否定せず話に耳を傾け 気持ちを受け止める【となりのあの子Web版 Vol.22】
親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。
私たちはみんなついやってしまう「悪い癖」がありますよね。
若者たちの伴走をする上で私たちがいつもぶち当たる悪い癖…それが否定癖です。
子ども・若者たちの話を聴いていると、よく出てくるのは「とにかく聴いてほしい」「何か言う前に、最後まで聴いてほしい!」-。
そう直接訴えられると、「うんうん、もちろんこっちもそのつもりよ!」と言いたくなるのですが、これが実際にはとっても難しい。
話を聴いているつもりでも、若者の言葉を遮って口から次々と出てくるのは「いや」「でも」「ただね」といった否定言葉。
これが本当にやっかいなのです。
心の中では、若者の話を親身に聴いて寄り添うんだ!と思っていても、聴く側も人間。
自分の想定の範囲を超えた話をされると、すぐ否定的な言葉が飛び出てしまいます。
つい「それは違うんじゃないの」とか「でもそう言ってもさ」と言ってしまったり、時には感情的にイラっとしてしまったり…。
私たちは誰でも、人の話を聴くときには必ず自分自身の価値観を基準にして聴きがちです。
自分自身が大事にしてきた人生の指針、こだわり、自分が大事だと思うモラルの線引き…。
そして自分自身でも気づいていない、この個人的な価値観に反することが発生すると、自分が傷つくことを避けるために相手を否定したり攻撃したり、ということをやってしまいます。
でも忘れてはいけないのは、私たちが持っている価値観は、本当に笑っちゃうくらい全員バラバラだということです。
10代の若者たちは思春期真っ盛り。
親を頼れない若者たちは家庭の問題を抱え、気持ちがザワザワしている子たちも少なくありません。
私たちが日々受ける相談の中には、シビアな話がたくさんあります。
憤りを感じるような被害を告白されることもあります。
自分の親や、自分を傷つけた大人たちに対する攻撃的な言葉がエンドレスで続くこともあります。
そんな時、何をどこまで受け止めればいいんだろう、と悩むことも多いです。
ただ、私が若者との関係の中から教えられた大事なことは、「今」「その子」に集中するということ。
出てくる一つ一つの言葉にとらわれ過ぎず、勝手に深読みし過ぎず、シンプルに若者の気持ちに寄り添う。
これができるようになりたいなと常々思っています。
私たちはつい「この子のため」とか、「これは自分が言わなきゃ」とか勝手に意気込んで若者たちと話をするのですが、当の本人は全くそれを求めていないこともあります。
「いや、でも」と言った瞬間、若者たちの心の扉がバターンと閉まってしまうことも。
時には、「いや、それはダメでしょ」と言いたくなるようなこともあります。
でも私たちがあれこれ言わずとも、若者たちは自分で自分のことをよく分かっています。
若者の話を聴く上で一番大事なことは、若者の話を聴くこと。
否定せずに、まずは一旦若者の気持ちを受け止めることを実践していきたいです。
PROFILE
山下 祈恵
NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/