「髪切って」から始まる スキンシップの時間【となりのあの子Web版 Vol.23】
親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。
「ねぇねぇ、前髪切って!」
先日もある若者からそんなリクエストがあがりました。実はこれ、頻繁にあるお願いごとの一つ。
「髪切りに行くお金がない」「前髪だけだからもったいない」。
理由はさまざまあるようですが、みんな目的はそれだけではない気がしています。
髪の毛って、実はとてもプライベートなパーツ。
他人が気軽に触る場所ではないですよね。
でも髪を切るときは別です。
ブラシでとかして、ハサミでチョキチョキしていると、みんなくすぐったいような、恥ずかしいような、はにかみ笑いを浮かべます。
こちらも素人なので、たまには切り過ぎたり、ガタガタになったり、さらには途中で一緒に吹き出して、切った髪が宙に舞って大騒ぎしたり…。
でも若者たちは、「いや、でも結構悪くなくない!?」「まぁ、許してあげるよ!」とうれしそうに笑ってくれるのです。
「お金がもったいないから切って」から始まるヘアカットの時間は、若者たちとの大切なスキンシップとコミュニケーションの時間。
若者たちの髪を切っていると、自分が小さい頃、母親が髪を切ってくれた時のことを思い出します。
あの頃はお母さんが切ってくれるのがうれしくて、今思えばワカメちゃんのような頭だったけれど、その髪形が大好きでした。
私たちが普段一緒に時間を過ごしている若者たちの中には、口には出さないけれど、「親とのスキンシップ」の代わりになるものを求めている子もいます。
それは抱きしめることだったり、頭をなでることだったり、手をつないでお出かけすることだったり、熱がある時におでこを触ってもらうことだったり、添い寝をすることだったり―。
若者と過ごす中で自然と伝わってくることもあれば、深い関係が築けるにつれ実際に若者から直接リクエストされることもあります。
私たちは、誰も血のつながった親の代わりになりえないことはよく分かっています。でもだからこそ、若者からこういったリクエストをもらうのは、とっても光栄なことだと感じています。
親を頼れない・頼れなかった若者が、何らかの形で自分自身の抱える寂しさや痛みに向き合っているプロセスに立ち会っている瞬間だと思うからです。
髪を切ること一つにしたって、友達に切ってもらったっていいわけです。
でも、それをわざわざ大して上手でもない私たちに頼みに来てくれたことを考えると、出来はどうであれ、その子と触れ合い、楽しむその時間を大事にしたいなぁとやっぱり思います。
もう心も体も大人の若者たち。この子はあと何回髪を切らせてくれるかなぁ?
ふと、そんなことを思った今日でした。
PROFILE
山下 祈恵
NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/