリビトが運営する居場所スペースにやってきたある若者は、外は汗ばむほど暑いのに長袖のセーターを着ていました。
「暑くない!?」と尋ねると、「これしかないからさ。まぁ大丈夫っしょ!」と返事が返ってきました。
逆に昨年の冬の寒い日に薄いジャージを着ていた子に、「寒くない?」と尋ねると、「これしか持ってないから、2枚重ねて着てる!」と言われたことも。

トナリビトでは若者のニーズに合う新品の衣服を寄付いただくことがあり、居場所スペースにそれらの洋服を置き、若者たちが好きに持って帰れるようにしています。

寒くなってくると冬服を持っていない若者たちがセーターやコートを持って帰ります。
特に「コートを持っていない」という子が結構多いのです。
夕方、彼らが居場所スペースから帰る頃には日が落ちて寒くなります。
ガタガタ震えながら帰ろうとする子を見て、「いやいや!コートあげるから持っていって!」と半ば無理やり上着を渡すこともありました。

イラスト/さいき ゆみ

イラスト/さいき ゆみ

今時そんな若者がいるのか、と思われるかもしれません。
ですが、私たちが日常的に接している、親を頼れない若者たちの中には、コートだけでなく、例えば「靴を一足しか持っていない」「就活に使えるスーツがない」「お祝いに来ていく服がない」という子はたくさんいます。

ちょっとした「持っていない」がきっかけになって、就職活動を諦めてしまったり、イベントやお祝い事への参加がおっくうになったり、雨が降った翌日には履いていく・着ていくものがなくて約束をキャンセルしたり…。
それが積み重なっていくと、人と会うこと自体が嫌になってしまう、人との関係が希薄になってしまう、ということにもつながりかねないのです。

日本には、裸や素足で生活しているような「絶対的貧困」の子はほとんどいないかもしれません。
でも、自分自身が置かれた環境・文化の中で自分の尊厳・プライドを保ちながら生活していくために不可欠な「最低限」の生活用品やニーズが満たされていない若者たちはたくさんいるのだと感じさせられます。
そしてこの小さな「持っていない」「できない」が積み重なると、徐々に若者たちの心から豊かさが奪われていってしまうような気がするのです。

そんな若者たちが、ご寄付で頂いた新品のすてきな洋服を身に着けると、みんなうれしそうな顔で鏡をのぞき込みます。

「最近は服も安いし、自分で買えるのでは?」と思うかもしれません。
ですが、日々親を頼れない中で学校や仕事に必死な若者たちは、好きな洋服を買いに行く気持ちの余裕がないことも。

「ぜひ若者たちに」といろいろな方が寄付してくださった洋服たちが、若者たちの日々の生活を実際に支えている現状があります。
物があふれている現代ですが、あったかい「お裾分け」が必要のある若者たちに上手につながっていくといいなぁ、と願っています。


PROFILE
山下 祈恵

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/