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知っていますか 「性差医学・医療」

知っていますか 「性差医学・医療」

男性と女性ではかかりやすい病気や症状などに違いがあるのでしょうか。今回は、そういったことに着目している「性差医学・医療」について、日本性差医学・医療学会認定医である熊本大学大学院生命科学研究部の河野宏明教授、春日クリニックの清田真由美院長に聞きました。

(取材・文=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

話を聞いたのは

熊本大学大学院 生命科学研究部 健康増進学 教授 循環器専門医 河野 宏明さん
熊本大学大学院 生命科学研究部 健康増進学 教授 循環器専門医
河野 宏明さん

熊大病院で「先天性心疾患・女性の
心血管疾患」特殊外来を担当

  • 日本内科学会認定内科医、認定指導医
  • 日本循環器学会認定循環器専門医
  • 日本超音波医学会超音波認定医、指導医
  • 日本性差医学・医療学会理事、認定医
  • 日本女性医学学会代議員
春日クリニック 院長
清田 真由美さん
春日クリニック 院長 清田 真由美さん
  • 日本性差医学・医療学会評議員、認定医
  • 日本女性医学学会代議員、専門医
  • 性差医療情報ネットワーク九州支部長
  • 更年期と加齢のヘルスケア 学会理事
  • 認定産業医
目次

「性差医学・医療」って、どういうこと?

男女の違いや年代の特性に配慮する医療のことです

男女共通の病気を含む全疾患において「性差」と「ライフステージ(年代)」を考慮することで、それぞれに最適な医療を実現しようというものです。

同じ病気でも、男女で強く出る症状が異なる場合があります。一般的に知られている「典型的」な症状が女性にはあまり出ないことがあるため、その病気を疑わず受診が遅れる―といったことがあります。

また女性は、思春期から更年期以降まで、女性ホルモンの増減の影響を大きく受けます。

さまざまな男女の違いや年代による特性などに、より積極的にアプローチすることで病気の予防や適切な治療につなげ、生活の質、健康寿命の延伸に貢献する。それが、性差医学・医療が果たす大きな役割です。

「性差」が注目されるようになったのはなぜ?

女性のデータがない時期があり、医療現場で疑問が生じたから

妊婦の服用薬が胎児に重大な影響を及ぼした薬害が起き、1977年以降、世界中で妊娠可能な女性への医薬品などの臨床試験が禁止されたことが背景にあります。

「女性を守る」ために行われたこの処置が、結果的には女性の臨床データの欠落という状況を生み、徐々に医療の現場で疑問が生まれました。そのため性差に関する臨床試験や研究が90年代以降に行われ、病態や薬に対する反応が男女で予想以上に違いがあることが分かってきたのです。

現在、国の方針として、性差医療やその研究、医学教育への導入が明文化され、本格的に取り組みが始まっています。

同じ病気でも男女で症状が異なることがありますか?

「心筋梗塞」の症状は異なります「典型的」症状は男性データから定着

例えば「急性心筋梗塞」では、締め付けられるような強い胸の痛みが典型的な症状として知られています。しかし女性の場合、同じ心筋梗塞でも、異常な疲れやすさや睡眠障害、息切れ、胸の不快感といった、典型症状とは異なる多彩な症状が出る場合が多いのです(図)

つまり、「締め付けられるような胸の痛み」という症状は、それまでに蓄積された男性のデータから定着したものです。それを全ての人に当てはまる症状と信じ込んでいるため、異なる症状の女性患者の受診が遅れたり、適切な治療につながらなかったりする事態も起きました。

[図]急性心筋梗塞の自覚症状の性差比較

男性
  • 締め付けられるような強い胸の痛み
女性
  • 異常な疲れやすさ 
  • 睡眠障害
  • 動悸・息切れ 
  • 胸の不快感
  • あご・のどの痛み 
  • 食欲不振
  • 腹痛・吐き気・嘔吐 
  • 肩の痛みなど

女性によく現れる疾患は?

膠原(こうげん)病や甲状腺疾患のほか多数

生殖器系の疾患以外にも、膠原病や骨粗しょう症、甲状腺の病気などは、女性患者の比率が高い病気として知られています。ほかにも、消化器疾患では「原発性胆汁性胆管炎」、循環器疾患では「たこつぼ心筋症」など、さまざまな分野で女性に多い疾患があります。リスクファクターなどの研究が今後進むでしょう。

また、女性の疾患や健康を考えるとき、「初経の前」「月経がある期間」「更年期を挟んで閉経後」と、年代によって大きく3つに分けて考える必要があります。

日常生活で気を付けるべきことは?

女性は骨密度を下げない対策を

心筋梗塞の例のように、「典型的」な症状が女性には当てはまらないこともあるため、「この病気の症状はこれ」という固定観念にとらわれないようにしましょう。

また女性には、将来介護されない体づくりをお勧めします。介護される期間は平均で女性が12年、男性は8・5年と差があります。血圧、脂質、血糖の値に気を付けるとともに大事なのが、骨密度です。女性の場合、介護が必要になった原因に「転倒・骨折」が占める割合が高く、また、骨折すると死亡率が急増することが分かっています。

若いときにしっかり食べて運動し、筋肉と骨を強くするのが一番の予防法です。今の自分の骨密度を知り、運動や骨粗しょう症薬など骨折しないための対策をしましょう。

そして、性差に関係なく定期的に健康診断や検診を受け、健康維持に努めてください。

メッセージ

女性は「更年期」に注意が必要 「自分を守る」ことを大切に

加齢による男性ホルモン減少が緩やかな男性に対し、女性は閉経とともに女性ホルモンが劇的に減少し、体調の変化が起きます。いわゆる更年期と呼ばれる時期は、家庭においては「母」「娘」「祖母」「妻」、仕事上では「管理職」など多くの重い役割を担う場合が少なくありません。

そんな時に精神的なストレスなどが重なると、思いもよらぬ大きな不調に見舞われることがあります。家族を気遣い、日々の暮らしを守ることが常になっている方でも、「自分を守る」ことの大切さを忘れないでくださいね。

肥後医育振興会からのお知らせです

第16回熊本県医療人育成総合会議
「奨学金・学生ローン問題 ~未来社会を支える医療人材の教育費を誰が負担するのか?~」

  • 開催
    • 12月7日(日)13時〜17時
  • 会場
    • 熊本大学医学部 医学総合研究棟3階講習室
  • 参加申込

一緒に考えてみませんか。ご参加をお待ちしています

肥後医育振興会
遠藤文夫 理事
肥後医育振興会 遠藤文夫 理事

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