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「一歩進んで二歩下がる」でもいい 【となりのあの子Web版 Vol.13】

イラスト/さいき ゆみ

親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。

しあわせは~歩いてこない♪で始まる「365歩のマーチ」には、『三歩進んで二歩下がる』という歌詞が出てくるのをご存じでしょうか?
若者支援の現場もまさにその通り。
トナリビトに相談にくる若者たちは、抱えている課題をひとっ飛びで乗り越えて前進していく…なんてことはめったにありません。日々前進して、引き返して、また前進して、の繰り返しです。

ある10代の若者はバイトが決まったと思ったら1日で辞めて、また決まったと思ったら3日で辞めて…やっと1週間、1カ月と仕事が続くようになったと思ったら、人間関係で挫折してまた仕事に行けなくなったり…。
安定して仕事に行けるようになるまで2年間で10カ所を超える職場にお世話になりました。

そんな若者の支援を続ける中で、三歩進んで二歩下がるどころか、果たして前進しているのだろうか、と悩むこともあります。

子どもや若者の支援には、小さな成功体験が大事だとよく言われます。
最初から大きなことができなくても、小さな「できた!」を積み重ねていくことで、自己肯定感が育まれていくと。
このこと自体はその通りだと思います。
それこそ、一歩進んでまた一歩進む。それが理想なのかもしれません。

しかし実際のところはどうでしょうか? 
社会はそんなに甘くはありません。
親に捨てられた経験や、虐待・ネグレクトなどの複雑な生い立ちや家族背景を抱えた若者たちの中には、一歩を踏み出すエネルギーがまだない子や、まだ歩き方が分からない子もいます。
そんな若者たちが社会に放り出されれば、小さな成功体験を積むどころか大きな失敗体験ばかり積み重ねてしまうこともあるでしょう。
「せっかく前進したと思ったのに、なんで」と、周りの大人が思ってしまうこともあります。

ですがそんなとき、トナリビトのあるスタッフは「一歩進んで二歩下がるでもいいじゃん!」と言うようにしています。
一歩進んで二歩下がったら、マイナス1に見えるかもしれません。
でも一歩進んだという事実は、その子にとっては紛れもない成長の証し。
二歩下がったところから再出発するときには、前よりも大きな一歩を踏み出せるようになるかもしれません。

前に進む一歩も、後ろに下がる一歩も、大人になっていくプロセスの中ではどちらも大切な一歩なのだと感じています。


PROFILE
山下 祈恵

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

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この記事を書いた人

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。

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