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乳がんで命を落とさないために知っておいてほしいこと。熊本大学病院乳腺・内分泌外科教授が解説

乳がんで命を落とさないために知っておいてほしいこと

10月は「ピンクリボン月間」。乳がんの早期発見・早期治療を啓発、推進する取り組みが行われます。「月間」を前に、乳がんについて知っておいてほしいことを、熊本大学病院乳腺・内分泌外科の山本豊教授に教えてもらいました。

(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

目次

はじめに

乳がんは痛みもなく大きくなり、転移を起こすがん

いろんな年代の著名人や芸能人の乳がんの報道を見聞きすることもあり、読者の皆さんの中には、乳がんについてある程度ご存じの方もおられると思います。

乳がんの怖いところは、痛みもなく時間とともに大きくなり、別の臓器に転移を起こし、その結果としてがんにかかった患者さんの命をおびやかす状態になることです。

ここでは、乳がんで命を落とさないためのお話を記させていただきます。

乳がんとは

日本の女性で診断数1位

乳がんは、乳房にできるがん(正確には乳腺上皮から発生した悪性腫瘍)のことです。

国立がん研究センターの調べでは、日本で乳がんと診断される女性は約9万8000人(女性のがんの1位、2019年)、死亡数は約1万5000人(女性のがんの5位、2020年)です。

熊本県では、年間に約1 600人(2018年)が乳がんにかかり、約210人の方が乳がんで亡くなられています。

乳がんの発症ピークは50歳前後と70歳前後

年齢階級別罹患率(乳房 2019年)

乳がんが他のがんと大きく異なることの一つに、乳がんになる年代があります。

日本人の乳がんの発症数は50歳前後と70歳前後の2つにピークがあります(図1)。つまり、家庭や社会において重要な役割を果たしている最中にがんになりやすく、その後、乳がんで亡くなられることは家庭的にも社会的にも大きな痛手となります。

小さなお子さんを残して亡くなられる方も少なくなく、患者さんの気持ちも残されたご家族のお気持ちも言葉にできない悲しみがあります。

乳がんは私たちにとって解決すべき重要な社会問題の一つといっても過言ではありません。

乳がんの原因

食生活の欧米化や社会環境の変化が影響

30年前は生涯で乳がんになる人は30人に1人でしたが、現在では9人に1人となっています。乳がんが増えた理由は、主に社会環境の変化が影響していると考えられています。

乳がんの発症には女性ホルモンであるエストロゲンが重要な働きをしています。食生活の欧米化(高タンパク質、高脂肪食)による体格や月経の変化、女性の社会進出や社会環境の影響による晩婚化、少子化、ストレスなどの影響があると考えられています。

乳がんの治療

乳がん大切な「早期発見」と「標準治療」

乳がんができないようにすることは難しいため、乳がんで命を落とさないようにすることが大切です。

そのためには、一つは早期発見、もう一つは乳がんと診断されたら標準治療を受けることです。標準治療とは、「現時点で、患者さんに最も効果が期待でき、安全性も確認された、最良の治療」のことです。

◎早期発見

40歳以上は2年に1度のマンモグラフィー検診を

乳がんの初期症状は、しこり(腫瘤)が最も多く、他にもえくぼ症状(腕を上げると乳房の皮膚がへこむ)や乳頭異常分泌(特に赤い、黒い分泌物には注意が必要)などがあります。症状がある場合はすぐに病院へ、
特に乳腺外科の受診をお勧めします。

乳房に症状がない方は検診を受診しましょう。市町村が行う「対策型検診」では、40歳以上の人は2年に1度のマンモグラフィー(乳房エックス線撮影)検診を受けることが勧められています。

家族に乳がんにかかった方がおられるなど乳がんが心配な方は、人間ドックなどの「任意型検診」を「対策型検診」の間に受けることも良いでしょう。

乳房を意識する生活習慣を身に付けよう

ブレスト・アウェアネス 4つのポイント

ここ数年、乳がん早期発見のための“乳房を意識する生活習慣を身に付けよう〟という「ブレスト・アウェアネス」が提唱されています(図2)。ポイントは

(1)自分の乳房の状態を知る
(2)乳房の変化に注意する
(3)変化に気付いたらすぐ医師に相談する
(4)40歳になったら2年に1回乳がん検診を受診する

―という4つの行動様式です。

◎標準治療

タイプに応じて組み合わせて行う治療

※他の条件によって化学療法や免疫チェックポイント阻害薬を使用するかを決定

乳がんの標準治療では、手術、放射線治療といった局所治療と、化学療法(抗がん剤治療)、ホルモン療法などの薬物による全身治療が行われます。

乳がんの病期(ステージ=進み具合)やタイプ(がんの特徴や薬の効きやすさを基に分類)に応じて治療法を組み合わせて行います。

乳がんにはホルモン受容体(エストロゲン受容体やプロゲステロン受容体)とHER2(ハーツー=細胞表面にあるがんが増える信号を出すタンパク質)の有無で少なくとも4つのタイプに分類し、図3のようにタイプに合わせた薬物治療が行われています。

必要な標準治療のため県内の病院が連携

近年、乳がんの標準治療は高度化し、多種多様となっています。病院ごとに実施できる標準治療に違いがあります。このため県内の医療機関では、患者さんに必要な標準治療を行えるように病院間で連携体制をとっています。乳がんで受診の際には乳がんの標準治療に精通した乳腺外科医を受診することをお勧めします。

より大切なことは、患者さん自身が正しい情報を知っておくことと、担当医とよく話し合い、納得した上で治療を受けることです。

さらに詳しく乳がんのことを知りたい方は日本乳癌学会編「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版(下記)」をご覧ください。

患者さんのための乳がん診療 ガイドライン2023年版

https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/

おわりに

「ブレスト・アウェアネス」 の実践を

乳がんは痛みなどの症状が少なく、気付いた時にはずいぶんと進んでしまっていることが少なくありません。

ご自身の命、ご家族の生活を守るために無症状の時期に乳がん検診を受けることや、「ブレスト・アウェアネス」の実践をお勧めします。

執筆者

熊本大学病院 乳腺・内分泌外科 教授

山本 豊さん

・日本外科学会専門医・指導医
・日本乳癌学会専門医・指導医


次回予告

10/27号では、「糖尿病」についてお伝えします

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

乳がんで命を落とさないために知っておいてほしいこと

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この記事を書いた人

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