症状・程度はさまざま 更年期障害
閉経前後の「更年期」になるとさまざまな不調を経験する女性が少なくありません。今回は「女性の医療シリーズ」として、更年期と、その時期に起きる症状や治療についてお伝えします。
(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)
執筆者
- 日本産科婦人科学会専門医
- 日本婦人科腫瘍学会専門医
- 日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医
- 日本女性医学会ヘルスケア専門医
- 日本がん治療認定医機構認定医
はじめに
体と心に大きな変化
日本人女性の平均寿命年齢は87歳です。40代は人生の折り返しといわれますが、「第二の人生の始まり」であるとも考えられます。
とはいえ、女性は「第二の人生」をスタートすると間もなく、体と心に大きな変化が訪れる「更年期」が始まります。それまでとは異なるさまざまな変化に戸惑うこともあるかもしれません。
その世代の皆さんには、更年期について正しい知識を身に付けていただき、前向きに日々を過ごしてもらいたいと思っています。
更年期と更年期障害
女性ホルモンの減少により 高まる生活習慣病などのリスク
更年期は、閉経前後の5年間ずつ、合わせて約10年間の時期を指します。
日本人女性の閉経年齢は平均49・5歳ですので、おおむね45歳から55歳が更年期に当たります。この時期には、加齢に伴う変化や更年期特有の症状が現れます。
まず、年齢を重ねると脂肪がつきやすくなり、筋力は落ちやすく、体形も変わります。また、目には見えませんが、血管が硬くなったり、骨がもろくなったりします。
さらに、女性ホルモン(エストロゲン)の減少が高血圧や脂質異常症などの生活習慣病、骨粗しょう症のリスクを高めます。健康で豊かな生活を送るためにも、運動や食生活の見直しを早めに行い、病気の予防を心がけることが重要です。
のぼせや発汗、肩こり、耳鳴り うつや不眠などの精神症状も
次に更年期特有の症状について説明します。最も代表的な症状は「ホットフラッシュ」と呼ばれる、のぼせや発汗などの血管運動神経症状です。その他、倦怠感やうつ、不眠などの精神症状が現れることがあります。さらに、耳鳴りや肩こりなども見られます。
これらの症状のうちホットフラッシュが広く知られていますが、日本人では、倦怠感、肩こり、物忘れなどの頻度が高いとされています。
大半の女性が症状を経験 生活に支障あれば治療
大半の女性が更年期の症状を経験しますが、その程度には個人差があります。日常生活に支障を来すほどの症状が出る場合に「更年期障害」と呼ばれ、治療の対象となります。
更年期障害は身体的変化、精神・心理的要因、社会文化的な環境因子が複合的に影響し、多様な症状を引き起こすため、明確な診断基準はありません。症状に困っている人の話を聞き、一人一人の症状に応じた治療を行います。
更年期障害の治療
カウンセリングや食事療法、運動療法、薬物療法などで対応
更年期障害の治療には、以下の四つで対応します。
- カウンセリング
- 更年期は生活環境が大きく変わりやすい時期です。そのためカウンセリングが症状改善に役立つことがあります。
- 食事療法
- 肥満は更年期の症状を増悪(ぞうあく)させるといわれています。適正体重を維持することが大切です。食生活の見直しがホットフラッシュを改善するとの報告もあります。
- 運動療法
- 運動不足はホットフラッシュのリスク因子です。運動は抑うつ症状を軽減することが知られています。
- 薬物療法
- 漢方やホルモン治療があります。
ホルモン治療と漢方治療
薬物療法について詳しく説明します。
ホルモン治療は、エストロゲンの補充を行う治療ですが、子宮がある人と、過去に子宮を摘出した人とで使用する薬が異なります。
子宮がある人は、エストロゲン製剤のみの使用では子宮体がんのリスクが高まるため、黄体ホルモン製剤を併用する必要があります。
過去に子宮を摘出している場合は黄体ホルモンは不要で、エストロゲン製剤のみを使用します。
エストロゲン製剤には飲み薬、貼り薬、塗り薬があり、患者さんの希望や状態に応じて選択します。
「ホルモン治療を行うと乳がんになるのか」とよく質問を受けます。ホルモン治療による乳がん発生リスクは、肥満やアルコール摂取によるリスクと同程度かそれ以下であり、非常に低いと考えられています。ただし、定期的に乳がん検診を受けることをお勧めします。
漢方治療は、多様な症状が見られる人やエストロゲン製剤の副作用が懸念される場合に適しています。漢方は、効果がゆっくりと現れるため、長期間使用しながら症状の改善があるかを評価します。
おわりに
違う病気が原因の場合も
更年期の症状と思われたものが、実は甲状腺の異常や貧血、うつ病など他の病気が原因であるケースがあります。治療を開始しても更年期の症状が改善しない場合には、内科の受診を提案することがあります。
更年期の症状に悩む皆さんのサポートが少しでもできればと思っています。今回の記事を参考にしてもらうのはもちろん、気になる症状があれば、まずは近くの産婦人科にご相談ください。
次回予告
11/22号では、「アトピー性皮膚炎」についてお伝えします