熊本・菊鹿温泉「恵温泉旅館」|創業のキッカケは「家族愛」。一貫した想いが、人々の心のふるさとになる




熊本の温泉ソムリエ・第一号の「ぴちこ」が熊本県内の温泉宿にまつわる、歴史や人、風景、食など、訪ねた人にしか感じられない魅力を発信します!
田園風景を抜けた先、小高い丘の上に立つ菊鹿温泉「恵温泉旅館」。
山鹿市菊鹿町にある3軒の温泉宿の一つで、旅館として宿泊を提供する傍ら、地元の人たちが毎日のように通う共同浴場も備え、地域の拠り所としての役割を持っています。
創業者の想いを受け継ぎ、現在2代目社長を務めるのは、孫の田中大海(ひろみ)さん。若くしてスタートした旅館経営の裏には、一体どんな物語があるのでしょう。地域と家族を愛する田中社長にお話しを伺いました。
郷愁ただよう里山の風景と万病の湯


1996年の創業以来、地域に根差した共同浴場として親しまれている「恵温泉旅館」。
日帰り利用ができる大浴場には、温度の違う内湯と、露天風の岩風呂があり、男性用にはサウナと水風呂も備えられています。外を眺めると、里山ののどかな景色が広がり、懐かしい気持ちにさせてくれます。






温泉は、菊鹿温泉の特徴でもある、「美人の湯」と「万病の湯」として知られる「アルカリ性弱放射能温泉」。この良質な温泉を求めて、県内外から足を運ぶファンが多い温泉です。
温泉は、湯気を吸って良し、浸かって良しの「万病の湯」なので、深呼吸をすれば、肌に嬉しいだけでなく、きっと元気いっぱいになるはず。


宿泊は、離れスタイルで4室のみ。
それぞれに内湯と露天風呂が付き、源泉がかけ流しされています。和の落ち着いた雰囲気は、ほっと心を和ませてくれ、地産地消を大切に丁寧につくられた食事に、心身ともに癒されます。




祖父から孫へ。創業者の「家族愛」を受け継ぎ、新しい世代へ


「恵温泉旅館」の歴史を辿ると、1996(平成8)年に遡ります。


「土木業を営んでいた祖父が、河川工事をしているときに湯気が出ているのを見つけて。そこに桶を置いて、地域の人たちに開放していたそうです。その後、資材置き場として購入していたこの場所を、自分たちで造成し石を積み、建物を建てて、公衆浴場と家族湯をオープンしたと聞いています」(社長・田中大海さん)。
その後、家族湯の建物が老朽化したことと、「せっかくだから泊まりたい」というお客さんの声に応えて、離れ宿のある温泉旅館として生まれ変わったそうです。


創業者でもある祖父の田中憲誠(けんせい)さんが何より大切にしてきたのは「家族」だと大海さんは語ります。「家族が一番大事と常に話していて、その想いを込めて“恵”という字を使っているそうです。若くして父親を亡くした祖父は、家族が生活に困らないようにと30代の頃には土木業の会社を設立し、その後、温泉施設もスタートさせました。家族を想い一生懸命働き続けた祖父のことは心から尊敬しています」。


「ここは、私たち家族がいつでも帰って来られる場所でもありますが、それはもちろんお客さまも同じ。だからこそ、私の代になってから、『あなたのこころのふるさとでありたい』というキャッチコピーを掲げました」。


大海さんが2代目として宿に携わるようになったのは、7年前のこと。祖父・憲誠(けんせい)さんからの電話がキッカケだったと話します。
「『旅館ば継がんや(旅館を継がないか)』と。すでに父は土木業、母は福祉業を担っていたので誰も跡を継ぐ人がおらず、温泉は私に…ということだったと思います。その頃、私は福祉の勉強をしていて大学院を卒業する直前、これからソーシャルワーカーとして経験を積んでいこうという矢先でした」。
悩んだ末、旅館を継ぐことを決意。「やるからには、とことんやろう!」と帰熊したのは25歳の頃。しかし、ほどなくしてコロナ禍に突入するなど、前途多難なスタートだったようです。
公衆浴場と離れ4室。ちょうどいい規模感が地域の活力に
「地域の人たちの架け橋であり、日々のお風呂の代わりに使ってほしい」。大海さんの旅館経営の根底には、この想いがあります。客室が離れの4室しかないため、「予約が取れない宿」と言われることも多い「恵温泉旅館」。「ですが、実際はそんなことはないんですよ。2カ月先など、早めにご予約をいただければ、結構空いています」とのこと。


客室を増やし規模を大きくするつもりはない、と大海さんは明言します。しかも、公衆浴場は大人400円。離れ宿は1泊2食13,350円〜(平日)と、時代に合わせて値上げはしたものの、価格の気軽さも創業時から変わらないこだわりだとか。
高級旅館になりたいわけでもない、大きく儲けたいわけでもない、宿や温泉を愛してくれる人たちのために、長く続けていくことが大事だと教えてくれました。


「長く続けていく」ことを大事に考える理由のひとつが「菊鹿の活性化」です。無理な規模拡大をしなかったからこそ、プロモーションに頼らず、常連さんからのクチコミで人気が高まり、そのおかげでコロナ禍を乗り越えることができました。




同級生の鮮魚店から仕入れる魚や、地元の野菜、米は自家栽培のものを使用するなど、できるだけ身近なものを採用。働くスタッフもご近所さん。大海さんのアルバイト時代の先輩は、なんと移住してきてくれたそうです。
「料理修業をしていた弟も夫婦で帰ってきたので、これから飲食業もスタートする予定です。地域の人たちが夜に集う場所がなかったので、いつかやりたいって思っていたことが実現します」(田中社長)。




弟の滝大さんは、東京で茶懐石の店で腕を磨き、福岡では居酒屋で経験を積んだこともあり、日本料理をベースに幅広いジャンルの料理が得意だといいます。「弟のサポートはありがたいです。雇用を生むことは、地域にとっても良いことなので、飲食店がオープンしたら地元で働きたいという若者を採用する予定です。さらに地域が活気づくと思います」
前途多難だったスタートは、今では希望に満ちた未来に繋がっていたようです。
まとめ:「一緒に」。コミュニケーション力が大きな魅力につながっている
地域の温泉として始まった「恵温泉旅館」は、今や地域に欠かせない存在です。大海さんも「地域の人も県外の人も一緒に楽しめる場所になれば」と考えるようになったと話します。旅先で地元客と酒を酌み交わす経験は、旅人だけでなく、地域住民にとっても特別な体験です。
さらに、宿の予約を「電話のみ」にこだわる点も、「効率よりも人間関係が大事」という大海さんの考えの表れ。これは、ソーシャルワーカーとしての経験があるからこその考えだと感じました。
お客さん、旅人、地元客…と、線を引くのではなく、「一緒に」その時間を楽しむ。新しい時間の過ごし方が、「恵温泉旅館」にはあります。


泉質名:アルカリ性弱放射能温泉
源泉温度:45.5℃
夏期のみ加水あり・加温なし、源泉かけ流し
日帰り入浴料金:大人400円、1歳〜小学生200円、1歳未満は無料
菊鹿温泉 恵温泉旅館
| 住所 | 熊本県山鹿市菊鹿町池永105-1 |
|---|---|
| TEL | 0968-48-3538(宿泊予約は電話のみ) |
| Webサイト | https://megumi-onsen.jp |
| 営業時間 | チェックイン15時、チェックアウト10時、日帰り入浴 9時〜22時 |
| 休業日 | 第1水曜 |
| 駐車場 | 25台 |























