少しずつ旅をする日常に戻りつつある昨今。旅する醍醐味(だいごみ)とは日常からの脱出のようなモノ。非日常の環境に自分を置いてみた時、一番知っているつもりだった自分の知らない一面に出合ったりしたことはありませんか? このエッセーのテーマは音楽で旅をすること。時間やお金のないときでも、音楽なら地球の裏側から果ては宇宙の彼方(かなた)まで連れて行ってくれる…。皆さんもそんな経験を一度はしたことがあるでしょう。

私が最初に不思議な旅を経験したレコードは、細野晴臣の「トロピカル・ダンディー」。それまでの細野といえば、「はっぴいえんど」を経て、最初に作ったアルバム「HOSONO HOUSE」のイメージで、アメリカンなフォークやカントリーの印象が強かったのですが、初めてこのアルバムに針を落とした時、はるか彼方の見知らぬ国への、不思議な旅の感覚に陥りました。ただ、それは全く異質な旅ではなく、どこか今まで行ったことのあるような錯覚も混じった、ミクスチャーなサウンドだったのです。ちゃんこ鍋から取った「チャンキーサウンド」(ごった煮音楽)と呼ばれたこのアルバムは、一度日本から外国に渡った音楽が、異国の地で加工され逆輸入されたかのようなエキゾチシズムに満ちあふれていました。このアルバムの中から今回取り上げたのは、1976年発売の「北京ダック」のシングルバージョン。ブラジルの民族音楽「バイヨン」のリズムで演奏される中華な音鳴りは、コミカルな歌詞とともに、知らない国の、しかし、どこか懐かしい音楽の旅に私を連れて行ってくれるのです。

イラスト・松田アツコ

イラスト・松田アツコ

※今回紹介したレコードは6月28日(火)放送のFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(16時~18時55分)で放送する予定です。

しまだ・のぶあき/1951年生まれ、熊本市出身。東京のデザイン会社でコピーライターとして社会人デビュー。帰熊後、広告代理店でコピーライター&プランナーとして活躍。現在はFM791「昭和名曲堂コモエスタ辛島町」(火曜・16時~18時55分)、同「ミッドナイトコモエスタ」(水曜・0時~1時=全国コミュニティFM番組)、RKKラジオ「昭和歌謡大作戦」(日曜・20時~20時55分)の選曲家、パーソナリティーを務め、幅広い年齢層に昭和の曲を届けている。