心臓の血流が悪くなり機能が低下 虚血性心疾患に注意
「虚血性心疾患」は聞いたことがなくても、「急性心筋梗塞」や「狭心症」という疾患名は知っている人も多いのではないでしょうか。今回は、急性心筋梗塞と狭心症の2つの種類がある虚血性心疾患についてお伝えします。
(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)
話を聞いたのは
熊本大学病院 医療情報経営企画部 講師
熊本大学病院 循環器内科 副医局長
石井正将(まさのぶ)さん
・日本循環器学会認定循環器専門医
・日本内科学会認定内科医
・日本心血管インターベンション治療学会認定医
はじめに
「急性心筋梗塞」と「狭心症」
心臓に酸素や栄養を供給する動脈を「冠動脈」と呼びます。この冠動脈が構造的または機能的に障害を受けると、心臓の筋肉への酸素供給が妨げられ、心臓の機能が低下します。この状態を「虚血性心疾患」と称します。
虚血性心疾患には、血栓が急速に形成され冠動脈がふさがる「急性心筋梗塞」と、冠動脈の狭窄により心筋への血流が一時的に低下する「狭心症」の2種類があります(図1)。
[図1]虚血性心疾患の主なタイプ
症状
胸の圧迫感や強い痛み
急性心筋梗塞は、命に関わる重大な状態です。胸の圧迫感や強い痛みが典型的な症状です。胸以外にもみぞおち、喉、あご、耳、歯、左肩、左腕、背中などに痛みを感じることがあります。心筋梗塞の場合は20分以上痛みが持続することがあります。
狭心症の場合、痛みは通常数分から15分程度で軽減します。狭心症は、一時的に痛みが軽減するとはいえ、適切な治療を受けないと症状の再発や、「不安定狭心症」という重症化の可能性があります。
痛みが15分以上続くなら救急車を
心筋梗塞に陥ると、血圧の低下や不整脈などが起き、突然死に至ることがあります。心筋梗塞後の死亡リスクや心機能の低下を減らすためには、冠動脈の閉塞を早期に解除することが重要です。
日本では心筋梗塞への緊急心臓カテーテル治療の体制が整備され、救命率が向上しています。生存率を高めるためには、なるべく早く病院に到着することが不可欠です。軽い動作や安静時でも強い胸痛や前述の症状が繰り返し生じたり、15分以上持続したりした場合は、迷わず救急車を呼んでください。
診断
(1)狭心症
重要な問診 リスク因子も確認
狭心症の場合、症状の「特徴」「発生状況」「持続時間」「症状の軽減または増悪(ぞうあく)要因」に関する詳細な問診が重要です。
一定以上の運動や動作によって発作が出る「労作性狭心症」は、日中の活動中に胸痛が生じることが多いのですが、夜間や早朝の休息時にも発作が起こる場合は「冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症」が疑われます。動脈硬化による狭窄がなくても血管のけいれんによって発生するものです。
また問診で、高血圧や糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満などの冠動脈疾患のリスク因子を確認します。
必要に応じて心臓造影CTも
心筋虚血を示す心電図所見がある場合は診断が確定されます。しかし、狭心症患者でも症状がない時の心電図は正常であることが多いため、安静時の心電図だけでは診断が難しいことがあります。この場合、心臓造影CTや負荷心電図、心筋シンチなどを用いて診断を行います。心臓造影CTは特に冠動脈の狭窄を評価する際に有効で、患者の負担が軽いものです。
動脈硬化による高度な狭窄がない狭心症「INOCA(イノカ)」
最近、冠動脈の微小な血管の障害による狭心症や冠攣縮性狭心症が注目され、これらは「INOCA(閉塞冠動脈のない心筋虚血)」と呼ばれています。
INOCAでは動脈硬化による高度な狭窄がないため、心臓造影CTだけでは診断が困難です。INOCAの可能性がある場合は、心臓カテーテル検査による冠攣縮誘発試験や冠微小循環評価を行い、正確な診断を目指します。冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害とでは治療法が異なるため、適切な診断が重要です。
(2)急性心筋梗塞
心電図や血液マーカーを測定
急性心筋梗塞の診断において心電図は非常に重要です。心電図の波形のSTと呼ばれる部分の上昇(ST上昇)が観察されると、冠動脈の完全な閉塞が考えられ、緊急に心臓カテーテル検査および治療が必要です。
心筋梗塞が発生した場合、生命を救うためには冠動脈の閉塞を迅速に解除して血流を回復させることが極めて重要です。心電図でST上昇が見られなくても、ST低下や陰性T波(通常山型をしているT波が谷のようにへこんだ状態)など心筋虚血に特有の変化があれば、診断の手掛かりとなります。
また、心筋梗塞時に増加する血液マーカーを測定することも診断に役立ちます。
治療
薬物やカテーテル治療・手術 心臓 リハビリテーションも大事
虚血性心疾患の治療には薬物治療、心臓カテーテル治療(ステント治療)や冠動脈バイパス手術などの侵襲的治療、心臓リハビリテーションがあります(図2)。
[図2]虚血性心疾患の治療
薬物治療 | 症状緩和の薬 | カルシウム拮抗薬、ベータ遮断薬、硝酸薬など |
---|---|---|
心血管系疾患予防の薬 | 抗血小板薬、スタチン、心保護薬など | |
侵襲的治療 | 心臓カテーテル治療 | ステント留置術など |
外科手術 | 冠動脈バイパス手術など | |
心臓リハビリテーション | 生活習慣の改善 | 食事の栄養バランス、運動習慣、体重管理、禁煙、ストレスコーピング |
リスク因子の管理 | 高血圧、糖尿病、脂質異常症 |
薬物治療には症状を緩和するカルシウム拮抗薬、ベータ遮断薬、硝酸薬などと、心血管系の病気を予防する抗血小板薬、スタチン、心保護薬などが含まれます。
冠動脈の狭窄が高度で薬物治療だけでは症状が改善しない場合には、心臓カテーテル治療や冠動脈バイパス手術を行います。急性心筋梗塞では、早期に血流を回復させるため心臓カテーテル治療が優先されます。
さらに、生活習慣病の管理や心臓リハビリテーションにより、症状の改善や生活の質の向上を目指します。
おわりに
胸痛を軽く考えず 循環器専門医に相談を
虚血性心疾患は、生命に関わる病気であり、最近では動脈硬化による閉塞がない冠動脈疾患であるINOCAも注目されています。INOCAの診断と治療に対する理解が深まり、これまで診断がつかなかった胸痛に対しても適切な医療を提供できるようになってきました。
胸痛に悩まされている方は、早期に循環器専門医に相談することをお勧めします。適切な診断と治療により、虚血性心疾患のリスクを軽減し、より良い生活の質を実現することが可能です。
次回予告
7/26号では、「性感染症」についてお伝えします