【608号】「やりたいこと」自分で「やる」 大学生の起業

コロナ禍で人々の働き方にも変化が表れています。 会社員として、副業など多様な雇用形態を選ぶ人が増える一方で会社に〝雇われない働き方〟を選ぶ人も。 大学時代に「やりたいこと」を見つけて果敢に起業した3人の若者たちから、元気と勇気を届けます!

楽しめるならきっと続けられる

起業したのは、誰かに頼まれたわけじゃなく、自分で決めたこと。
好きなこと、やりたいこと、楽しめることだから、時にはつらいことがあっても「きっと続けられる」と、若者たちは希望に満ちた笑顔で話します。

[株式会社 Ciamo]古賀碧

現在、崇城大学大学院 工学研究科 博士後期課程 応用生命科学専攻に在学。2018年4月に起業し、(株)Ciamo(シアモ)を設立。学生と社長を両立

バイオベンチャーで全国の農家に貢献

県の特産品である「球磨焼酎」を醸造する時に出る焼酎粕を使い、農業に役立つ光合成細菌という微生物をたくさん増やすキットを開発した古賀碧さん(27)。崇城大の起業部に入部し、そこでビジネスの〝種〟を見つけ、成長させ、起業を果たしました。

古賀さんが大学2年生の時に創部された起業部。「ワクワクすることができそうという興味を持ちながら入部しました」。部活で最初に取り組んだのは、球磨焼酎と県産果物を使ったリキュールの開発。蔵元4社の協力を得て、商品化から販売まで手掛けました。「この活動を通して、蔵元では焼酎粕の処理に困っていることを知り、私が学んできた知識を役立てられないかと考えたんです」

これまで産業廃棄物として有料で処理してきた焼酎粕を餌にして、光合成細菌を培養することはできないかと研究開発を重ね、商品化を実現させました。「光合成細菌は農薬の減量や、農作物の生産量アップに重宝されていますがとても高価です。私が開発した『くまレッド』を使えば農家さんが光合成細菌を自分で増やせるので、『安価で手軽に使えるようになった』と、とても喜ばれています」

光合成細菌と培養液がセットになった「くまレッド」。2L培養キット(550円)からネットでも販売

現在、崇城大の大学院に籍を置く古賀さんは、起業部の部室である「SOJOベンチャーズラボ」の一角を借りてオフィスにし、商品も大学内と球磨地域で製造しています。また同大は、実践的な起業家支援を行うSOJOスタートアップラボ(株)を有しており、学生らが独自のアイデアを事業計画に落とし込んだビジネスプランの中から選定して出資しています。古賀さんの(株)Ciamoへの出資はその第2号です。

起業家育成を目指す大学のさまざまな支援にとても感謝している、と古賀さん。「起業部の先生には『くまレッド』の販売代理店を増やすことや、新商品開発の相談などに乗っていただいています。また各界で活躍されるメンターの方々と起業後も交流することができ、相談ができる関係になれたことも大きな財産です」

大学院を卒業=恵まれた環境から完全独立する時に向けて、準備も始めています。今後は製造作業を外注し、研究開発に特化していく予定だとか。「焼酎粕を使った新商品も開発したいです。私の地元である人吉球磨の力になり、ビジネスで雇用を生んで、地域貢献するのが目標です」

大学の1年後輩の後藤みどりさん(右)を取締役に。研究開発以外は全てこなす頼れるパートナー


起業を応援する大学の取り組み

県内の大学では学生の起業家精神を育てる教育を行ったりビジネスプランコンテストを主催したりと支援に積極的です。
企業の課題解決に学生が知恵を絞り経営センスを磨く取り組みもあります。

崇城大学 起業部
日本初の部活として創部 「アントレ教育」も充実

学生のフロンティア精神を育成する独自のアントレプレナーシップ(起業家精神)教育を展開する崇城大。常識にとらわれない思考や課題解決に導くチームワーク、情熱を持ち続けるマインドを身に付けます。日本初となる大学公認の「起業部」が2014年に発足し、現在57人が活動。社会の第一線で活躍するメンターを招いての講演やセミナーの実施、起業する学生への出資体制なども整備。独自のビジネスプランコンテストも開催しています。

5つのワークエリアを設定した部室「SOJOベンチャーズラボ」


熊本大学 学生ベンチャー夢プロジェクト
学生たちの夢を育もうと10年前にスタート

熊本大では学生のクリエーティブな発想を起業に向けて支援するプロジェクトを10年前から実施しています。数年以内の起業が可能な具体的な提案を支援するコースでは、現在4つのプロジェクトが進行中。その一つで手をかざすと削られたせっけんが出てくる「かき石鹸機」を用いて手荒れを防ぎながら感染予防を行うプロジェクトが、「九州・大学発ベンチャー・ビジネスプランコンテスト」の最終審査に残っているそう。学生には活動資金の支援があります。

「かき石鹸機」の試作機(製作協力:栄光デザイン&クリエーション)


熊本学園大学 企業の課題解決プロジェクト
企業と接する機会を持ち起業への興味も喚起

熊本学園大商学部では、新規起業者や新分野進出企業を支援する熊本県起業化支援センターと共同で、県内企業が抱える課題の解決をサポートする産学連携プロジェクトを昨年6月に開始しました。商学科の2つのゼミから35人が参加。企業からは4社が参加し、若者独自の視点や、SNSを使った広報展開など、既成概念にとらわれない提案に期待を寄せています。学生らは企業の現実的な課題に触れ、解決策を模索する中で経営や起業への興味を強めています。

参加企業の一社、千代の園酒造(株)の現地見学をした学生たち


[NONAMECOFFEE]岡田修人 山下璃久

立命館アジア太平洋大学出身の岡田修人さんと、東海大学出身の山下璃久さん。店の情報はインスタグラム「@nonamecoffee.official」でチェックを

コロナ禍で就活が難航「起業」が道を開いた

大学4年生の頃、コロナ禍で海外留学を断念せざるを得なくなった山下璃久(りく)さん(23)と、キャプテンを務めるラグビー部の練習ができなくなり大学のある大分から帰熊した岡田修人(しゅうと)さん(23)。就活が難航する中、共通の友人を介して知り合った2人は「今やれて、将来につながることでの起業」を選びました。

無類のコーヒー好きの2人が始めたのは、飲食店の空き時間を間借りして営業するコーヒー専門店。開業資金も少額で済むため2人で賄えました。昨年3月に中央区の繁華街でオープンした「NONAMECOFFEE(ノーネームコーヒー)」は、自家焙煎にこだわる本格派。営業は週に2日だけで、ほかの日はそれぞれが将来につながる経験を積むため飲食店などでアルバイトをしてきました。

起業してよかったことは「楽しさを追求できること」と山下さん。岡田さんは「同世代ができないような経験と、何より人脈ができたことがうれしい」と言います。

興味のある道に素直に進み、ワークスタイルにこだわらない2人は、さらに次のステップに踏み出しています。山下さんはイギリスの短期就労ビザ「YMS」(最長2年滞在可能)の抽選に当たり、2月から留学が決定。「語学とコーヒーの勉強をしてきます。あっちでも同じ屋号で間借りコーヒー店を出してみようかな」。岡田さんは「岡山のワイナリーで修業し、醸造と経営を学びます」。店の営業は2月まで。その先のことを尋ねると、「将来また2人で、何か一緒にやりますよ!」と、顔を見合わせ笑って答えました。

コーヒーショップで働いた経験を生かし、本格的なハンドドリップでコーヒーを抽出