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「死にたい」と言う若者たち 裏側の気持ちに寄り添って【となりのあの子Web版 Vol.31】

親を頼れない子ども・若者を支援する団体「NPO法人トナリビト」代表の山下祈恵さんが、子どもたちと過ごす日々の出来事をつづります。

「死にたい」。トナリビトにつながる若者の多くは、よくこの言葉を吐きます。直接言われるとドキッとしたり、何と返そうと悩んだりするかもしれません。

子ども・若者に関わる大人でも、「どう返せばいいか」という人もいれば、中には「自殺するかもしれないから通報した方がいいのか」と悩む人までさまざまです。

シビアなせりふが若者の口から出てくると、私たちはその言葉に飲み込まれてしまいがちです。リアクションに失敗してはいけないとか、最悪の事態になってはいけないとか、あれこれ考えてしまって反応できなかった、なんてことも。

実際「死にたい」に対する、鉄板の返し言葉なんてありません。大切なのは、その言葉の裏側にある本人の気持ちに寄り添うことです。

「死にたい」んじゃなくて、「今、生きるのがつらい」のかもしれません。その言葉を使うことでしか表現できないしんどさがあるのかもしれません。その時、その瞬間は、本気でそう思ったのかもしれません。自分の気持ち自体、分からなくなっているかもしれません。

言葉の使い方にはジェネレーションギャップがあり、「死」という言葉自体のハードルは低くなっているようにも感じます。

他の表現方法が分からないので、しんどいことがあると全部「死にたい」に集約してしまうという子もいますし、別に死にたい訳じゃないけどそう言わないとなんとなく緊急性が伝わらない気がして使っている、という子もいたりします。

私は高校生の頃、「もう無理、まじ死ぬー」というようなことをつぶやいていたら、「そんな言葉を軽々しく言うもんじゃない」と父にめちゃくちゃ怒られて、なんだかとっても不満だった記憶があります。いや、そういうつもりで言ったんじゃない、死ぬほどきついって分かってほしかったのに…と。

一方で、実際に自ら命を絶つ子ども・若者の数が多いのが日本の現状でもあります。直近のユニセフの子どもの幸福度の調査で、日本は残念なことに「心の幸福度」が調査国の中でワースト2位でした。「生活満足度が高い15歳の割合」と「15~19歳の自殺率」という2つの指標をもとに算出した結果です。

日常の生活の中で、若者たちがどれだけSOSを出せているのだろうか? そしてそれを、私たち大人はどれくらい気づき、聞けているだろうか? と改めて考えさせられます。

子ども・若者たちはいろんな表現の仕方で自分たちのSOSを発信しています。

そんなとき、指導したり、説得したり…ということの前に、「そうなんだね」とまずは受け止めて、本人が安心して気持ちを吐き出せる空間をつくって、待ってあげることができたらなぁと思います。

大人も上手に反応できなくてもいいと思うのです。「ごめんね。なんて答えたらいいか今は分からないけど、話を聞かせてくれる?」と、感じたことをありのままに伝えることも大切です。

若者たちのSOSを受け止めて、その言葉の裏の思いに一緒に寄り添ってくれる大人がたくさんいてくれたら、若者たちの未来はきっともっと良いものに変わっていくんじゃないかな、と感じています。


PROFILE
山下 祈恵

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。公式サイトはhttps://www.tonaribito.net/

記事内の情報は掲載当時のものです。記事の公開後に予告なく変更されることがあります。

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この記事を書いた人

NPO法人トナリビト代表。親を頼れない子ども・若者や社会的養護出身者を対象に自立支援シェアハウスIPPOを運営する傍ら、相談窓口・居場所スペース、就労支援ネットワーク、学習支援、普及啓発活動等を通じて支援を行っている。

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