理解とサポートの輪 広げて! 発達障害について考えよう
「発達障害」という言葉は知っていても、障害がある人がどのような生きづらさを抱え、またどのような支援や理解が必要なのか分からないという人は少なくないのでは? 4月2日は、国連が定める「世界自閉症啓発デー」です。この機会に、発達障害について一緒に考えてみませんか。
発達障害とは
“脳の発達の偏り”をきっかけとする、生まれつきの障害です。自閉症スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)の3つに大別され、それらの症状が単独で現れる場合もあれば、重複しているケースもあり、強弱も人それぞれ違います。見た目では気付かれにくく、親の育て方や本人の努力不足などと誤解されやすい現状があります。
自閉症スペクトラム症 ASD
対人コミュニケーションの困難やパターン化した興味、強いこだわり、感覚の偏りなど
注意欠如・多動症 ADHD
不注意(集中できない)多動(じっとしていられない)衝動(考えるより先に動く)
限局性学習症 SLD
読み書きや計算などが特異的にうまくできない
“特性”を能力として生かせる社会へ
発達障害の特性は、ライフステージや環境によってさまざまな生きづらさを生む場合がある一方、大きな能力として際立つことも多くあります。発達障害の特性や支援の現状などについて専門家に聞くとともに、当事者や家族の声を紹介します。
人によってさまざまな特性 “望む将来”に沿った支援を
発達障害の特性は、当事者が生活する場所や、周りにいる人など、置かれた環境によって障害になることもあれば、ならない場合もあります。
例えば、仲間の輪に入っていけない、指示が理解できない場合でも、助けてくれる人がいたり、本人に合った工夫があったりすれば、うまく生活を送ることができます。
大人になって分かるケースも
私たちは生まれてから、幼児期、学童期、成人期と成長していく過程やライフステージによって、さまざまな課題を抱えます(表1)。その過程での課題が困り事や生きづらさになったとき初めて障害となります。以前、「学生の時も社会人になってからも、何の問題もなく学業や仕事を続けてこられたのに、管理職になった途端、指示されたことはできるが、他の人を管理することができない」という方が相談に来られ、調べてみると発達に特性が見られたケースもありました。
2017〜19年のセンターへの相談件数(表2)を見ると減少傾向にあるようですが、電話相談は急増しており、成人の発達障がい者の家族やパートナーからの問い合わせなど相談内容が変化しています。そこで現在、県内3カ所(下表)に相談や支援の窓口となる発達障がい者支援センターが設けられているほか、専門員が地域に出向いてサポートする態勢も強化されています。
発達障害は個人によって特性が違い、支援の在り方もさまざまです。私たちはその方やご家族が、その困り事をどのように改善したいのか、望まれる将来の方向性に沿ってサポートを続けていきたいと思います。
発達障害の人が感じやすい「困り事」と解消法は?
※これに当てはまる人が発達障害ということではありません。また項目は一例です
参考/NHK福祉情報サイトハートネット
https://www1.nhk.or.jp/asaichi/hattatsu/
よく見られる困り事
聴覚が過敏で、「音」で極端に疲れる
耳栓やイヤホンなどで音を遮断、調整する
視覚が過敏で、「光」や「色」にストレスを感じる
メガネやサングラスを使用するほか、パソコンは輝度と彩度を下げる
偏食、味やにおいに敏感
外食の際はマスクを使用し、ガムをかむ。苦手な食べ物は無理に食べようとしない
感情をコントロールできないなど
その場を離れる。耳栓をして刺激を減らす
学校での困り事
時間に間に合わない
スマートフォンやカレンダーのアラーム機能を利用する。朝起きてから出るまでにすべきことを少なくする
忘れ物が多い
持ち物を少なくする。持ち物の準備は前日に済ませておく
読み書き、計算が苦手など
定規などで文字を隠して少しずつ見えるようにする
職場での困り事
名前と顔を覚えられない
顔だけを覚えようとせず、全身の特徴などと合わせて覚える。名刺に、会った日付や特徴、話した内容を書いておく
作業の同時進行が苦手
覚えておくことは必ずメモを取る。複数の指示の優先順位は相手や周囲の人に確認する
お話を聞いたのは
誰にも、得意なこと、不得意なことがあります。得意なことを自分の力として生かせる社会になってほしいですね
[Case 1]家族の声
ASD、ADHD、LD(知的障害は含まない)の息子さん(12歳)を育てる親の立場から
特性に早く気付けたことで 息子らしい「今」がある
生まれてすぐは、とにかく泣きやまない、疳(かん)の強い子だと思っていました。1歳を過ぎると目的物を見つけてはハイハイで突進していく、歩けるようになると常に飛び跳ねているーなど多動が見られました。視線が合わないことに加え、変化にも弱く、お風呂で私の髪がぬれているだけでパニックになっていました。
息子の特性を知るきっかけになったのは、保育園の先生の助言です。それから専門機関の支援を受けることにしました。どうしてこんなに子育てが大変なのかという腹立たしさと悲しさ、そしてこれまでの大変さの原因がここにあったのだと分かってホッとする気持ちが交錯しました。
私たち家族は、「この子が私たちの手を離れた後、一人で生きていけるよう、技術や知識、与えられるものは全て与えよう」と覚悟を決めました。水泳やボルダリングをやらせたり、コロナ禍になる前は、世界には日本とは違った文化や価値観があることを肌で感じてもらおうと、親子2人で毎年違う国を訪ねたりもしました。
息子は今春、中学生になります。文字の書き取りが苦手な半面、パソコンのプログラミングが得意です。本人は「自分の発達障害は少人数。だからこそ価値がある」と自らの特性を理解しています。早くにこの子の特性に気付き適切な支援を受けられたことで、今があると思っています。
[Case 2]当事者の声
高2で発達障害の診断を受け、うつ、強迫神経症、拒食症などと向き合ってきた当事者の立場から
発達障害の基準 社会の在り方考えるきっかけに
高校2年で発達障害の診断を受けましたが、自分が周囲の人と比べて生きづらいタイプなのだと気付き、発達障害について考え始めたのは、当事者会に参加した29歳ごろからです。
幼稚園の時から何かが常に不安でした。先生に怒られる不安、宿題が残っている不安。中学生になると、テストで100点を取らなくてはという不安、進学の不安…。仕事をするようになると、タスク(しなければならないこと)がある不安、タスクが残っている不安などが絶え間なくつきまといました。
中学生の頃から強迫神経症に悩まされ、17歳から28歳ごろは摂食障害、そして今は線維筋痛症も発症。発達障害の特性といわれている、人とのコミュニケーションや感覚過敏は自分の生きづらさとして認識しています。
熊本地震の後、ボランティアに参加するため宮崎から熊本に来て、その後3年間は仕事として支援団体で被災者支援をしていました。
当事者会に参加する中で、法人があるとできる活動が増えることを知り、2015年10月にNPO法人「凸凹ライフデザイン」を設立。現在は当事者の声を掲載した冊子の作成や、発達障害をテーマにした研修、講演活動などを当事者会の延長として続けています。
私たちは、社会の中で弱者となってしまうケースが多いですが、本質的に劣っているわけではなく、その特性は治すべきものでもないと思っています。社会全体に、人を分類しないと落ち着かない風潮があり、その中に「発達障害」という一つの基準があるのだと思います。そう考えれば、この基準は、特性を一人一人の力として認め、ありのままに発揮できる、これからの社会のあるべき姿を考えるきっかけの一つになるかもしれません。
NPO法人 凸凹ライフデザイン
アクセスはこちらから
https://unevennpo.wixsite.com/decoboco
発達障害に関する相談・親の会・当事者会窓口
気になる特性など、発達障害について相談できる機関と支援団体を紹介します。
熊本市発達障がい者支援センターみなわ
発達障害に関する困り事や対処の仕方について相談できます。本人や家族のほか、学校、会社関係者も相談可能です。
熊本県南部発達障がい者支援センターわるつ
発達障害に関する困り事や対処の仕方について相談できます。本人や家族のほか、学校、会社関係者も相談可能です。
熊本県北部発達障がい者支援センターわっふる
発達障害に関する困り事や対処の仕方について相談できます。本人や家族のほか、学校、会社関係者も相談可能です。
熊本市子ども発達支援センター
子どもの発達についての相談に応じています。
くまもと発達支援親の会めだか
発達障害の家族を持つ親の会。発達障害に関する相談、情報交換の場となっています。
熊本県発達障害当事者会Little bit(リルビット)
発達障害当事者だけでなく、支援者や家族、学生などが交流し、学び、共に楽しむ場を目指しています。
その他の団体は こちらから
https://kumamoto-minawa.com/link/当事者会・親の会/