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大腸がんが日本で増加。予防と治療について熊本大学病院消化器外科教授が解説

がんについての情報をお届けする「がんを知ろう」シリーズ。2回目の今回は、日本で最も多くの人がかかっている「大腸がん」について、熊本大学病院消化器外科教授で熊本大学病院長の馬場秀夫さんに伝えてもらいました。

(編集=坂本ミオ イラスト=はしもとあさこ)

目次

大腸がんの基礎知識

大腸がんとは

大腸がんは高齢化や生活習慣の欧米化により年々増加傾向にあり、現在では日本で最も多いがんとなっています。

大腸は消化吸収された残りの食物のミネラルや水分を吸収し、便を形作ってためておいたり、排せつしたりするところです。長さは約2mあり、結腸と直腸、肛門からなります(図1)。この部位にがんが発生した場合を大腸がんと呼びます。

日本人はS状結腸と直腸にがんができやすく、年齢的には50歳代から増加し始め、高齢になるほど多くなる傾向にあります。近年、大腸がんは著しく増加しており、生涯に大腸がんにかかる確率は日本人の場合、12~15人に1人とされています。

大腸がんの危険因子と予防法

危険因子は老化、アルコール、喫煙、肥満 家族歴もリスクに

大腸がんがなぜ発生するのか、現時点でも完全には明らかではありません。大腸がんになりやすくなる危険因子として、老化、アルコール、喫煙、肥満などが挙げられます。日本人の食生活が西洋化した(高脂肪、高タンパク質で繊維質が少ない)ことが、大腸がんが増えた原因の一つと考えられています。

また、直系の親族に同じ病気の人がいるという家族歴は、大腸がんのリスク要因になります。特に、家族性大腸腺腫症と遺伝性非ポリポーシス性大腸がんの家系は、確立した大腸がんのリスク要因とされています。

長期間、大腸に炎症を来している潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患では、大腸がんのリスクが高いことが分かっています。

大腸がんの予防として大切なことは、食事に関して野菜などの繊維質を多く摂取しながら、高脂肪・高タンパク質食はある程度制限することです。また、飲酒や喫煙を控え、適度な運動をすることも必要です(図2)。

大腸がんの症状と検診

早期には明確でない症状 積極的な検診受診を

進行がんになると血便・下血、排便習慣の変化 (便秘・下痢、便が細い)、腹部の不快感・腹痛、腫瘤(しゅりゅう・しこり)、腸閉塞、体重減少、疲労感などの症状が現れます。

早期の大腸がんの多くは、症状がはっきりしないケースがほとんど。このため大腸がんの早期発見のためには、便潜血検査か大腸内視鏡検査を受けるのが一般的です。

集団検診としての大腸がん検診は40歳以上が対象となり、便潜血検査を行います。便潜血検査は便に血液が混在していないかを確認することで、小腸・大腸に出血を来す病変がないかを調べます。

大腸がんなどの悪性疾患だけでなく、その他の場合も陽性となり得ます。陽性の場合でも、精密検査で大腸がんと診断される人は2~3%です。便潜血が陽性の場合は、精密検査として大腸内視鏡による検査をお勧めします。

大腸がんの治療

進行程度に応じて異なる治療 腹腔鏡下やロボット支援下で外科手術を行う場合も

大腸がんは、大腸粘膜の細胞から発生し、大腸ポリープががん化したものと、正常粘膜から直接発生するものがあります。

進行するにつれて大腸の壁に次第に深く侵入していき、リンパ節や肝臓、肺など別の臓器に転移します。進行はゆっくりですが、進行程度に応じて、どのような治療を行うかが異なってきます。

早期に発見でき、周りのリンパ節に転移がなさそうな病変には、大腸内視鏡を使った局所切除が可能です。この方法では、開腹したり、腸管を切除したりする必要がなく、患者さんにあまり負担をかけずに治療することができます。

内視鏡治療の適応とならない進行度のがんには、外科的手術が選択されます。手術では、がんの部分だけでなく、がんが広がっている可能性のある腸管とリンパ節も切除します。場合によっては、人工肛門が必要となることがあります。

近年、このような外科手術を腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術で行う施設も多くなってきています。これらの手術は開腹手術と比較して、傷が小さい、痛みが少ない、回復が早いといった利点があります。半面、手術時間が長くなる傾向があり、特別な技術やトレーニングが必要です。技術を習得した医師によって安全性の高い手術が行われています。

大腸がんの中でも直腸がんの手術は、一般に難しい手術となります。直腸周囲には排尿機能、性機能をつかさどる自律神経が集まっており、この自律神経をなるべく傷つけないよう手術をするためです。

ロボット支援下手術では狭い骨盤内部でも良好な視野を確保することができ、これらの自律神経を温存しながら、肛門近くのがんを切除できるようになりました。

以上のように、がんを完全に治癒させることを目指しながら、体の機能にできるだけ影響を及ぼさない治療が行われています。

外来通院での治療も可能な化学療法

診断時からの転移病変や術後に再発した病変に対して、手術が不可能な場合には化学療法を行うことになります。使用する薬剤は大腸がんの遺伝子変異の状況などを調べて、最も効果の高い治療法を検討することが勧められています。

薬物療法の副作用は人によって異なりますが、副作用を予防する薬が開発されており、これまでの生活を続けながら外来通院治療が可能です。

大腸がんは50歳を越えると増加するため、できるだけ検診を受け、早期発見・早期治療に努めることをお勧めします。

執筆者

熊本大学大学院生命科学研究部 消化器外科学講座 熊本大学病院 消化器外科

教授 馬場 秀夫さん

熊本大学病院長
・日本外科学会 専門医・指導医
・日本消化器外科学会 専門医・指導医・消化器がん外科治療認定医・評議員
・日本消化器病学会 消化器病専門医・指導医・評議員
・日本癌治療学会 監事
・日本がん治療認定医機構 がん治療認定医 など

次回予告

7/28号では、「がん相談支援センター」についてお伝えします

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

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この記事を書いた人

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